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歴史・古典文学関係のコラム

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連載中の「鳥取寺社縁起」(シリーズ物で現在は「宇部神社縁起写」の現代語訳)と「『逃げ上手の若君』全力応援!」、単発エッセイ等をこちらに保管しています。  ※「摩尼寺縁起」「因幡堂…
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【『逃げ上手の若君』全力応援!】(171)「ジュンサイ」のおがずだけでも及第点だったはずの時行は、プラスアルファの解答で後醍醐天皇との「無礼講」を果たす!? 帝ですら逃れられなかった「しがらみ」が解かれる現代で……ある問題提起

 「朕の食べたいおかずを当てて調達して来い」  「ジュンサイ」とともに「食べたい物」を当てられなかったら「死罪」という、よく意味のわからない後醍醐天皇の要求に対して、時行の「はぁぁ⁉」で終わった『逃げ上手の若君』第170話でしたが(編集部の付けた「正気の沙汰とは思えない……!」のコピーが秀逸)、帝に意見する時行はまさに北条DNA炸裂の「ありのままの相模次郎」(編集部注では「相模守高時の次男坊」)だなと思ってしまいました。  ところで、第171話の冒頭で光る帝の両目の場面の

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(170)シイナの「宿願」とは本当に「主君のため戦い抜く」ことなのか!? 多大な損失と僅かな恩賞への不満は断ち切った伊達行朝と奥州武士たちが手にした「価値」とは……?

 「いいえ いいえ! 今度こそ主君のため戦い抜くのが私の宿願!!」  顕家の最期に涙しながらも前を向く時行のアップで終了した感動の第169話ーーからの、「発情!! 戦闘レディ!!」の編集部のキャッチコピーで始まる『逃げ上手の若君』第170話は、前回とのギャップに〝ええっ?〟と、少しだけ引きました。  単行本第17巻の表紙がシイナだしな……などと商業的な展開を考えてしまいながらも、〝シイナってこんな面白いキャラクターだったんだ〟という新鮮な驚きをあらためて感じてもいます。シイ

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(169)北畠顕家が奥州の「花」たちに託した未来……その始まりの地である「霊山」をいつか私も訪れて訪れてみたい

 『逃げ上手の若君』第169話で花と散った北畠顕家についてあれこれ書くのは、何となく野暮な気がしている私がいます。しかしながら、顕家に付き従った粗野な奥州武士の一人が、その思い出をつたない言葉で語っているよ……くらいの気持ちで、私が顕家の最期に抱いた様々な思いについて読んでいただければ幸いです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  「松姫 何度言っても離脱せんから汝も死地だ 後悔は」  顕家の問いかけにかぶりを振る松姫。彼女が無口なの

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(168)毅然とした北畠顕家を前に〝神妙〟な態度の高師泰は兄・師直よりも真人間!?……素直さとは正反対の「嘘」こそが邪悪な力のトリガーだったことに気づく

 「大した男だ 北畠顕家」  これまでどんな場面においても一貫して直情的で粗暴な高師泰でしたが、おそらく顕家が「化粧直し」を終えるのを待っているのだな……というのが想像されました。  顕家、師泰の他、北条泰家(と母・覚海尼)もワンカットだけ登場したのですが、『逃げ上手の若君』第168話における彼らに共通しているあることを、私は感じ取りました。ーーそれは、自分の置かれている立場、目の前で展開する出来事に対して〝神妙〟であるというということでした。  〝神妙〟というのは、現代で

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(167‐2)「逃げる」兵を追って「鬼さーんこーちら」の術中にはまる……かくして、「虫」にかき乱された「逆賊」の未来はこんなにもヤバ目!?

 『逃げ上手の若君』第167話は、目に涙を浮かべた時行の「鬼さーんこーちら」という場面で終っています。  「古今東西の完全勝利が語っている」「史上最強の戦術は… 「逃げる」ことである」  ここでは、「カルラエの戦い」「カルカ河畔の戦い」「 アインジャールートの戦い」「耳川の戦い」という戦いの名があげられています。詳しくない私は、もちろんYouTubeで検索です(笑)。ーーなるほど、確かに「鬼さんこーちら」でした。  以下で、私が視聴したYouTubeの動画を参考までに掲

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(167‐1)北条全軍なぜか〝あの人〟の顔になって号泣、そして、南部師行の奥州訛りや時折見せる〝らしからぬ〟態度の伏線回収、見事!

 「この男には 勝てない 絶対に!!」  『逃げ上手の若君』第167話の後半の展開……おかしいですよね。第165話の「こうして 「石津の戦い」は顕家軍の勝利に終わり 高師直は討ち取られた」のナレーション同様、二度見、三度見してしまいました。  時行以下、北条軍の大の男たちまで大泣きしているのと、時行の泣き顔が誰かに似ているのに気がづいて、やっと〝あ~っ〟と思い出しました。  第149話(「茶色い記憶1338」)で、駿河四郎を「手本」として「一瞬で最大号泣」の練習を全軍でして

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(166)北畠顕家が放つ大音響の「鏑矢」に対して奥州武士たちのとった態度とは一体……そして、古典『太平記』が「強運」と語る背後に秘された足利尊氏の都合の悪い真実が暴かれようとしている!?

 「ギュウウウウウン」  弓を構えた北畠顕家を一瞥した尊氏でしたが、すでに彼には顕家が手にした矢が見えていたのかもしれません。飛翔する矢が放つ大音響に対して、顕家軍の武将と奥州武士たちの動きが止まり、その表情に緊張が走ります。  編集部が親切に「放たれた退却の鏑矢……!!」と説明を入れてますが、第165話で顕家は、「とうとう世の分の矢も尽きたか」「残るは退却の合図の鏑矢のみ」であることを確認していました。  軍を率いた尊氏の参戦が意味するところは、顕家軍の敗北であり、第16

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(165)北畠顕家の勝利が「間違った歴史」とは、いったい誰目線……? 高師直が情けない姿を晒して崇める「あら人神」の正体を考察する!?

 「こうして 「石津の戦い」は顕家軍の勝利に終わり 高師直は討ち取られた」(高師直・師泰兄弟を包囲した顕家軍からは「おおおおおお」の歓声)  ーー『逃げ上手の若君』第165話のこの場面、二度見しました。いや、二度見どころか三度見、四度見したと思います。でも、ストーリーの展開は、死力を尽くした顕家たちの「あと一押し」による勝利で、疑うべくもありませんでした。  「石津の戦い」の結末を知る私は(……なにせ、顕家が好きすぎる堺在住のYさんと、南朝大好き少年のまま大きくなったような

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(164)無邪気な尊氏少年の変貌とは、自分の意志なのか、不幸な事件なのか? バグを排除したい師直よりもバグを受け入れて楽しむ顕家の方が、強烈な合理主義者なのかもしれない!?

 「おい皆! 旅芸人の一座が来てるらしいぞ 見物してくる!」  少年時代の高師直の回想から始まった『逃げ上手の若君』第164話ですが、目先の楽しいことに流れる尊氏に対して、〝またか〟みたいな弟・直義と高兄弟にほっこりです。子どもの頃から芸能大好き尊氏というこの設定ですが、〝田楽ばっか観てないで仕事してください〟と、直義が尊氏を諫めていたといったエピソードに拠るものなのでしょう(『観応の擾乱』の著者である亀田俊和先生の講演会で聞きました)。  あまりに無邪気な尊氏少年に、私は

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(163)「鉤陣」は高師直オリジナル? 婆娑羅好みの「長巻」を魔改造!? デキすぎる男が主君を「神」と崇めるその危なっかしさよ……

 今回、『解説上手の若君』で監修の本郷和人先生がおすすめの作品に『キングダム』と『ゴールデンカムイ』という集英社の看板二作品を紹介していて、〝映画やドラマが始まったからかな……〟と勘ぐってしまう私なのですが、マスメディアの影響力は本当にすごいです。  実は、『逃げ上手の若君』に関する記事の閲覧数がものすごい勢いで増えています。TVアニメの影響であるのは明らかです。私としては、諏訪頼重や諏訪一族のことを知ってほしくて取り組みを始めたので、たくさんの人に読んでもらえることは大変嬉

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(162)動乱の世をその個性をもって生きる人間である高師直に対して北畠顕家も「敬意」を払っている……

 「女をもて!!」「余は高貴なおねえさまがほしい!!」    北畠顕家に化けた玄蕃のセリフがオゲレツすぎて、これ本人にバレたらまずいのでは?などと心配してしまった『逃げ上手の若君』第162話でしたが、さすが高師直、「時行の狐」の存在は織り込み済みですね。  今回は、全編がほぼ雫と師直の頭脳戦ゆえにネタバレさせるわけにもいかないのと、歴史的な事実や物語などをあまり紹介できないので、メモ風にいくつかのことを記してみたいと思います。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(161)宇都宮公綱こそが「我を忘れた精神状態」にあると思い込んでいた私たち読者の思い違いを一刀両断!? いなくてもいい人が誰もいない顕家軍の強さを再検証する!

「寒い… 腹が …なぜあんなにも」  吹雪のこのセリフではっとしました。もしかして、今の吹雪(仮面の「高師冬」ですが……)は、あんな爆食いをもうしていないのかもということを思ったのです。あんなに食べるのは、体質か脳を異常に使っているからなのだと考えていましたが、そうではなくて、父を殺した吹雪は心身のバランスをコントロールできなくなり、その〝飢え〟が表面化してしまっていたのだと思われた、そんな『逃げ上手の若君』の第161話の一場面でした  合理性の鬼である高師直が、吹雪の頭脳

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(160)鎌倉幕府の重臣達の「野心」などかわいいもの!? 果てなき「野心」が喰らい尽くすのは他者の物や心ではないのかもしれない……

 吹雪ファンの私にとっては、かつての主君である時行を覚えていながら二本の太刀を彼に向けて振るう吹雪に、とても複雑な思いを抱いた『逃げ上手の若君』第160話です。  親を殺された子どもたちに優しかった吹雪(第17話「教育1334」)の変貌ぶりに驚きを隠せませんが、父を殺して自由を得た吹雪は常に罪の意識におびえていて、子どもたちを見捨てずに村で彼らを教え導いたのは、贖罪だったのかもしれないと思ってしまいました。ーーしかし、それでもなおびえながら生きる吹雪は、尊氏の「涎」で増幅され

【『逃げ上手の若君』全力応援!】(159)「涎」は当時の常識からは完全アウトですが「知ったこっちゃなかった」足利尊氏と「完璧執事」高師直の「ファ~」な主従は不浄など恐れやしない……!?

 『逃げ上手の若君』第159話は、新田徳寿丸の魅力炸裂で始まり、私も妹も〝徳寿丸かわいいよね〟とキュンでしたが、私が〝でもさ、中身は同じなのに大人の新田義貞になるとヤバくなるのは、なぜ?〟と言って、しばしの沈黙でした。  「新田義貞の子か 面影がある」  高師泰の言う「面影」って、「?」のことではないですよね。確かこの「?」は周囲に見えていたはずです(第56話「暗殺1335」)。しかも徳寿丸くん、よく見るとあらゆるコマで「?」があります。師泰に一撃くらわせたり噛みついたり