ボルサリーノにタンゴパンプスー私の性自認、性的志向、ナルシシズムのこと 18

もうね、身体中が不調で、もうすぐ死ぬんじゃねーかくらいに思ってるので、終活の一環として始めたこのnote全体、急ピッチで進めて、もうヤケクソ？で何でも書いてやれ、己の黒い部分もクズな面も綴ってやろうと意気込んでいます（もう、すでに書いてる気がするが）。本当にひどい自分勝手な記述だらけになりますので、これ以上私を知りたくない、嫌いになりたくないという方は以降、閲覧禁止な！

例の元交際相手の話は今回はやめておく、どうせまた出てくるし。

その元交際相手と知り合うちょっと前に、私はパリにいたんですわ。ネットで知り合ったフランス男と......って話をするとこれまた長くなる。脱線する。なので詳しくは自伝に書こうと思っている。とりあえず今はメル友の仏人男と交際した、いや、あれを交際って言っていいのか分からんが、まぁそんな人がいたとだけ。

仏人男、フランクとはそもそも会うつもりはなかったんだよな、パリに行ったけどそれは彼奴に会うためじゃなかったし、ていうか彼奴の存在さえ忘れかけてた。一人旅、初のフランス旅行。けどロンドンに住むポルトガル人のメル友、ペドロと落ち合うことになってて（この話は過去作に書いた......面倒なので貼らないけど、暇な人は探して読んで下さいな）、奴と丸１日一緒に過ごしたはいいが、お互い「なんか違う......」ってことになっちまいましてね。尤も、彼とは愛とか恋とかじゃなかったのですけども、話だけはとにかく合った。会うまでの数か月、メールのやり取りを一体何百通したか覚えてないくらいしたけれども、文学、映画、絵画等の趣味はもちろん、考え方も感性もめちゃ似ていて。ああ、会う前に盛り上がりすぎると実際会った時には上手くいかないなんてことも多いわけだけど（当時の私、20代半ば～後半、ネットで知り合った人とかなり会った経験による）、彼はその最たる人物でしたわ。で、ペドロとは3日くらい一緒に過ごす予定だったんだけど、1日でお別れ。私はやれやれと思いつつ適当にパリの街を一人で自由に彷徨ってたんだが、なんかもっと愉しいことないかな～ってなんとなく思いながらホテルの階段を下りてたら踊り場にPCがあるのを発見したのですな。泊まっていたホテル（とはいっても、下町のそれです。日本で言うなら下宿という感じでしょうか。ちなみにボーヴォワールが住んでたところ）の狭いロビーにも数台PCがあるのは知っていたが、何故か使う気にはなれなかったのだ（そもそも、旅先でネットをするのは好きじゃないんですわ、私。まぁ、私が旅をしていた頃はまだスマホは存在してなかった。インターネットカフェってものが街にあるかな、ってレベル）。けど、何か閃いてしまって
「ああ、そういえばパリにメル友いたじゃん？」ってそのPCを起動させ、フランクとやり取りしてた捨てアドにログインした。未読メール数十件。ああ、日本の旅好きオフ会仲間がなんか銀座の薬膳料理の店の話で盛り上がってる。とりあえず返信しておくか。「ボンジュール♪こちら、パリは快晴です。今日はオルセーに行ってきましたーーいいですね、薬膳料理。帰ったら連絡しますのでまた誘ってください」
ペドロ、マヌエル、由香、ミヒャエル、ユッカ、サイモン、トミー............ああ、あった、フランク。
「フランク、元気？私のこと覚えてる？」から始まり「今、パリにいるんだけど......よかったら会えるかな？」という短いメールを送った。
ホテルの近く、サンジェルマンを散歩して、数時間後に戻ってPCをまた起動したら......フランクから返事が来ていた。
「どこに泊まってるの？今晩9時過ぎなら行かれるよ？」

フランクとホテルの前で落ち合い、その日は食事をしてからバーに行って、ホテルの最寄り駅のオデオンで別れた。彼のアパルトマンはそこからメトロで一本。その次の日も、その次の次の日も、帰国するまでの1週間ちょっと、彼が仕事が終わった後に落ち合って彼の住むアパルトマンに泊まった。フランクは日本が大好きな、いわゆる「タタミゼ」ってやつだった。日本人から見たら「それは日本風じゃないべ」みたいな似非日本風インテリアが好きで、日本の文化を愛好して、日本語を勉強していた。壁には彼が撮ったという、私の故郷の横浜の写真が飾られていた。あ、フランクってのは偽名で実はジャンだったんだが「自分の名前、気に入ってないからそう名乗ってた」と言っていた。

そしてここからが本題なのだが、ジャンと私は全く趣味が合わなかったんだよな。恐ろしいくらいに合わなかった。20年以上パリに住んでるのにルーブルに一度も行ったことはないらしかったし、音楽も当時流行ってたなんかよく分からんポップスみたいなのを聴いてたし、いつもプレステを一緒にやったりしてた。性格もなんか、普通にいい奴なんだけどちょっとガキっぽいし、私が本来なら好きになるようなタイプでは全くなかった。けどある日の彼の一言で私は彼が愛おしくてたまらなくなってしまったのだ。恋に落ちてしまった。
「僕、君のこと大好きだけど、それは君が日本人だからって理由もあるんだ」って。
「あんたってなんて正直な奴だ！」って思ったの。パリが好きな私も、パリでジャンに会わなかったらきっとこうして一緒にいることはなかったはずだ。同じだ、つまり。利害が一致してるとでもいおうか。人を好きになるのに大した理由は要らんのだなって人生で初めて感じた。こりゃ、ナルシシスト卒業か？自分と全く違ったタイプの人を好きになるなんて！？とも。

その3か月後、今度はジャンに会いに行くためにパリに行った。今度はホテルではなく、ずっとジャンの狭いアパルトマンに3週間、いや、もうちょっといたかな。ジャンは相変わらず好いたらしい奴で、楽しく日々を過ごしていたけれども、やっぱり趣味や感性の合わない人だと思った。そんな人と上手くやっていけるのだろうか。是非両親に会ってくれと彼の故郷のブルターニュの街で一緒に週末を過ごそうと言われたが、躊躇ってしまい隣国ベルギーへの旅行を提案して彼の車に乗って行った。そして帰国直前には「今度はワーホリで来てよ。長期滞在出来るし、ずっと一緒にいたい。2人の将来を考えよう」と日系デパートの求人まで見つけてくれたけれども私は返事を保留してしまった。

帰国して、しばらく考えた。それでいいのかって。パリに住むなんて魅力的過ぎる。子供の頃からずっとずっとあれほど憧れたパリ。けれどどうしても彼と生涯共にするのは多分無理だと思った。ほぼ毎日メールのやり取りをしていたけれど、次第に私は返事をしなくなってしまった。どうしていいか分からずに。彼はそれでも毎日私を気遣いつつも情熱的なメールを送ってきた。
彼の最後のメール、今でも覚えてる、今でも残ってる。
「しにましたか？」って一言、日本語で書いてあった。私はそのメールに返事はしなかった。ゴメン、ジャン。
私は何度も生まれてから道を踏み外してきたし、後悔したことなんぞ山ほどあるし、選択を誤った数はモンブランの標高以上だが、おそらくあれが人生最大の失敗だったのかもと今でも思うことがある。もしジャンと上手くいかなくても、パリに今も住んでそれなりに楽しく暮らせていたかもしれない。あの選択が正解だったかなんて分からない、分からない。けれど、彼のアパルトマンのキーロックの番号は18年経った今でも覚えているし、花壇の植え込みのゼラニウムも、記憶の中で鮮やかに咲いている。

ジャンの最後のメールから1か月後、例の元交際相手と出会った。出会ってしまったのだ。