常盤坂もず

文芸×アート団体 文芸誌「煉瓦」(@renga_bungaku)の企画・運営/創作・朗読グループ「RE:present」(@REpresent_poem)企画・運営/第一詩集『マリンスノーの降り積もる部屋で』(2020年コールサック社)

常盤坂もず

文芸×アート団体 文芸誌「煉瓦」(@renga_bungaku)の企画・運営/創作・朗読グループ「RE:present」(@REpresent_poem)企画・運営/第一詩集『マリンスノーの降り積もる部屋で』(2020年コールサック社)

最近の記事

夏追い

無音。 から一瞬の反動 痛みを感じる前に 現れた きみは透明で 夏の朝みたいだね いってきます、って 扉を開けたときの 一面の真っ白 暑さは 脳を壊すには 十分すぎるほどに 机ごと透明になった きみのスカートを 揺らしたくて 点けた扇風機が 私を正常に 戻す きみを見てはいけない きみと話してはいけない だから私はプールを休んで 保健室で眠った 水中の端っこでうずくまるきみの 夢を見たくて 薬品の匂いのする窓に 入道雲が反射してるの 初めて見た 初めて見た きみは透明

    • 夢うつつ

      きみに手作りの性教育を施してあげる 添加物だらけの市販品じゃなくて 春になれば自然発生する花や虫のような 音のない心臓の鼓動 恋愛という名の合成ゴムを被せて 安全神話の下で射精するような 愚かなことには声をあげ 然るべき手段で罰する 琥珀の中のダイナソー 強い薬に頼ってばかりの スカスカになった幹には びっしりと外来種のモザイク画 (そっと宮廷の壁画に飾ろう) きみにネットで拾った死体の写真を送るね 本物かどうかなんて無意味なことは聞かないで 重要なのはそこではなくて 商品

      • 淋しい電波塔

        淋しい電波塔 良いものを見たらなにか作りたくなる 感受性なんて誰にでも伝わるものじゃない そういうエネルギーの流れの 連鎖の絶えない環境に身を置いていたい 僕は そういうエネルギーを放つだけの 悲しい一つの電波塔になりたい 今年の収穫を終えた禿げた畑の広がる冬の 夜に一人たたずむだけの 淋しい一つの電波塔になりたい 絵:二歩

        • 海と血

          青い果実は心臓のように 脈打ちながらのたうって歌う ハミングのような嬌声と 裏声のような怒号を連れて 歌詞のない深海の森で目を開けよう 雑に剥がされたシールが 脳のちょっと懐かしいところで 苔むしながら囁いているのに わたしは海に素足を浸して 手首にカッターを突き立てている 流れた血は月に引かれて肘の先 ぽたり、と落ちると水面で滲み すぐに見えなくなったから あなたは海に来るたびに わたしのことを思い出せばいい

          スタンプ

           4/1(月) 訳ができても伝わらない 曖昧なニュアンスの心情が 鉄条網に絡め取られて 血まみれのタイルの上 息も絶え絶えにのたうち回る 熱帯魚のように滑稽な表情の スタンプを送るよ 10:31  4/2(火) ニコちゃんマークは いつだって黄色い顔で 国民性にそぐわない表情には 嘘もお世辞もないみたい 18:54  4/3(水) 血文字で書いた「I love you」 (生まれた土地の香りとか) グラフィティーアートの「f××k」 (夏の湿った空気とか) 首筋に彫ら

          川柳10句『千羽鶴』

          成人式のゲストに強い牛来る 誰にでもやさしいきみは悪い人 干からびた愛を噛むまだ味がある 捨てられぬ田舎も寝たきりの父も 隣室の人が目覚めた音がする 折り鶴を広げれば「死」と書いてある 咳き込めば舞うあたたかき父の骨 パチンコに勝っても負けても吸うタバコ 1人とて欠けてはならぬ千羽鶴 沈黙は加担か 塩をひとつまみ

          川柳10句『千羽鶴』

          杪夏

          爆発音みたいな8月 それが市販のロケット花火だと気づいて9月 打った後で言う「危ない!」みたいに たぶん、今年の夏も暑かった いつの間にか溜まっていた写真を見返す そのどれにも僕の姿はないけど 等間隔に配置された電灯が 揺れる夜のビーチみたいに 波に浸された素足にまた砂がかかる 知らない人に叱られて すっかりしらけた夜の海 誰かが言う「もう帰ろっか」を待つ 束の間の無風 写真・大城翼 #詩 #現代詩 #写真

          血曜日

            やろうと思えばなんでもやれる   ナイフを握れば人だって殺せる   自分に向ければ死ぬことだって   できるけどやらないだけ/昨日   約束したことを明日やぶること   になっても今日はふたり手を繋   いで眠りたい/閉じた瞼の裏側   眼の奥で燃える街があるんだ/   真夜中のキッチンで生ぬるい水   を飲んだ時ふいに食洗機の包丁   を手にしてあなたの眠る寝室へ   向かったこと/あなたの隣に寝   転がった僕に気づいたあなたが   寝ぼけたままおでこにキスして   

          ぼくの世界

          ぼくのせかいは再生から始まる マイクに風が当たって ボゴボゴっとくぐもった音がする 窓の外はなんにもないのに 車の走る音や人の話す声が聞こえる 風が吹いて、芝生が揺れる まるで海みたいに ぼくのせかいに冬が訪れる ぼくのせかいにあるものは 三流画家のデッサンみたいに 雑なかたちの輪郭線が いたるところに絡まっていて いちばん大切なものを隠している あ、いま 「死ね」ってことばが聞こえただろう ぼくのせかいには それを言ったひとがいるから ぼくのせかいには それを言われたひと

          ぼくの世界

          飛ぶ鳥の夜はきみのため

          バスタブの中 透明な水に浸って 体育座りしている裸と 裸のまま涙を流している 浴室の水面に落ちる滴が 落ちる滴が落ちる音を聞く 霧が立ち込める森の 朝に湿る花弁のつややかさに 眩しくて目を閉じそうになって 涙が、涙が溢れそうになって なってた。(飛ブ鳥ノ夜ハキミノ キミノタメ)──落ちる音もなく落ちる 落ちた、落ちて、いった一滴の 水に映り込む私が私は私だと 気づかずに目を 目を見開いた。(飛ブ鳥ノ夜ハキミノ キミノタメ)飛ブ鳥ノ夜ハキミノタメ 飛ぶ鳥の夜はきみの(滴の (落

          飛ぶ鳥の夜はきみのため

          春の終わりに

          考えて、考えていない 風の冷たい夜に 例えば、街灯に照らされた桜の花 なんとなくスマホのカメラを起動させて 一、二枚撮る 月は厚い雲に覆われて見えない けど、じんわり滲む光はわかる データフォルダの中 ぎゅうぎゅうに敷き詰められているのは 切り取られた時間と時間の狭間で たしかに息をしていたはずの透明な自分自身だ 近所のコンビニこホットカフェラテはMサイズしかなくて、遠い国の戦争は昼休憩のワイドショーで知って、マスクでもちゃんと伝わるように表情筋に力を入れて、笑った 直

          春の終わりに

          LOST EP

           桜の花、水面のきらめき  虹の半分、夕焼けと雲。 いつまでも続く毎日のために 消え去っていく今日、昨日 タバコを一本くれたお前のために 残せるものを探して 言葉の代わりに吐く煙 抱きしめるかわりに押すシャッター 昨日もたぶんある景色のなかで その時しかない空気を吸った Everything's gonna be all right. 古い洋楽でそれだけ聞き取れた 意味は誰かが教えてくれた 給水塔、夕空に俺たちは影になって散らばる 映画にならない毎日だから せめてこう

          死ぬよりもたしかに、消えるよりも遠く

          妄(@アテラレタ) 躁より出て 鬱より青し夏の嘘 180度回転した頭で緑のゲロをぶち撒けて 眼鏡のおじさんはあわあわしてる。 みっともない 安いアルコールの匂いまとって 飛ぶ虫たちの求愛は走光性を見習えば 上手に抽象化してあげるよ 座ったまま、輪郭をとろけさせて ずっと、ずーっと回り続ける 東海岸沿を南向けに走行しているマップの写真 私立図書館下のファミマの裏路地にいつも立っている白い服の女の顔を見ては行けない よく吠える犬と微動だにしない猫 ゴキブリは外で見る分には怖く

          死ぬよりもたしかに、消えるよりも遠く

          ずっと浮遊感

          ずっと浮遊感/ソフトウェアアップデートは永遠にロード中。自転公転の果てに消滅する地球みたいにストレスで自殺。いじめで自殺。無意識に足をひたす海はちゃんと冷たい。透明な風がうるさくて苛立つ。ポケット越しのバイブレーション。たぶん親から。 ずっと浮遊感/季節は混ざり合って、もうよくわかんない。毎朝毎晩毎日新しいニュースが飛び込んできて、もう処理が追いつかない。興味があるトピックだけに張るアンテナ。この地球はひとつなのにアカウントの数だけある世界。浴槽の中でぷかぷか浮いてる脳におや

          ずっと浮遊感

          もう何も覚えてない、ということだけ確かに覚えている或る夜の日の光跡露光

          生ぬるいコーラ弾けた 汚れたゆりかごゆらゆら揺れた たどる季節の走馬灯が託した過去 刺青の夜 38度、適温のお湯溢れ 肉と肉その毛と毛、また血と血 夢見がちな瞳は作り物で紛い物のガラスの目玉 人形の様 葬 心臓抄のめくれた目次 今宵はミイラの夜明けみたいな イミテーションと心理の境界を ふらりふらりと彷徨うような ワカラズ屋たちの宴の絵巻 青姦通りをそのまま進めば見えてくる 真っ黄色ギラギラの街並み 空を映した川面は墨汁 穴という穴から染み入りやがて 心までも染めてしまえ 誘

          もう何も覚えてない、ということだけ確かに覚えている或る夜の日の光跡露光