閉ざされた国 サウジアラビアをわかりやすく
2017年夏、サウジ政府において、政策コンサルタントとして勤務。現在、アメリカの公共政策大学院に在学。サウジを中心とした中東情勢について、初学者向けにわかりやすく説明。問合せ先→https://goo.gl/CekJHY
※初めての方へ 無料マガジンをご覧ください。目次を整理して読みやすくしています。 https://note.mu/saudi_arabia/m/m109376622c60 2017年の夏に、サウジアラビア政府の政策コンサルタントとして勤務しました。「日本人がなぜサウジ政府で」と疑問に思われるかもしれません。 サウジ政府は、政策立案を行うため、米国の大学や戦略コンサルと提携しています。私は、米国の公共政策大学院に在籍をしており、そのプログラムの一環で、夏休みを利用して
第1章では、サウジの国教であるイスラム教について説明を行い、第2章では、サウジの政治・経済・社会情勢といった内政について説明を行いました。第3章では、サウジと国際社会の関係について目を向け、外交情勢について説明を行います。 (中東情勢入門の難しさ) 中東情勢と聞くと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。イスラム国のテロの様子、シリアの空爆の様子、湾岸戦争でミサイルが飛び交う様子、どれも穏やかではない場面が頭に思い浮かぶと思います。それと同時に、「なぜこれだけ争いが絶えな
前章に引き続いて、サウジ人はどんな気質・性格なのかを私なりに分析してみたいと思います。もちろん、十人十色でみんな性格は違いますし、サウジ人に対するステレオタイプを持っていただくことは本望ではないので、おおまかな印象として受け止めていただけると幸いです。 ・男社会サウジアラビア イスラム教による男女の厳格な別離のために、サウジは強い男社会の絆で結ばれています。サウジにいて驚かされるのは、手をつないで歩いている男性をしばしば見かけることです。 手をつないだり、ハグをし
【3行まとめ】 最近のニュースを騒がせるサウジは、日本とは全く違う国だと思ってしまいますが、地縁・血縁が強い階層社会であることや、おもてなし精神がおおらかなところは、日本と似ていて、不思議な親近感を覚えます。 サウジの政治・経済に続いて、次のトピックは社会・文化です。男女の不平等や失業問題など、現下の社会問題については、すでに紹介いたしましたので、本項では、もう少し長期的なスパンで見たサウジ社会の特徴を紹介したいと思います。 まず、アラビア半島の厳しい気候について紹介
【3行まとめ】 ・サウジは、市場規模と成長性から有望視されているが、政府の不透明性が高く、企業は投資をためらっている。次期皇太子は、ビジョン2030の旗のもと、経済・社会改革を急速に進めているが、課題は山積み。 ・産業育成を阻む壁:政府の不透明な規制 前項で業種別に述べたように、サウジの市場の魅力は、その市場規模と成長性にあります。JETRO発行のレポート、「リヤドスタイル」によると、サウジに進出している日系企業89社のうち、約80社がサウジの魅力を「市場規模と成長性」
【3行まとめ】 ・サウジの石油産業は、採掘コストの低い油田に恵まれ、引き続き有望産業。石油相場が下落する中、失業対策には新たな産業が必要。石油以外の産業を育成するため、インフラ・建設などの分野が有望視されている。 これまで、サウジの失業対策として、労働者側のアプローチ(労働供給側)に注目をしてきました。本稿では、企業側のアプローチ(労働需要側)について見てみましょう。 さらなる雇用を創出するためには、産業のさらなる育成が望まれます。サウジの有望な産業として、石油、石油
【3行まとめ】 ・石油価格が下落し、サウジ経済が悪化している。政府が取り組むべきことは、国民へのバラマキや、海外企業へのサウジ人採用の義務付けではない。教育の立て直しや、女性の活躍のための環境整備が不可欠である。 石油価格が下落し、サウジ経済が悪化しつつあります。経済が悪化し、失業が増えれば、人々の不満が溜まり、反政府的な運動への萌芽となりかねません。 サウジ政府の最重点目標は、サウード家による絶対王制の存続であり、そのためにも失業対策が急務です。 失業対策には、
【3行まとめ】 シェール革命によって石油価格が下落し、サウジの経済が悪化。政府のバラマキの額が減り、庶民の不満が高まっている。庶民の不満を解消するため、政府は王族を拘束。さらに、政府は王族の保釈金で財政赤字を補う。 ・米国シェール革命による原油価格低迷の衝撃 日用品から軍事まで、何でも海外に依存するサウジ経済は、石油資源による安定した収入があって初めて成り立っています。 石油資源による安定収入が続く限り、サウジ国民は、資源を売却して資産を取り崩しながら、特に働かなくて
【3行まとめ】 ・サウジ経済は外国人労働者によって支えられている ・外国人労働者の労働環境は過酷を極めており、人権侵害が課題 ・サウジは政策立案から軍事まで欧米コンサルに依存しており脆弱な構造 (写真は、首都リヤドのインド・パキスタン系の外国人労働者が居住する地区。きらびやかな建物とは正反対。トラックに山積みの靴を路上で売っている。サウジに着いてしばらくは、この地区に住んでいました。) ・出稼ぎ外国人労働者の過酷な労働環境 国民の多くが労働を嫌う中、サウジはどのように経
【3行まとめ】 ・サウジは世界最大級の石油埋蔵量を誇り、国家権力の源となっている ・石油収入によって、国民の勤労意欲が低下し、失業率が高くなっている ・労働者は、教育水準が低く、かつ職を選り好みしている (写真は、砂漠の中に突如現れる石油関連とみられるプラント。) 2.内政 (2)経済:石油依存経済のいまとこれから ・国家権力の源 世界最大の石油埋蔵量 サウジアラビアを論じる上で、最も重要なキーワードを3つ指摘するとすれば、「イスラム教」「絶対王制」「石油」となるでし
【3行まとめ】 ・サウジ政府が、最優先することは、サウード家の絶対王制支配の存続 ・石油収入を分配して不満を抑え、情報を検閲してクーデターを防ぐ ・絶対王制を存続させるために、民意を吸収し政策に反映させる (写真は、リヤド市内のショッピングモール。次期国王と目される、若き皇太子のムハンマド・ビン・サルマン氏が大きく飾られています。) ・サウジアラビアの行動原理:サウード家による絶対王制の死守 ここで、現在の王位継承争いからは離れて、絶対王制を採用するサウジアラビアの構
【3行まとめ】 ・スンニ派とシーア派の違いは指導者の選び方。教義に大きな差はない ・世界全体のイスラム教徒のうち、約9割がスンニ派 ・宗派対立の多くは、教義をめぐる争いではなく、経済的な利権争い スンニ派とシーア派が分裂した原因は、7世紀、開祖ムハンマドの死後に起こった世継争いです。イスラム社会の指導者は、ムハンマドと血のつながりのあるアリーとその子孫から選ぶべきだ、「シーア・アリー(アリーに従え)」と考えた人たちがシーア派を構成しています。 他方、イスラム社会の指導
【3行まとめ】 ・王位継承は、単純な年功序列ではなく、個人の実力で選出される ・能力が不十分な国王の場合、暗殺されることもある実力社会 ・次期国王の皇太子は31歳と若く、実績作りのため急進的な政策を行う 2.内政 (1)政治:サウード家による絶対王制国家 ・王室の歴史と王位継承プロセス 第1章でサウジアラビアは絶対王制であることに言及いたしました。憲法において、「司法、行政、立法の三権は、国王の下で、相互に協力して執行される」と定められており、国王が最高権力者であること
【3行まとめ】 ・「イスラム」とは、唯一神アッラーへの絶対的な信仰をすること ・イスラム教を信仰する人を、民族や地理を問わず「ムスリム」という ・イスラム教は実践する宗教。内心の信仰だけでなく礼拝など行動が必要 (写真はイスラム教のお祈りの様子。PhotoACより。) ・イスラム教とは 本章では、厳格なイスラム教義がもたらす日常生活への影響について言及した後、サウジがなぜイスラム教に厳格なのか、その政治的背景について説明を行いました。章のしめくくりに、そもそもイスラム教
【3行まとめ】 ・サウジは、武力でアラビア半島を制圧した国家であり、統治の正当性が必要。統治の正当性をイスラム教に求め、権力の源になっている。また、サウジはイスラム教の聖地を擁しており、その神聖さを守る必要がある。 (写真は、ジェッダ市内の大きなサウジの国旗。) ・なぜサウジはイスラム教に厳格なのか さて、ここまでサウジのイスラム教の厳格さについて具体例をあげながら紹介してきましたが、なぜここまでサウジはイスラム教に厳格なのでしょうか。 もちろん、人々がイスラム教を
【3行まとめ】 ・ラマダンは断食を通じて弱者に共感をする月であり、寄付がよく集まる。イスラム過激派は、ラマダン月にテロを行い、多くの寄付を集める。サウジには宗教警察がいて、教義に違反すると厳しい刑罰が課される (写真は、首都リヤドの公開処刑場。写真中央の排水口に、死者の血が流されたとされている。現在、処刑は非公開。) ・年に一度の断食 ラマダン月にテロが多い理由 イスラム教徒は、年に一度、およそ一ヶ月間断食(ラマダン)を行います。ラマダンの時期は、太陰暦のイスラム暦によ