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自宅療養日記(2022年2月17日)

2022年2月17日
 美紀が今日から出勤なので、寝過ごすわけにはいかない。弁当のおかずには秋刀魚の甘露煮、ツナとポテトのサラダ、梅ひじき、焼き豚と中華くらげのきゅうり和え、野菜サラダを用意する。
 
 昨夜の寝汗はそこそこで、起きがけの体調は悪くない。おそらくもう発熱はないに違いない。声は昨日より出るが、『セイリング』のロッド・スチュワートのようだ。
 
 歯磨き後に体温計とパルスオキシメーターによるチェックをする。前者は37度 1分、後者は96%だ。どうもいつも血中酸素飽和度が低い。97〜96%しか出たことがない。正常値の範囲だが、いつもここ止まりだと寂しい。
 
 美紀は7時半に出勤する。『ドリフ大爆笑』を見ながら、ストレッチを30分ほどする。その後、5000歩程度歩く。屋内はターンが多いので、屋外と比べて同じ歩数を歩くにも時間がかかる。戸外であれば、10分歩くと、1000歩になる。1時間40分程度の散歩で10000歩に到達する。距離はだいたい6.8kmである。一方、部屋の中では7.2kmを歩かないと、10000歩に達しない。2時間以上かかる。YouTubeやradikoを聞きながらの場合はさらに時間を要する。しかも、歩く場所を取れない時に、6畳の和室をぐるぐる回っていると、めまいがしてくる。右回りと左回りを交互に取り入れても、やはり目が回る。
 
 10時頃、実家から宅配便でデコポンが届く。インターホンを通じて玄関ドアの前に置いて欲しいと言うと、配達員は名前の確認を行い、そのようにしてくれる。
 
 フォローアップセンターからの電話を待つが、午前中にはない。電話もなく、訪問者もなく、美紀もいない。青梅街道の音も二重窓からかすかに響くだけで、耳鳴りの方が大きい。眼をつぶって、深呼吸をする。部屋の空気が自身の呼吸とシンクロしている。ここにいるのは独りきりだと実感する。咳をしても独りだ。こんなに落ち着くのは今月に入って初めてかもしれない。もっとこんな時間が欲しい。
 
 『Sputnik日本』が「2022年2月17日1時03分更新米国人女性がHIVを完治 女性では世界で初めて」という次のようなニュースを伝えている。
 
米国でヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した女性が幹細胞の移植手術を受けたところ、ウイルスが完全に消滅したことが確認された。女性は世界でHIVの完治に成功した4人目の患者となった。ウォールストリートジャーナルが報じた。
患者の名前は公表されておらず、患者が女性で「中年で混血」という情報しか出されていない。患者はヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見から4年後、白血病と診断された。
女性は高用量の化学療法を受けた結果、血液細胞の破壊が始まった。女性は2017年にHIVの細胞への浸透をブロックする稀な遺伝的変異を持ったドナーの臍帯血から採取した幹細胞の移植を受けた。
女性は2020年から今まで高レトロウイルス療法は受けていない。14か月が経過した後、女性の体内からHIVの兆候が消えた上に、ここ4年半、悪性リンパ腫は寛解状態にある。
世界でHIVを克服したのはこの女性で4人となった。女性の他の3人も骨髄の幹細胞移植のおかげでHIVウイルスは寛解状態となっている。
 
 HIVも人類史に大きな影響を与えた感染症だろう。80年代代から90年代前半にかけてさまざまな噂が飛び交っている。HIVが登場した時、アメリカなどで同性愛者への差別にも利用されている。COVID -19も同様に扱おうとした宗教右派もいたが、そうした説教をしていた当人が感染するなどして普及していない。
 
 当時は「隠喩としての病」の言説が流行しており、エイズもそのように取り扱われることが少なくない。エイズを隠喩として形而上学的考察を行うというものだ。しかし、新型コロナウイルスでそのような事態が起きていない。もちろん、米国でのアジア系に対するヘイトクライムが示す通り、ウイルスを物象化して特定の人々を排撃する既存の差別を増幅させる道徳絶対主義は発生している。ただ、過去の経験からそうした言説が蔓延するのを多くの人が防止しようと努めたからだ。
 
 もっとも、スペインかぜが示している通り、パンデミックはその言説になりにくい。「隠喩としての病」は道徳規範による把握の表象だからだ。パンデミックは感染自体の意味を見出しにくい。パンデミックを文学作品に書くことは難しい。
 
 午後の体温も37度 1分、SPO2は97%で、問題はない。
 
 午後3時頃にセンターから電話がある。ベテランという印象の女性女性の看護師だ。体温と血中酸素飽和度のチェック、症状の確認、気になることなどの質問を受ける。平熱が37度前半だと伝えた上で、味覚が過敏になっていることを含め一通り答える。電話の回数は1日1回だが、何時になるかはわからないとの説明を受ける。
 
 『毎日新聞』はm2022年2月17日更新「フロイト学派の精神分析学者…」において、コロナ後遺症について次のように述べている。
 
フロイト学派の精神分析学者、ブリルは「現代人には嗅覚は無用だ」と言ってのけた。師のフロイトは直立歩行して鼻が地面から離れた人間にとって、嗅覚はすでに退化した感覚とみて軽んじたようである▲だが、それは大間違いだと思い知らせたのが、新型コロナのパンデミックだった。感染により嗅覚や味覚を奪われた人々は何を食べても気味の悪い食感を感じるだけ、暮らしから色彩が失われたような苦しみは当人にしか分からない▲さらに深刻なのはそれらが長引く後遺症で、つのる孤立感や不安感からのうつ症状も耳にする。現在のオミクロン株では嗅覚・味覚障害は以前より少ないようだが、その後遺症についてのデータはまだ十分には集まっていないという▲「ロングコビット」とは新型コロナの後遺症である。倦怠(けんたい)感、息切れやせき、頭痛や抜け毛、そして嗅覚障害など症状は多様で、軽症の20~30歳代でも発症率は高い。心配なのは、やはりオミクロン株による感染者数の増大の影響だ▲感染者の多い英国では全人口の2%に何らかの後遺症があるとされ、米国では後遺症で働けずにいる労働人口が160万人にのぼるという推計もある。これからのウィズコロナ社会を考えるうえで欠かせぬ後遺症患者への支援である▲英当局が公表した研究レビューによると、後遺症の発症率はワクチン接種で低く抑えられるという。各地の後遺症外来もより拡充せねばなるまい。その苦しみが周囲から見えない患者を孤立させてはならない。
 
 料理から漂う香りには食欲をそそる作用がある。しかし、嗅覚の機能はそれだけではない。その物質を口に入れても健康に害がないかを確かめる際に、鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。不快と感じたら、顔をしかめ、奥歯を噛み締め口を固く閉ざす。嗅覚は食べるという生命体に最も重要な行為の始まりを左右する。
 
 近代に入り、衛生環境が改善、食品の安全性が確保され、なるほど嗅覚にそうした役割が要求される機会が減ったように思える。けれども、食事はたんに生命体を維持するためのものではない。QOLもある。その楽しさは生きることの豊かさを感じさせる。それが文化というものにつながる。
 
 パンデミックはQOLとしての食事を大いに制約している。孤食や黙食も当たり前の光景だ。嗅覚や味覚の後遺症はさらに奪うことになる。それはあまりに味気ない。軽く扱うべきではない。
 
 夕食は八宝菜、豆腐とにんじんの中華スープ、野菜サラダ、ポテトとゆで卵のヨーグルトサラダ、食後は緑茶、みかんをとる。屋内ウォーキングは10127歩だ。都内の新規陽性者数は17864人である。
 
 昨日と同様、眠る前にビールを飲む。足に屈し、首にタオルで床に就き、YouTubeで西行を聞きながら眠る。これはゲン担ぎでもある。
 
参照文献
「フロイト学派の精神分析学者…」、『毎日新聞』、2022年2月17日更新
https://mainichi.jp/articles/20220217/ddm/001/070/127000c?fbclid=IwAR0YFtPBdT9Yw0wS711iKx-ATuajH7RM7XTM9bZLZL9crgaJcTemfop47TE
「米国人女性がHIVを完治 女性では世界で初めて」、『Sputnikk日本』、2022年2月17日 01時03分更新
https://jp.sputniknews.com/20220217/hiv-10188341.html?fbclid=IwAR1bn4AiW_WKBj7jLqlxoZuv6SKKuV__c2n7vM-4iRegHAkXQXQLn6H8Cx0
 

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