GLP昭島プロジェクトの近隣住民向け説明会で指摘された懸念
2022年2月10~12日、昭和の森ゴルフコースとフォレスト・イン昭和館の敷地を再開発する計画の「GLP昭島プロジェクト」の説明会がKOTORIホールで計4回開かれた。
説明会の冒頭部分の説明はこちらで公開している。約30分の説明のあと、1時間~1時間半ほどの質疑応答があった。ただ、質疑応答は公開されていないため、そこで出た情報も交えてまとめた。
結論から言うと、事業計画は「現時点ではまだ決定していない」ということだった。説明会の話をまとめると、その理由は(1)東京都自然保護条例に則った環境影響評価を実施していない、(2)昭島市都市計画マスタープランに沿った計画となっているか否かなど、昭島市と協議をしていない、(3)昭島市教育委員会と協議をしていない、(4)昭島警察署や警視庁と協議をしていない、などいずれの行政機関からも認可が下りていないためだ。
住民向け説明会の案内が届いた際、既に計画は決まっていたかのような印象を抱いた住民も多かったと察するが、詳細が決まるのは今後だ。今回は行政との協議前に住民に計画案を示したのだという。
そして説明会で示された今後の予定は、2022年中に環境影響評価の実施・報告書作成、昭島市や東京都との行政協議を実施する。来年(2023年)上期に環境影響評価に関する説明会を実施し、2023年下期に昭島市の同意を得られた場合、2024年上期に都市計画法第29条に基づき開発の申請をして認可を得て、造成・道路工事を始める計画だとの説明があった。2025年初め~2028年中旬に本体工事をする計画だという。
次回の住民説明会は環境影響評価の実施後の「1年後」という説明だった。だが、住民から「意見交換の場が必要」「次回に提出される計画案に住民が納得しなかったら修正するのか」などの意見が出た。これに対して、日本GLPの担当者は、自治会や住民との意見交換の場を設けると説明した。いつ開くか、またどのように開くかは検討するとしている。昭島市のシンボル的な存在で、環境・観光・文化・芸術・スポーツなどの拠点でもあったエリアだけに、市議会でも侃々諤々の議論がなされるであろうし、おそらく立川市などの周辺自治体にも交通渋滞や環境の影響が及ぶため、広域の自治体、さらに住民を交えた協議会などで議論をする必要が出てくると考えられる。
以下では説明会での情報を基に再現した計画案で詳細を見ていきたい(地図と写真はオープンソースのOpenStreetMapと写真ACを使用)。
上図の計画の対象区域は、(1)所在地:昭島市つつじが丘一丁目1番外、(2)面積:約590,000平方メートル(0.59平方キロメートル)、(3)用途地域:準工業地域である。昭島市によると、市の面積は17.34平方キロメートルであるため、市の面積の3.4%分の土地が開発対象となっている。なお、日本GLPの従業員は約240人、昭島市の人口は2月1日時点で113,757人である。
上図は建設物の配置イメージである。物流施設6棟、データセンター9棟、複合用途施設1棟が建つ計画。物流施設は4~7階建て(約35~55メートル)、データセンターは5階建て(約40メートル)、複合用途施設は3階建て(約20メートル)。いずれも計画案である。日本GLPの担当者の説明では「マンションの1階分が約3メートル」なので、物流施設であれば11~18建てマンションに相当する。ただ「建物の高さ位置、緑地の割合などの具体的な話は今後の説明会で」と述べるにとどまった。
野鳥や植物など生物多様性を支えてきた代官山緑地は開発対象外となった。ただ、現在のまま保存されるのか、伐採するのかは不明。
昭和の森ゴルフコースやフォレスト・イン昭和館の今後の営業に関しては、「ゴルフ場は2022年いっぱい営業するがその後は未定。閉鎖時期は運営会社から案内する」「昭和館は扱い(取り壊すか否か)含めて未定」とした。ただ、計画通り24年に着工するとしたら、「ゴルフ場利用者には申し訳ないが、それ以降は利用できなくなる」という説明だった。
質疑応答でも出ていた「データセンターとは何か?」については、サーバーなどを保管する施設となる。サーバーを設置する企業はあらかた目星がついているような説明だったが、セキュリティーの関係上明かせないということだ。物流施設が建設された場合に入居する企業も現時点で決まってはいないとの説明だ。
なお、物流施設は日本GLPが不動産として運営し、施設を使うのは倉庫が必要となる企業であり、これらの入居企業が雇用する人数としては4,000~5000人が想定されるという。日本GLPが雇用するわけではないため、「昭島市民を優先的に雇用することはない」「昭和館やゴルフ場の従業員を優先的に雇用することはない」との説明だった。ただ、大半はパートタイムの雇用になるとみられ、近隣住民が働くのではないかと述べた。
昭和館が立地している場所に計画予定の複合用途施設の詳細は今後検討するというが、商業施設や温泉施設のようなものではないという。
上図は、物流施設に出入りする大型トラック(5トン車以上)が通るルートの計画案である。物流施設は、住宅街と商業エリアの中にできる。説明会で懸念の声が強かったのは「渋滞」「子どもの安全」「環境汚染」「地域コミュニティーの喪失」に対してである。
計画案で示された交通量の想定は、大型トラック(5トン車以上)は1日約1,100台の大型トラックが通行する。ピーク時(午前8時、午前10~11時)は1時間当たり約100台が往来する。また、5トン未満の車両(説明会では「普通車」と表記)は1日約4,700台が通行し、ピーク時は1時間当たり450台が往来する計画だという。
「建設予定地周辺では日常的に渋滞が発生している」という住民の懸念に対しては、「交通量調査を実施しており、渋滞が悪化しないよう対策を検討する」と述べた。「どうやって実現するのか?」との質問が飛ぶと、時間帯によってトラックの通行制限することなどが考えられるとした。建設予定地内には道路を新設するが、公道に関しては拡張する権限がないと説明。今後、警察行政とも協議するという。渋滞の悪化を懸念する武蔵野地区の事業者が「異常な計画」と指摘したこの計画が認可されれば、交通量は「増加」の一択であるのは間違いない。
交通事故への心配も尽きない。住民説明会の参加者は中年層以上の方が多い印象を受けたが、若年層の方も来ていた。子育て世代は、質疑応答で登下校する子どもの安全を何より心配している。武蔵野地区には物流施設ができ、荒い運転をするトラックも目につくという意見も出た。既にリタイアされ通学路で登下校の見守りをしているという方は「ありえない台数」のトラックが通行することになると述べた。上図の4トントラックは日本GLPの定義では普通車に該当するため、つつじが丘小、瑞雲中の近辺も通る計画となっている。住宅街に大型物流施設ができるのはリスクが高いと言わざるを得ないだろう。
環境問題への懸念もある。詳細は次回に触れたいと思うが、極めて公共性が高いプロジェクトであり、いずれにせよ「一企業の土地取引」で済む話ではないだろう。