バイト終わり
いつもの搬入口の重い扉を開けると
暗闇、と、強風
雨は降っていない
しかし歩道のあちこちに建てられた
ゴム製のポールの根っこから
ぽんぽん、と不気味な音が響いて
僕は興味本位でスマホのライトを光らせる
と、そこには空になったフラペチーノの容器
透明な身体が横たわったままゴム製のポールに
何度も何度も頭をぶつけて
ぽんぽんぽんぽん泣き止まない
カラララ…と固くなった落ち葉が風で動いて
僕はスマホのライトを消して歩き出す
店の裏口は街灯がほとんどないため
視界は真っ黒で何も見えない
もう慣れた一本道を寒さに背中を丸めながら
2秒後の未来をぼー、と見つめながら足を動かす
「児玉さん、明日来ないんで」
19歳、高卒で入社した社員の秋山さんにそう言われて、手を止める。
そして、落としていた視線を上げると、その先に秋山さんがいた。ディズニーピクサー作品で見たことあるような全体的に丸い、天パの青年。それが、僕が抱く秋山さんのイメージだった。
「だから明日のシメは元澤さんと河本さん、あと未来。未来は21時半までなんですけど。それで、今日河本さん具合悪かったじゃないですか? だから一応は様子見で、もし明日も河本さん具合悪くて早退したら、俺出れますから。俺は明日21時までなんですけど」
あ、はい。わかりました。
そう返事をして僕はまた視線を戻す。
出勤簿には【22:】で止まった時間
ノックしたペンを滑らせて、【31】と書き込む。
「文句なら児玉さんに言ってください」
秋山さんの声にまた視線を上げる。
いそいそと手を動かして仕事をしていても、まだ幼さの残る秋山さんの顔は分かりやすくふて腐れていて、まるで駄々っ子の子どものようだった。
さっきのセリフは僕に向かって言ったのは間違いないが、僕自身、児玉さんが明日出勤しないことに文句はなかったので、僕にはその言葉自体が秋山さんの児玉さんに対する文句のような言い方に聞こえた。
「体悪くしてるんですか?」
そう僕が言うと秋山さんは短く、そして小さく、うーん、と言って「プライベートな内容です」と言った。
僕は多分「へぇ」とも「ふぅん」とも言えるようで言えない、中途半端な相槌を打ったと思う。そして、そこで会話は途切れた。
突風が吹き、俺は小さな肩を縮こませ目を瞑った。
なぜ、人は風が吹くと目を瞑ってしまうのだろうか?
そんな些細な疑問さえ、この暗い一本道には影になって見えなくなる。