ディズニーランドを思い出す柚子のスフレ 〈菓子四季録 vol.9〉
スフレを食べて、ディズニーランドの”あれ”を思い出す。意外な共通点。
noteでの連載「菓子四季録」では、毎月ひとつ、季節の素材を使ったレシピを紹介している。今回紹介する「柚子のスフレ」は、スフレというお菓子をゆずでアレンジしたメニューである。
今回の記事を書くためにスフレを食べながら、わたしは「スフレと似ているもの」を見つけてしまった。それはディズニーランドに存在する、あるコンテンツ。答えをお伝えする前にスフレを食べる時の流れを実況するので、似ているものを推理してみていただきたい。
とその前に、スフレという言葉を初めて聞いたという方に、まずスフレとは何なのかをご紹介したい。もう知ってるよ〜という方は読み飛ばして大丈夫です!
「soufflé」という単語はフランス語で、メニューとしての名詞「スフレ」の意味と形容詞「膨らんだ、ふっくら焼き上げた」の意味がある。菓子や料理と書いてある通り、甘い味だけでなく、野菜や魚のすり身やじゃがいもなどを混ぜ合わせたしょっぱい味のスフレも存在する。
スフレはココット型と呼ばれる小さな陶製の容器で焼かれることが多く、仕上がりは、円形の容器がそのまま延長して上に伸びたような円柱状だ(コック帽みたいな見た目)。
泡立てた卵白をたっぷり入れることでボリュームたっぷりに膨らむスフレだが、特徴的なのが、オーブンから出して30〜60秒でしぼんでしまうこと。あっという間にしぼむ。巷でよく見かけるスフレチーズケーキやスフレパンケーキは、スフレの技法を応用して作られたお菓子であるが、ココット型で焼いたスフレと違い、一度膨らんだらしぼまない。
この記事でレシピを紹介する「柚子のスフレ」のポイントはそのメニュー名の通り、ゆずが入っていることだ。甘いスフレは、バニラ味やチョコレート味で作られることが多いが、甘いベースにゆずが入ることで一気に小洒落た味わいに変化する。甘くてガーリーなワンピースに、ちょっと渋いスカーフを合わせるみたい。可愛くて愛らしくて王道です!という味から、おや?一筋縄ではいかなそうだぞ…という味に変わるのだ。
そして何より、ゆずが入ることによってスフレは季節を知らせるデザートに変身する。ゆず、それは日本の冬の味。冬至の思い出。つんとおすまししたような香りはDNAレベルで訴えかけてくる。
本題に戻る。
スフレという食べものが似ているディズニーランドのコンテンツは何か。
あなたに推理してもらうために、スフレがテーブルに運ばれてきてから食べ終わるまでの流れを説明したい。
- - - スフレ実食開始 - - -
スフレはオーブンから出すとしぼみ始めてしまうため、運ばれてくる前にテーブルについておくことが必須。焼き上がってからでは間に合わない。カトラリーも皿も万全の状態で待機していなければならない。
そろそろだろうか、と思っているとキッチンからオーブンの焼き上がりの音色、続いて扉を開ける音がして、あつあつのスフレが運ばれてきた!
威厳あるコック帽さながらに、ふっくらと高く膨らんだスフレ。キリッと綺麗に焼き上がったフチのエッジも美しい。粉砂糖をふりかけられているその姿を急いで撮影して写真に収め、そのまま眺めていたい気持ちがありつつも、中央にスプーンでえいっと穴をあける。別添のアングレーズソース(*)をかける前にちょっと一口。出来立ての温度で火傷しそうになるが、卵の味がやさしい。
*アングレーズソース:卵黄と牛乳を使ったソースで、カスタードに近い味をしているが少し粘度がゆるく、さらっとしている。
卵の味に立ち止まっている時間はない。すぐにスプーンで用意したポケットにアングレーズソースを注ぐ(食べものにソースを注ぐ瞬間って好きだ。ソースが光を反射して、液体ならではの輝きを見せる)。次はソースと生地の両方をすくって一口。冷たいと熱いが同居し、スフレ本体のふわふわとソースのさらさらが重なり、バニラのガーリーな甘さにゆずの小洒落たほろ苦さが加わり、どこに集中すればいいんだ?と焦りながらも、脳は懸命にこのデザートを味わおうとする。
途中で、カリッとしたフチの部分(ここが絶品)を食べてみたり、ソースとスフレ生地の比率を変えて食べることを試してみたり。そうしているうちにスフレはしゅわしゅわとしぼんで冷めてゆき、気づけば終わりを迎えている。
- - - スフレ実食終了 - - -
どこかで味わったことがあるこの感覚。
始まれば一方通行。あたふたあたふた。
気づいた方はいるだろうか。
そう、スフレはパレードに似ているのだ。
スフレが運ばれてくるまでの時間はさながら、キャラクターたちが乗ったフロート(装飾された乗り物)が現れるのを待つ時間。
パレードが進んでくるルートで待機する必要があるところも、遠くから聞こえてくる音が始まりを知らせるところも、事前にカメラを構えていないとシャッターチャンスを逃すところも。キャラクターも装飾も音楽も盛りだくさんでどこに集中すればよいか焦ってしまうようなところも、始まったら一時停止できないところも、夢中になっているうちに気づいたら消え去っているところも一緒だ。一度始まれば、息を吐く暇はない。スピード勝負で短時間に味わう必要がある。
スフレを食べたことがない方は、ここまでの文章を読んで「スフレというのはなんて慌ただしいお菓子なんだ!」と思われたかもしれない。でもスフレの佇まいは端正でガーリーで可愛くて、出来上がりの写真だけ見たら、決してそんなことは感じさせないだろう(写真といえば、焦りながら撮影できたのがブレブレの写真だとしても、後からその写真を見ればその瞬間の楽しさが思い出されるところもパレードと一緒)。
かねてよりお菓子を食べることはライブ感が強い行為だと感じていたが、スフレほどパレード感が強いお菓子は意外と見つからないと思う。アイスにエスプレッソをかけたアフォガートも一方通行でスピード感を求められるデザートではあるが、パレードのような装飾の盛り盛り感はない。
スフレを食べたことがない方は、過去経験したパレードのことも思い出しながら、一度スフレを食べてみてほしい。スフレはなかなか外のお店で食べることができないので、作ってみるのが最も手っ取り早いかも。作業にもスピード感が求められるので超簡単ではないことは確かだが、きちんと準備をして丁寧に作れば、美しく膨らんでくれる。
パレードのほかに「スフレに似ているもの」が見つかったという方、あるいは、パレード感がある食べものをスフレ以外に見つけたという方は、ぜひコメントで教えていただければ嬉しく思う。
柚子のスフレ
ゆず。それは日本の冬の味。その酸っぱさは、爽やかとも軽やかとも少し違う、一筋縄ではいかない味わい。日本の柑橘「ゆず」とフランスのデザート「スフレ」のマリアージュ。生地にもソースにも皮と果汁をふんだんに使えば、小洒落たスフレの出来上がり。季節の味わいをどうぞお楽しみください。
材料
作り方
作り方(全文)
菓子研究家 福田淳子先生のレシピ解説はこちらです。作り方や材料のポイントが掲載されています。
スフレのことを、これほど鮮やかに綴った記事があるでしょうか?少なくともわたしは出会ったことがありません。記事を読んでいると、まるでスフレの香りが漂ってくるような気がして、子どもの頃、物語の中でお菓子が綴られる描写にわくわくしたそんな感情が蘇ってくるようでした。
わたしはもう既にスフレを食べたことがありますが、それでも、いますぐにスフレをまた食べたい気持ちにさせてくれる文章でした。スフレ食べたいなぁ。あなたも食べたくなること間違いなしの記事、ぜひ読んでみてくださいね。
柚子のスフレの菓子四季録、おしまい。