1-3. ラマダン(断食期)にテロが多い理由
【3行まとめ】
・ラマダンは断食を通じて弱者に共感をする月であり、寄付がよく集まる。イスラム過激派は、ラマダン月にテロを行い、多くの寄付を集める。サウジには宗教警察がいて、教義に違反すると厳しい刑罰が課される
(写真は、首都リヤドの公開処刑場。写真中央の排水口に、死者の血が流されたとされている。現在、処刑は非公開。)
・年に一度の断食 ラマダン月にテロが多い理由
イスラム教徒は、年に一度、およそ一ヶ月間断食(ラマダン)を行います。ラマダンの時期は、太陰暦のイスラム暦によって定められるため、毎年少しずつ時期が異なります。2017年は5月27日から6月25日まで、2016年は6月6日から7月5日まででした。
このように毎年約11日ずつラマダンの開始が早まっていくため、およそ30年でラマダンの季節が一周し、「ムスリムは、同じ季節のラマダンを人生で二度経験する」と言われています。
断食といっても、一日中全く食べ物を口にしないわけではありません。断食をしなければならないのは、日の出から日の入りまでであり、特に日の入りの後の食事はイフタールとよばれて、とても多くの量を食べます。
そのため、ラマダンによって食生活が不規則になり、かえって太ってしまうこともあるようです。
断食の目的は、飢えや貧しい状況を疑似体験することで、弱者に共感をすることと言われています。さらに、ラマダンを通じて弱者の気持ちに共感し、寄付を通じて社会に貢献することが義務付けられています。
そのため、ラマダン月は寄付が最も多く集まる月となっています。この寄付は喜捨(ザカート)と呼ばれ、礼拝や断食と同様にイスラム教徒の義務とされています。金額の目安は預金残高の2.5%とされており、国内でも海外でもどこに寄付してもよいこととされています。
ISILなどイスラム過激派は、こうした寄付によって成り立っています。したがって、寄付の多く集まるラマダン月にテロなど目立ったことを行うことで、より多くの寄付を集めようという狙いがあります。
しかし、ラマダン月の趣旨である、弱者への共感・社会の連帯感の醸成という観点からすれば、何の罪もない市民を巻き込む暴力行動は、到底許されるものではなく、コーランの記述を乱用したものと言えるでしょう。
こうした観点から、ISILなどのテロ団体を「イスラム原理主義(コーランの記述に厳格に忠実な人々)」と呼ぶのではなく、「イスラム過激派・武装集団(イスラムの考えを利用し暴力的手段に訴える人々)」と呼ぶようになっています。
・街のお目付け役 宗教警察の存在
さて、これまで服装や日常生活など、サウジアラビアにおける様々なイスラム教による制限について紹介してきましたが、こうした規則を実効たらしめる組織として宗教警察(正式名称:勧善懲悪委員会)が存在しています。
宗教警察は、 街を見回り、アバヤを着用していない女性や、お祈りの時間に営業している商店を摘発しています。彼らの指摘は事細かな事項にも及び、街のお目付け役となっていました。
しかしながら、近年、宗教警察の恣意的な取締りへの批判が高まり、宗教警察の権限は大幅に削減され、街でその姿を見かけることはほとんどなくなりました 。
・ イスラム法による厳しい刑罰
宗教警察による取締りは弱体化したとはいえ、イスラム法に基づく厳しい刑罰は依然としてサウジには残っています。例えば、窃盗の場合は手首の切断、飲酒はむち打ち、麻薬取引や殺人は死刑とされています。
刑罰を重くし、犯罪の抑止を図る手法は、治安維持のコストを下げることができるメリットがあります。犯罪者にとって、万引きをして手首を切り落とされるのは割に合いません。
このような厳しい刑罰の存在により、サウジの治安は全体に非常に良いです。リヤドで生活していても、危険な目にあうことはなく、安心して生活を送ることができました。
こうした厳しい刑罰は、外国人であっても例外なく適用されています。例えば、2015年には、自宅でワインを密造したイギリス人に、むち打ち360回の刑が求刑されています 。
もっとも、実際の厳罰の適用は慎重に行われており、このイギリス人の場合、単に密造したにとどまらず、周囲の人々に販売したり、大々的にやっていたのではないかと噂されています。
コーランを紐解くと、「悔悟してその身を修め、(真理を)公然と表明する者は別で、これらの者には、われはその悔悟を許すであろう。本当にわれは度々許す、慈悲深い者である」と記されています。
すなわち、形式的に犯罪となる行為を行ったとしても、それをおおっぴらに吹聴しない限り、これを必要以上に咎めることはしないという趣旨です。
イスラム教の聖典にも、不倫をした男が預言者ムハンマドにその罪を告白した時に、「顔をそむけて聞かなかった」ことが記されています。その男が繰り返し不倫をしたことを言うものだから、最後は処罰されてしまったそうです。
ただし、このような厳罰には、人権侵害を引き起こす可能性があります。2013年には、17歳のスリランカ人の少女が、メイドとして働いていた際に、ミルクを詰まらせてしまって乳児を窒息死させてしまう事故が起きました。この事故において、殺人罪が適用され、少女は死刑に処せられてしまいました。
サウジの刑事司法制度については、治安維持には成功していると言えるかもしれませんが、人権保護の観点からさらなる改革が必要となっています。
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