シェア
佐和島ゆら
2018年8月21日 18:55
「店主は店員を守るもの」 吉永は次のバイトがあると言って、先に帰った。俺は店に帰って来るなり、お金の精算をはじめた由香里さんの後ろで、床を掃いていた。箒の動きは少し悪い。疲れたな、面倒だなという訳ではないのだ。由香里さんを見ながらしみじみ、凄い一日だったと思っていたのだ。 由香里さんはお金を数えながら言った。「こら、もっと箒を動かして。何だか、音がゆっくりよ」「あ、すいません」「
2018年8月19日 17:35
「彼女の度胸あふれる仕事ぶりについて」 吉永の顔が青ざめている。それはそうだろう。地方都市の喫茶店、地域の密着度は高いが、それでも面倒な客はやってくる。その中でも、その客は別格だった。頼んだ注文は間違ってはないはずなのに、間違っていると言いだしたり、届いた食事が遅いと言って値切りを要求したり。近所の人間関係を気にしないといけない地域でもあるのに、そのお客の女性は特別だった。 まるで困るこ
2018年8月15日 19:45
「喫茶店の新マスター候補について」 目を覚ましたら自室だった。夢を見ていたのか……映画館で、女の人が泣いているのを見たような、そんな夢を。 いやいやそんなことはない。俺は昨日の格好のままだったし、寝ぼけた頭がさえていくのにつれて、記憶が蘇っていく。そうだ、俺はあの時、寝てしまって、起きたのはスタッフロールの終わり際だった。 彼女の姿はすでになく、ハンカチも持って行かれたようだ。 俺はそ
2018年8月15日 19:41
「映画館で涙を流していた彼女について」 嗚咽が聞こえる。おかしい、今の映画のシーンは大学生が酔っ払って、エッチしたいとぼやいているだけだ。 どこにそんな泣く要素がある。「やりてーなー」「やりてーよー」 そんな言葉が行き交うだけの、聞いていて、何の感情も起こさないシーン。それなのに、切なげに声をこらえるように押し殺して、それでも聞こえる涙声があった。「どこだ」 かすかに口から