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景気循環と金利循環(1)(2011)

景気循環と金利循環
Saven Satow
Nov. 05, 2011

“The past does not repeat itself, but it rhymes”.
Mark Twain
「金融市場の極端な動きは人間の極端な性格や感情──楽観主義や高揚感から悲観主義や絶望まで──を反映している。金融市場は──人生と同じように──たいていは合理性で成り立っている」。
ヘンリー・カウフマン『カウフマンの証言』

第1章 債務危機と債権
 2011年1月4日の欧州市場で、ギリシャ国債の指標となる10年物の利回りが33%第二突入している。日々ユーロ導入以来の安値を更新している状況で、同国が市場から資金を調達できる見込みはまずない。また、ギリシャ同様、財政と政情の不安を抱えているイタリアとスペインの10年物国債の利回りも悪化している。前者は、前日より0.1ポイント高い6.3%台、後者も0.1ポイント高の5.6%台でいずれも一時取引されている。イタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ首相は、4日、同国がIMFの監視下に入ると発表する。EU内で3番目の経済規模の国にまで債務危機が波及し、世界は、今、冷や汗をかいている。

 ここで債権に関する基礎知識を確認しておこう。

 債権は満期まで保有するなら、貸し倒れがなければ、償還金を受けとることができる。発光体が債権の利息を支払えなかったり、償還を行えなくなったりすることをデフォルト・リスクと呼ぶ。格付け機関は各債権に関する債務不履行のリスクを評価する。ただし、ある時点をめぐるさまざまな統計データを収集・分析し、指標に照らし合わせて評価するため、タイムラグが生じる。悪化しているのに、格付けが高かったり、改善しているのに、格付けが低いままだったりする。

 債権は発行体によって国債や地方債、社債などに分かれる。国債がその国の債権の格付けのベースとなる。地方自治体の発行する債権が国債の格付けを上回ることはない。発光体による分類もあるが、債権は、利払い方法に基づくと、利付債権と割引債券に大別できる。前者は定期的に利息が支払われる。後者は額面金額より安く発行され、満期になると、額面金額が受け取れるが、その間の利息払いはない。

 金利水準は債券価格に影響を及ぼす。毎年支払われる利息の額面金額に対する割合を表面利率と呼ぶ。たいていの利付債券は、発行時に決められた表面利率が償還まで変更されることはない。なお、定期的に変わる変動利付債権もあるが、主流ではない。

 金利水準が上がると、それ以前に発行された低金利の債券は魅力がなくなるので、その価格が下がる。逆に、金利下がると、既存債権は価格が上がる。金利が上昇すれば、債券価格は下降する。金利が下降すれば、債券価格は上昇する。また、同じ表面利率の短期債券と長期債権では、同程度で金利が変化した場合、残存期間が問題となる。残存期間が長い方が価格の変動幅は大きい。

 ギリシャやイタリア、スペインの10年物国債の利回りが上がっているというニュースは、その価格が下がっているという意味である。今回のギリシャの場合は危機的な財政状況が主因であるが、他の要因でも債権の利回りは変動する。

 金利変動の要因として、国内景気や国内物価、為替レート変動、海外金利水準などが挙げられる。景気がよくなれば、企業などの資金需要が増え、金利が上昇するので、債券価格は下落する。景気が悪化すれば、逆の事態を迎える。物価上昇はインフレにつながるので、中央銀行はその抑制策として金利を上げ、債券価格は下がる。デフレが始まれば、反対の状況が生じる。国内通貨が為替市場で上昇すれば、それ建ての金融資産に対する投資が増える。国内通貨建ての債権価格は、当然、上昇、国内金利は下落する。国内通貨が売られれば、債券価格は低下、金利は高くなる。海外金利が高騰すれば、国内資産を売却して、そちらに投資を回す。国内債券価格は下がり、金利は上がる。海外金利が下落した際のことは言うに及ばないだろう。

 国債を購入しているのは主に金融機関である。債券価格が低下すると、保有資産が目減りする。銀行には自己資本比率規制があり、その水準を維持するために、貸し渋りや貸し剥がしが増える。資金供給が滞れば、黒字であっても倒産する企業が現われ、景気は悪化する。

 今回のギリシャとイタリアの危機の克服には、緊縮財政を行い、金融機関から債務の棒引きをしてもらい、国際的支援を受ける以外に手はない。当然、国内外から反発が出るだろう。しかし、国際金融ネットワークの維持のコストと考えるほかない。今、世界は相互依存している。日々練習に励んでいなければ、いざというときにすばやい連係プレーができないものだ。財政・金融部門移管して各国当局はお互いにコミュニケーションを持続し、情報を共有しておく必要がある。たんなる協調ではない。

第2章 長期金利とコンドラチエフ循環
 金利の長期的趨勢に無頓着で、市場に参加するのは危険である。けれども、長期債権の利回りのトレンドを決定する要因ははっきりしない。戦争や財政危機、革命だけに限らない。財政政策や金融政策、規制強化・緩和、金融革新、思惑、国際金融情勢などさまざまな要因が複雑に絡み合い、主因を特定するのは困難である。金利の循環的傾向に着目し、その趨勢を把握するのが効果的である。

 ヘンリー・カウフマン元ソロモン・ブラザーズ金融調査研究門最高責任者は、『カウフマンの警告』(1986)において、1798年から1981年までの米国の長期債の利回りの循環を次のようにまとめている。




ベーシス・ポイント(BP)
パーセンテージ
経過年数
1798年 (7.56%)
1810年(5.82%)
1814年(7.64%)
-174+182=+8
-23+31
12+4=16
1814年(7.64%)
1824年(4.25%)
1842年(6.07%)
-339+182=-157
-44+43
10+18=28
1842年(6.07%)
1853年(4.02%)
1861年(6.45%)
-205+243=+38
-34+61
11+8=19
1861年(6.45%)
1899年(3.20%)
1920年(5.27%)
-325+207=-118
-49+65
38+21=59
1920年(5.27%)
1946年(2.45%)
1981年(13.57%)
-282+1112=+830
-54+454
26+35=61

 1981年10月をピークに10年物米国債の利回りは下落を続けている。この9月、の連邦公開市場委員会(FOMC)は短期国債を4000億ドル分を売って、同額の10年物長期国債を購入している。すでにFRBは2013年までのゼロ金利政策の維持を打ち出している。さらなる金融緩和策として長期金利の低下を促したというわけだ。2011年11月4日現在で、10年物米国債の利回りは2.03%で、2%割れも目前に迫っている。長期米国債はこの30年間で史上最高値と史上最安値を経験したことになる。金利の高低は絶対的ではなく、相対的に見る必要がある。ちなみに、10年物日本国債の利回りは1%前後で推移しでいる。

 長期金利の46年から81年への上昇とその後の下落の周期は、明らかに、これまでよりも長い。この間に、経済のグローバル化が進展し、金融市場の規模は急速に拡大、金融商品も多様化している。

 長期金利の循環はソ連の経済学者ニコライ・ドミトリヴィチ・コンドラチエフが1920年代に提唱した45~60年に及ぶ波動にほぼ当てはまる。資本主義の内的論理による景気循環は短いものから3~5年の在庫循環、7~11年の設備投資循環、約20年の建設循環が挙げられるが、コンドラチエフ循環ははるかに長い。この景気循環の間に国際経済上の覇権国が移動したり、新産業が勃興したり、エネルギー・システムが転換したりしている。第1コンドラチエフ循環を1798年から1842年、第2コンドラチエフを1842年から1899年、第3コンドラチエフを1899年から1946年、第4コンドラチエフを1946年から現在まで至っていると見立てられる。彼自身はこの長期循環の理由を物価水準に見出しているが、19世紀ではまだ農産品の占める比率が高く、資本主義経済の特徴とも言える景気循環をうまく言い表せない。むしろ、長期金利を指標とすべきである。

 景気循環と金利循環の関係を見るならば、現在はまさに歴史的な経済の転換期にあることがわかる。それは経済基盤の大規模な変革を世界に促している。大規模な投資を受け入れられる新規産業の市場が成長するだろう。最も有望なのはスマート・エネルギーである。


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