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人類と気候の十万年史(中川毅)

なぜこの本

USは卒業シーズンを迎えました。
この時期は各大学で各界の著名人が卒業生向けにスピーチしています。
(脱線しますが、2005年のStanfordにおけるAppleの故Steve Jobsによる「Stay hungry, stay foolish」のスピーチは日本でも大きく取り上げられましたね)

今年、Columbia SIPA(School of International and Public Affairs)の卒業式で国際政治学者のIan Bremmerがスピーチを行いました。
Ian Bremmerは地政学を齧っている私がフォローしている論者の一人。

動画や英語苦手な方は渡邊裕子さんによる要約をぜひご覧ください。

スピーチで卒業生への助言として2点挙げられました。

Change your mind. The World never stops changing.
(考えを変えなさい、世界は変わることを止めないのだから)

Listen to the other side. Listening to them and considering fairly honestly what they say will broaden and deepen your perspective
(反対の意見に耳を傾けなさい。反対の意見を聞き、相手の言うことをかなり正直に考えることで、あなたの視座は広がり、深まるだろう)

政治を主題にした助言ですが、それ以外にも当てはまる助言でしょう。

私は温室効果ガスによる地球温暖化は進行している、と信じています。
一方で地球温暖化に温室効果ガスは問題ない、という考えや、むしろ寒冷化が進んでいるという主張もあります。
本書を読み進めた時、両方の視点が見えたように感じました。

どんな本

本書は古気候学、地質年代学を専門とする中川剛さんが地球の過去を地質学の見地から解き解していくことで地球の未来や我々のモノの視座を提供してくれる一冊。
なお、中川さんは本書を読めば分かるように、温室効果ガスによる地球温暖化を否定していません。
むしろ、温室効果ガスは地球の気候変動要因の一部であり、人類がコントロール不可能な地球それ自体の活動でも変動すること。
かつ、その変動は我々の想像を絶していることを本書で示しています。

いわゆる人類史は1年単位、線形単位の細かさです。
しかし、気候、地質の歴史は文字通り桁が違います。
千年、万年、億年のまるで対数スケールの年代が当たり前となり、1人の人間が自分ごととして考えるのが難しい。
本書の特徴は非常に良い地質サンプルを最新の技術で分析し、地球の年代スケールを年単位レベルで細かく見ようとする点にあります。
この良質なサンプルを得るための技術史と科学史も興味を惹かれるところ。
地球上で限られた場所でしか取れないサンプル。
そんなサンプルの中でも、サンプルのチャンピオンが日本にあるという事を知らなかった方も多いのではないでしょうか。

考察の中で科学的な視点、思考のヒントをくれるのも本書の特徴。
第二章の「気候変動に法則性はあるのか」では、単純な系で起こるカオスを物理実験を通じて見せてくれます。
また、気候変動の主語は「誰」なのかを考えさせられるのも面白い。
地球か、生物か、人類か、日本人か、あるいは私なのか。

今年の夏はどうなるかまだ分かりませんが、昨年(2023年)は人類史上最高気温の年でした。

故に2023年は2022年より暑かったと言えます。
では2023年は有史以前の地球史上の気温の中で高い方なのか低い方なのか?
また、温暖化は人類の社会にダメージを与えそうですが、他の生物にとって好ましくないのか?
気候学のみならず統計学、心理学の領域も織り交ぜながら進むので門外漢にも飽きずに読める優しい一冊でした。

誰に、どんな時におすすめ

気候変動をニュースとして捉えている人におすすめ。
ニュースはどうしてもバイアスがかかることがあり、受け身で物事を見るようになります。
気候変動はどういった仕組みで起こるのか、地球温暖化の主語は誰なのかを考えることで、主体的で俯瞰的な気候変動の捉え方ができるようになるでしょう。
古気候学、地質年代学に興味のある人にもおすすめ。
中学、高校時代に生物、化学、物理、地学を学んだと思いますが、この4分野を横断的に科学する古気候学や地質年代学は好奇心をそそられます。
中学、高校の理科知識がなくても、易しい解説が理解を助けてくれます。
地球のこれからについて考えてみませんか。

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