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巣ごもり2DK─2020年4月23日~4月26日

2020年4月23日
 昨夜トイレに起きた時から左足の甲に痛みを感じる。持病の儀痛風の発作ではない。身に覚えはないが、打撲のような感じだ。

 新型コロナウイルスに人格はない。しかし、日本社会にはそれがあるかのように考え、感染者を差別する者が少なからずいる。『朝日新聞』2020年4月22日 11時50分更新「感染者の家に投石や落書き 首長ら「差別許されない」は次のように伝えている。

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、三重県内で感染が確認された市民の家に石が投げ込まれてガラスが割られたり、壁に落書きされたりする被害が出ている。県内の首長からは「差別は許されない」などの呼びかけが相次いでいる。
 緊急事態宣言に基づく「緊急事態措置」を20日に発表した鈴木英敬知事は、同日の対策本部の本部員会議で、こうした嫌がらせ事例があったことを明らかにした。鈴木知事は「明日は我が身。誰がいつどこでかかるかわからない状況の中で傷つけ合っても意味がない。みんなが誹謗(ひぼう)中傷、差別や偏見をしないようにしなければならない」と話した。
 四日市市の森智広市長は21日の定例会見で記者の質問に答え、「正直言って驚いた」と述べた。その上で、森市長は「感染した人も、そうでない人も、一丸となって新型ウイルスに立ち向かわなければならない時期だけに、決してあってはならない行為だ。市内で起こらないよう、啓発していかなければならない」と語気を強めた。

 なぜ被害者が非難されるのかをめぐる最も有力な学説の一つが「公正世界仮説(Just-world Hypothesis)」である。これは「公正世界誤謬(Just-world Fallacy)」とも呼ばれ、この世界は行いに対して公正な結果をもたらすとして認知バイアスが働くという仮説だ 。カナダのウォータールー大学のメルヴィン・ラーナー(Melvin Lerner[edit])教授が1980年に提唱している。

 一般的に、人は行いにはそれにふさわしい結果が伴うという公正さの信念を持っている。善行には幸福、悪行には不幸がもたらされると暗黙の裡に信じているわけだ。実際、宗教や生活道徳はこの世界が公正にできていると説いている。こうした信念は道徳的に生きることの動機づけになる。世界は公正である。善いことをすれば、幸福になれる。その一方で、悪いことをすれば、不幸な目に遭う。だから、悪を避けて、善く生きようとする。

 反面、この信念の下では、忌まわしい事件・出来事に遭遇した時、それは被害者の行いに問題があったからだと認識しかねない。落ち度がないのに不幸な目に遭うとしたら、世界が公正だという前提が崩れてしまうからだ。世界は公正であるから、善いことをしている人が感染するはずがない。それは原因がその人にあるに違いない。このようにして、被害者に責任があると人は責め立てる。

 ラーナーは、この説をスタンレー・ミルグラムの服従実験、いわゆるアイヒマン実験の系譜に位置づけている。被害者に対する攻撃は権威への服従のヴァリエーションだ。ミルグラムがホロコーストの実行に置ける状況の力を明らかにしたとすれば、ラーナーはユダヤ人に責任があるとして差別を許してしまう非ユダヤ人の認知行動の理由を説明している。世界は公正である以上、それに手を下していない第三者であっても、ユダヤ人が差別されるのは彼らに原因があるからだというバイアスがそこにある。

 この世界が公正であると信じている人ほど、この仮説に従うなら、被害者を非難しかねない。これは道徳性のパラドックスである。この仮説は慣習的規範意識が強いなどの保守的な地域・組織・個人は犠牲者非難をしがちではないのかという問いにも確かに合致する。被害者を非難しようとする時、世界が公正であるとしても、自身の認識が果たして公正であるかを自問することが必要である。

 夕食は、タイ風チキンカレー、ゆで卵、キャベツの酢漬け、野菜サラダ、ワカメスープ、食後はコーヒー、リンゴ。屋内ウォーキングは10206歩。都内の新規陽性者数は134人。女優の岡江久美子の訃報に接し、YouTubeで彼女と志村けんのコントを見る。国内の累計死亡者数は341人と発表されている。もちろん、変死が後に新型肺炎による死亡と変更されるように、これはあくまで確認された人数である。また、死を、行政の発表からはそうとしか知れないけれど、決して数だけで語ってはならない。

参照文献
森津太子、『現代社会心理学特論』、放送大学教育振興会、2015年
「感染者の家に投石や落書き 首長ら『差別許されない』」、『朝日新聞』、2020年4月22日 11時50分更新
https://www.asahi.com/articles/ASN4Q3SX5N4PONFB00P.html


2020年4月24日
 昨夜から左足の甲に激痛が走るようになる。儀痛風の発作が考えられる。様子を見るために、弱い方の痛み止めを飲む。痛みは弱まるが消えない。しかし、屋内で過ごすには我慢できる。

 今回のパンデミックにより多くの労働者が休業・失業を余儀なくされ、蓄えを切り崩すなど苦しい経済事情に陥っている。他方、証券市場は、ITを始め巣ごもり需要の企業もあるから、株価がリーマン・ショックの時のようには下がっていない。

 麻雀やポーカーといった複数で行うギャンブル性のある遊興では、勝つか負けるかしかなく、貧富の格差が拡大する。富める者は負ける余裕があるので、長期戦を睨んだり、大胆に勝負に臨んだりできる。一方、貧しき者には負ける余裕がないので、目先の勝ちに拘らざるを得ない。思いきって勝負に出て負ければ、それで終わりになる。機会の不平等は結果の不平等につながりやすい。

 ロイターは2020年4月24日1時39分更新「米億万長者の資産、新型コロナ危機下で10%増加=調査」においてパンデミックで貧富の格差がより拡大したと次のように伝えている。

米アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)創業者のジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)やテスラ(TSLA.O)のイーロン・マスクCEOなど米国の億万長者(ビリオネア)の資産合計が、新型コロナウイルス危機下でおよそ10%増加したことが、米シンクタンクの政策研究所(IPS)の調査で明らかになった。
米経済はリセッション(景気後退)に直面しているが、ビデオ会議の急増などを背景にビデオ会議システムを手掛ける米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM.O)などの株価が急騰。これが億万長者の資産拡大に寄与している。
一方で、米新規失業保険申請件数は過去5週間で約2650万件に上っており、調査の共著者であるチャック・コリンズ氏は「非常に不平等な犠牲を伴っている」と述べた。
調査によると、今年1月1日から4月10日にかけて、米億万長者34人の純資産は数千万ドル増加。ベゾス氏やマスク氏、ズームのエリック・ユアンCEOを含む億万長者8人の純資産合計は10億ドル増加したという。
マスク氏が18.5%保有するテスラ株は年初から73%上昇。ベゾス氏が15.1%保有するアマゾン株は今年に入り31%上昇した。
調査によると、米億万長者の過去10年間の資産増加率はインフレ調整後で80.6%に達した。

 新型コロナウイルス禍において移動が制限され、資産を持つ者はより豊かになり、持たぬ者はより貧しくなる。格差は全体としてカネの循環が悪くなっている状態だ。それを改善するために、カネを循環させなければならない。だからこそ、政府による所得の再分配が不可欠だ。

 夕食は、八宝菜、豆腐とニンジンの中華スープ、ポテトのヨーグルトサラダ、卵のコチジャンサラダ、食後はコーヒーとリンゴ。屋内ウォーキングは10191歩。都内の新規陽性者数は161人で、医療関係者の感染が相次いでいる。

参照文献
「米億万長者の資産、新型コロナ危機下で10%増加=調査」、『ロイター』、2020年4月24日1時39分更新
https://jp.reuters.com/article/billionaires-coronavirus-idJPKCN2252Y8?fbclid=IwAR3x3LlkNXte_aHCvOvQ1jPmK-2lNxV6zs44cyiZQGgKWYZZ9FsXC-DGn4U


2020年4月25日
 西洋政治理論の伝統においてもっとも古くからある課題の一つが僭主、すなわち独裁者の防止である。トマス・アクィナスによると、僭主は社会の分断を利用して権力を獲得・維持する。僭主はその共通善の継承よりも私的利得を追求する。「正義」ではなく、「気まぐれ」に従って統治するため、無法が到来、人々は安堵感を失ってしまう。僭主は社交や協調を禁止、人々の相互信頼を奪う。人間関係はその信頼に代わり依存や服従へと堕落する。人々は恐怖政治の下に置かれ、卑屈になり、有徳に生きられなくなってしまう。

 ドナルド・トランプ米大統領はまさに僭主である。彼は社会の分断を煽って対立させ、それにより権力基盤を強化している。『NHK』の2020年4月25日10時37分更新「『消毒液を注射』トランプ大統領の発言が波紋 新型コロナ」によると、この僭主は今度次のような事件を起こしている。

アメリカのトランプ大統領は新型コロナウイルスに感染した患者への治療方法をめぐって「消毒液を注射してみてはどうか」などと発言し、これに対し医師や専門家からは「危険だ」として批判する声が相次ぎ、波紋を呼んでいます。
トランプ大統領は23日の記者会見で新型コロナウイルスに感染した患者への治療方法をめぐって「紫外線か非常に強い光を体内にあててみてはどうか。また、消毒液はあっという間にウイルスに効くようだ。注射したりできないものだろうか。興味深いと思う」と述べました。
この発言に対し、医師や専門家からは消毒液の注射は体の機能に深刻な悪影響を及ぼすおそれがあり危険だとして批判する声が相次いでいます。また、消毒液を製造するメーカーも消毒液を注射したり、摂取したりしないよう呼びかけるなど波紋を呼んでいます。
この発言についてトランプ大統領は翌日の24日、ホワイトハウスで記者団から問われると「あなたのような記者に対して、皮肉を込めて質問しただけだ」と釈明しました。
トランプ大統領は新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、国民に説明するためとしてほぼ毎日、記者会見に臨んでいて政権の対応について多岐にわたる質問にこたえ、会見が2時間を超えることも少なくありません。
ただ、24日の記者会見では「消毒液の注射」には言及しなかったほか質問も受け付けず、会見は20分ほどで打ち切られました。
保健当局「どんな状況でもあってはならない」
トランプ大統領が新型コロナウイルスの治療法として消毒液の注射に言及したことについて、アメリカでは各地で問い合わせが相次いでいます。
このうち東部メリーランド州では緊急通報用の電話番号に100件以上の問い合わせが寄せられたということで、州の保健当局はツイッター上に「消毒に関連した製品が注射などの方法で体内に投与されることは、どんな状況でもあってはならない」として注意を呼びかけています。
また、発言について野党・民主党のバイデン前副大統領は、ツイッター上に「アメリカ国民の健康をジョークのネタにすべきではない」と投稿し、トランプ大統領の発言を批判しています。

 トランプ大統領はしばしば科学を無視した言動をする。ただ、本気で信じていないかはわからない。科学は近代において最も普遍的とされる知識である。それは人々の間で共有しやすい。この科学を無視する態度はこうした共通理解を破壊する。それは社会を分裂させ、保身を図る独裁者の手口である。だから、独裁者の判断が往々にして合理性を欠く。

 夕食はカルボナーラ、ジャガイモのターメリックヨーグルトサラダ、野菜サラダ、キュウリとちくわの梅和え、キノコスープ、食後はコーヒー、干し柿。ウォーキングは10285歩。都内の新規陽性者数は103人。

参照文献
山岡龍一、『西洋政治理論の伝統』、放送大学教育振興会、2009年
「『消毒液を注射』トランプ大統領の発言が波紋 新型コロナ」、『NHK』、2020年4月25日10時37分更新
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200425/k10012405341000.html


2020年4月26日
 今回のパンデミックにおける最も視覚的な変化はマスクのある風景だろう。通りやスーパーなどで見かける人の口はたいていマスクに覆われている。違いは白や黒、青といった色くらいである。

 ところで、林幹益記者は、『朝日新聞』2020年4月26日 16時00分更新「『マスクかけぬ命知らず!』動揺、100年前の日本でも」において、スペインかぜをめぐる日本社会の様子を伝えている。彼は、当時の朝日新聞紙面や内務省資料を調べ、感染防止の対策や社会の動揺をまとめている。

 スペインかぜはA型インフルエンザウイルスのパンデミックを指す。1918年春に米国と欧州で感染が広がり、20年まで世界中で猛威を振るっている。この呼称は、当時第一次世界大戦中であったため、参戦国が情報隠蔽する中、中立国スペインが流行を公表したことに由来する。スペインから始まった感染症という意味ではない。被害の全容は今も研究途上である。患者数は世界人口の25~30%とされ、死者数は少なくとも2000万~5000万人で、1億人を超える説もある。

 日本では流行の波は3度起きている。内務省衛生局がスペインかぜの記録をまとめた『流行性感冒』によると、国内では18年8月~19年7月の最初の大流行の後に、19年9月~20年7月、20年8月~21年7月にも流行が発生している。当時の人口約5700万人の内、内務省統計によると、患者数は約2380万人、死者数は約38万8000人に上ったとされる。これもさらに研究されており、死者約48万人の説も示されている。スペインインフルエンザは、最終的に、国民の4割以上が感染し集団免疫を得たことで終息したと見られている。

 東京朝日新聞では、1918年秋から国内でのスペインかぜ流行の記事が紙面に頻繁に登場している。「患者に近寄るな 咳(せき)などの飛沫(ひまつ)から伝染 今が西班牙(スペイン)風邪の絶頂」(18年10月25日付)や「感冒流行各地に防疫官を派遣 内地で目下熾烈(しれつ)なのは愛知、福井、埼玉の各県」(同26日付)などの見出しがある。

 また、政府は感染予防を呼びかけるポスターを作成している。大衆文化が花開く1920年代以前で、マスメディアが未発達の時代において、最も広報効果を持った媒体がポスターである。「汽車電車人の中ではマスクせよ 外出の後はウガヒ忘るな」や「テバナシにセキをされては堪らない ハヤリカゼはこんな事からうつる!」、「恐るべし ハヤリカゼのバイキン! マスクをかけぬ命知らず!」、「病人は成るべく別の部屋に!」など少なからずあり、恐怖をあおる文句が目立つ。しかも、視覚効果も狙い、「テバナシ」はせきをする母の飛沫が子に飛ぶ様子、「命知らず」は車内で口を開けて寝入る男性の姿をそれぞれ描いている。

 これだけマスク着用を政府が呼びかけているとすれば、応じない人が少なくなかったからと推測できよう。実際、スペインかぜ予防の様子を描いた菊池寛の『マスク』はマスク着用に抵抗感を抱く人が少なくなかったことを語っている。1911年の経験から欧米では人々が積極的にマスク着用をしたのに対し、日本は必ずしもそうでなかったために、政府が呼びかけたと見るべきだろう。ポスターの史料から当時も今と同様に人々がマスク着用をしていたと考えるのは早計である。マスクのある風景でないからこそ、2020年の欧米の当局や専門家がそうであるように、100年前の日本政府も繰り返し啓発せざるを得ない。

 むしろ、今回のパンデミックでは、「アベノマスク」という失策が登場したように、マスク不足の報道が目につく。しかも、それは国内だけではない。『AFP』2020年4月3日12時39分更新「仏政治家『米国人がフランスのマスクを横取り』、米側は否定」によると、フランス我執僕に発注したマスクを中継地のアメリカが横取りしたとの疑惑もある。

 また、この記事には手洗いの記述が見当たらない。現在、感染予防に屋内に入る時に消毒液やせっけんによる手洗いが呼びかけられている。しかし、この記事を見る限り、当時それが推奨されていない。マスクもせず、手洗いもせずでは感染制御は今よりもはるかに難しかっただろう。

 夕食は、キノコのスパゲッティ、ジャーマンポテトヨーグルト風味、チリコンカン、野菜サラダ、海藻のスープ、食後は緑茶、干し柿。屋内ウォーキングは10084歩。都内の新規陽性者数は72人。

参照文献
「仏政治家『米国人がフランスのマスクを横取り』、米側は否定」、『AFP』、2020年4月3日12時39分更新
https://www.afpbb.com/articles/-/3276947
林幹益、「『マスクかけぬ命知らず!』動揺、100年前の日本でも」、『朝日新聞』2020年4月26日 16時00分更新
https://www.asahi.com/articles/ASN4S4CYPN4FUTIL01M.html


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