リミットレス時代の転職術(森本千賀子)
なぜこの本
「仕事はなんですか」
この質問が苦手です。咄嗟、「公認会計士です」と答えてお茶を濁すことも多いです。この答えがダメというわけではありませんが、おそらく聞き手の方が期待した答えに応えていないように感じてしまうのです。TPOを考えて答えをお返しすべきなのでしょうけれども…
「メインの仕事はなんですか」
と聞かれることもあります。この質問も何をもって主業とするのかが悩ましい質問。お客様なり、会社なりからお金をいただくのが仕事であることはもちろんですが、私の場合には業界団体での仕事もあり、子ども達に会計を教えることも大切なお仕事です(ボランティアであって、仕事でない、という考え方もあるとは思います)。自らの主業がやりがいの観点と時間の観点、お金の観点で一致しないこともあるのではないでしょうか。
仕事を選ぶことは人生を選ぶこと。こうした時に頼れる数少ない相談相手の御一人が森本千賀子さん。森本さんは一般的にはテレビに出たこともある敏腕転職エージェントとして世間に認知されているのではないでしょうか。
その相談ストライクゾーンはかなり広く、オールラウンダーエージェントと呼ばれるのも頷けます。仕事が思考や時間を介して人生と密接に関連している現代では、広く、多様な目でキャリアを見られる方が貴重なのでしょう。そんな森本さんの新著が 『リミットレス時代の転職術』です。
どんな本
従来、転職の限界とされてきた概念とその変化から本書はスタートします。かつては年齢、地域、業界、職種などが転職のバリアとなっていました。しかし、労働力人口の減少やテクノロジーの発展に伴う業種の拡がり、リモートで働く技術の向上などによってこうしたバリアが低くなっていることがデータと共に示されています。
マクロ的な変化を示すのみならず、読者本人の変化によるチャンスの拡がりを優しく応援する展開は仕事に疲れたビジネスパーソンに沁みるのではないでしょうか。書名は転職術ですが、転職を考えていなかったとしても、今のお仕事での成果を上げたり、今後のお仕事の幅を広げていく上で役に立つ知識、トレンドが数多く納められています。また視点が落ちがちな毎日の仕事の視座を上げるきっかけにもなるでしょう。仕事や生き方を深めるヒントが分かりやすく読みやすい文章で伝えられます。
特にサードプレイスやライフワークに関する章節はビジネスパーソン必見。終身雇用や定年という概念がなくなりつつある現代にこそ、仕事を重層的に捉えることの意義が出てきます。会社から給料をもらう働き方以外の仕事観を養っておくことは人生100年時代に必ず役に立つでしょう。キャリアコンサルタントに相談する前に本書を通読しておくのも良いかもしれません。この本の価値は仕事や転職で役立つ知識だけではなく、背中を優しく押す応援・後押しにもあります。仕事や生き方に悩んだときに読んでみるのも良いでしょう。長い仕事人生を充実させるために大切なコト、視座を得る基準器に成り得る一冊です。
誰に、どんな時におすすめ
転職する/しないを超えて、働く方々におすすめ。読み手の転職意向はあまり関係のない一冊といえそうです。
どちらかというと、せっかく働くのだから有意義な働き方をしたいと考える人が読む本というのが正しい。ステレオタイプに転職の限界を設定しがちな中高年が想定読者かもしれませんが、実際には就職活動を始める前の大学生や働き始めたばかりの新卒社員の皆さんにこそ読んでいただきたい一冊。