kagachi
月が岳を越えた頃
太陽は海に沈んで
今日は昨日になった
民家の灯りは少しずつ消えて
24時間営業のスーパーの第2駐車場には
僕の黒い軽自動車だけが
エンジンをつけたまま眠っている
残暑のキツい亜熱帯の夜
エアコンをつけたまま隣で眠る彼女の
今にもバラバラになりそうな手足の
球体関節部分に触れたい
起こさないように慎重に
中指の先っちょを当てて
つー、っと優しくなぞりたい
発熱する白い肉を刮ぎ取るように
舐め回したい、齧りつきたい
涎まみれでしゃぶりつきたい
欲望を逸らして服を捲れば
薄皮一枚引っぺがして
肉を削いで、臓器を外し
彼女の奥の本当のところを
アルコールを湿らせたガーゼで拭いて
透明な注射針を忍ばせれば、もう
僕は、たちまちのうちに注入したくなるだろう
僕の中で育った渾身の嘘の種を散らして
入れてあとは実がなるまで待つのだ
外していた臓器を入れ直して
肉を縫い合わせ薄皮を貼り付けて
着衣を一通り整えたなら
ゆすり起こして抱きしめよう
まだ寝ぼけ目の君にキスをして
そろそろ帰らなくちゃ、と囁こう
乾燥した空気の中で沈黙する
二匹の澱となって腐るまで
愛の呪文に疲れて眠りに就けるよう
毒牙を綺麗に拭き取ったあと
舌先を噛んで、血を滲ませて
禊の儀式をはじめよう
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