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お気に入りの評論――村上陽一郎「科学と世界観」③(2014年2月9日)

 先に私はメルマガを発行していたことをお知らせしましたが、廃刊にしたメルマガの中で、もう一度みなさんにも読んでほしいと思う情報をウェブリブログにて再録していました。
 教科書に採用されていた評論の解説もそのひとつでした。しかしながら、それらの閲覧数が他の記事をはるかに上回っていることが大変気になり、いくつか思い当たることがありました。

 noteにもそうした危険のある記事を収録するか、収録するにしても有料にしてしまうかで悩みましたが、結局そのまま掲載することに決めました。学校での宿題のためにこのページにたどりついた方は、どうか上で紹介した記事も合わせてお読みください。よろしくお願い申し上げます。

 本記事に関しましては、これまでメルマガのみで公開しており、旧ブログでも未収録です。

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 発行人は古典が専攻ではありますが、評論についても古典と同じくらい(自分で読むのも、教えるのも)好きです。そこで、これまで扱ってきた評論の中で、気に入った作品を紹介し、考察してみたい――という考えがきっかけで始めたコーナーです。

 前々回から、村上陽一郎氏の「科学と世界観」を分析していますが、読解のためにとった実践なども紹介していきます。

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 「科学と世界観」には、内容に沿って六つの小見出しが付けられています。

 「壮大なプログラム」
 「救済史観の変遷」
 「世界観としての位置」
 「南北の食い違い」
 「自然の流れの中に」
 「二つの力の緊張関係」

 今回は、「救済史観の変遷」です。

 前回紹介した「一文要約」と称した作業プリントにおいて、この段落の問いは以下のようなものです。

問二 第二段落の小見出しは「救済史観の変遷」となっているがそれはどういうことか。第二段落中より、それが最もよくわかる一文を抜き出しなさい。

 さて、第二段落で重要なのは、「変遷」です。「変遷」というのですから、ある状態からある状態への変化を把握しなければいけないということです。しかし、語の意味をおろそかにする生徒は、ビフォアーかアフターかのいずれかしか記さないことがあります。

 形式段落の第一段には、「いわゆる救済史観がそれである。」とある直後に、詳細に、ビフォアーの「救済史観」の説明が記されています(「人類の歴史は神の手の導くドラマであり、その最後の時点において、神の審判と救済とが待っていると考えられていた。この歴史の終末は、救いの喜びと同時に怒りと悔いと恐怖を示すものだった。歴史はあくまでも神の意志によって動くものだと考えられたのだ」)。

 これだけでは、「変遷」はとらえ切れません。

 「変遷」をしっかり見据えれば、「救済とは、神の手による審判でも救済でもなく、人間自らが人間を悲惨と病苦から救い出すこと、未来の現世に天国を創出することになった。」の一文(形式段落の第四段)がふさわしいです。続けて、アフターの「救済史観」の詳細が記されています。

 その「世俗化」された救済を実現するためには、人類は、一方においては科学技術を、そしてもう一方においては、これまで人間の解放・救済の妨げとして働いてきた旧時代の政治的=社会的=宗教的桎梏(しっこく)の革新を、標榜(ひょうぼう)して前進しなければならない。

 生徒が初読で作業した、第二段落の内容の要約、重要な一文の抜き出しを手がかりとして、段落全体の構造を板書した後は、復習として以下のような問いを与えて、確認をさせます(次の授業の開始時ということも多かったです。それだとその日の授業の導入にもなります)。

問三 第二段落において、「『世俗化』された救済」とは何か、二つ答えなさい。

問四 問三の「『世俗化』された救済」は何によって可能となったか、二つ答えなさい。ただし、それぞれ六字以内の語とする。

問三の解答例は、「人間自らが人間を悲惨と病苦から救い出すこと」と「(人間自らが)未来の天国を創出すること」です。

問四の解答例は、「科学技術」と「(旧時代の政治的=社会的=宗教的)桎梏の革新」です。

 私の教えている生徒たちは語彙力・読解力が高くはないため、解答させる際に「いくつ」であるとか「何字」という、抜き出しをベースとした問題でないとすぐにあきらめてしまします。よって、解答自体がぎこちなくなってしまう時があります。しかし、とにかく文章全体の流れを追うことを重視し、基礎的な読解力を身につけさせることを第一としているため、細かい点で目をつぶることもあることをご了承下さい。

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第三段落以降も読解に即した発問や課題と知った実践を示していけたらと思います。

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