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習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン(遠藤誉)
なぜこの本
2024年は様々な政治的な動きのあった年でした。
日本でも衆議院選挙と自民党総裁選が行われ、与党の議席減や石破首相の就任がありました。アメリカでは大統領選挙と共に一部上院と下院選挙が行われ、トリプルレッド(大統領および上院と下院の過半数が共和党となった状態)になったところは記憶に新しいところです。日米以外でもインドでは総選挙、ブラジルとインドネシアでは大統領選挙が行われ、大きな政治体制の変化がありました。
そんな2024年でも政治体制が安定している大国の一つが中国。今後の地政学を占う上では中国を外すことは出来ません。
2022年の共産党大会で習近平総書記を含めた中央政治局常務委員7名(チャイナ・セブン)が選出されて2年。中国の経済不安は予断を許しませんが、5年任期のチャイナ・セブンは淡々と内政に勤しんでいるように見えます。この2022年に選出されたチャイナ・セブンの分析と3期目を迎える習近平の思想や人となりを分析したのが本書。
私見ですが、日本国内で日本語で得られる中国の情報はやや偏りがあるように感じます。その為、この大国を知るには多角的に様々な情報を得ることが重要です。
ちなみに本書とは関係ないですが、中国を多角的に見るために私が使っているメディアを2つ挙げておきます。
財新(Caixin)
独立系の経済メディア。シンガポールで勉強していた際に関係する方と知己を得ましたが、ジャーナリズムの誇りをもって活動しているのが伝わってきました。中国の経済について一次情報を知りたいときに頼っています。
新華社(Xinhua)
中国国営メディア。国営ということで割り引いて見る必要がありますが、「中国政府が何を言いたいのか」が一番よく分かるメディアです。
どんな本
筆者は戦時中の中国に生まれ、混乱期を生き抜いた経緯を持ち、中国と太い繋がりを持っているようです。ややアンチな書き方が鼻につく時もありますが、それくらいの癖はご愛敬。深い繋がりに裏打ちされた記述の数々は知的好奇心をくすぐってくれます。
先程私はチャイナ・セブンを「選出」と書きました。このチャイナ・セブンがどうやって選ばれているか、皆様はご存知でしょうか。私は全く知らなかったのですが、本書はその選出過程と過去の結果を丁寧に説明してくれます。てっきりドロドロの権力闘争の末に成り上がるものとばかり思っていると期待を裏切られること間違いありません。習近平の権力が強いことが理解できると同時に、互選の仕組みや他の常務委員も無視できないことが分かります。
なぜ独裁の誹りを浴びるリスクを負って三期目の総書記を務めるのか?
権力欲だけではない強烈な意志がそこにあることを筆者は提示しています。中国を隣の国として、習近平を一人の人間、政治家として冷静に分析することが肝要です。さもなければ中国および中国のトップが考えていることを見誤るリスクがあります。
いくつか興味深いストーリーが収められているのですが、私が特に興味をひかれたのは胡錦涛退席事件の分析。日本のメディアでもその瞬間は動画で撮られていました。
この一件とチャイナ・セブンの人事から、かつて中国政治を牽引していた共青団の落日を結びつける意見もあります。
筆者はここにも客観的事実に照らしたポイントを示してくれています。仮に胡錦涛氏が体調不良であるならば、なぜ党大会に出席したのか?ここに私は中国らしさを感じるのです。中国という国を知る良い教材の一つと言えるでしょう。
また、中国の科学、経済などへの分析も興味深いです。以前にご紹介した半導体戦争では中国は追う者として立場で描かれていました。
果たして中国は今も追う者なのか。
それはぜひ本書を手繰って確かめてみていただきたいです。
誰に、どんな時におすすめ
もちろん中国に興味がある方におすすめ。また、中国に底知れぬ不安や恐怖を感じている方にもページを開いていただきたい一冊です。不安や恐怖は無知や未知から来る部分もあります。
知彼知己、百戦不殆。
隣国の脅威に怯えるのではなく、正しく知ることからまずは始めることが大切でしょう。どう足掻いたとしても中国が日本から1000kmしか離れていない隣国であることは地球の地質学スケールの時間で恐らく変わらないのです。そうであれば、中国を色んな見方で知ることが隣国に居る私たちにとって大切なのではないでしょうか。