第二歌集 日々の歌
第二歌集
日々の歌
藤本楠庭ー大空まえる
この頃は、まだ、神奈川県の藤沢に住んでいました。
信仰のつもりで人に話しかけ
それでも少し心満たさる
寒き朝ドラム缶よりもくもくと
立ち上りたる焚火の煙
横浜の夜の街路のいちょうの木
ショウウインドウの明かりに映えて
電車より降り立つ前に聳え立つ
団地の窓の明かりまばらに
停車場の電車のそばに風立ちて
煙草の銀紙小さく舞った
坂道を自転車漕げばゆくりなく
高架を電車のゆっくりと走る
ひたむきな教校生の体験談に
ぐっとこらえし涙あふるる
振られないだけの誠をせぬゆえに
好きな女性に手も足も出ぬ
誠など気恥ずかしくはあるけれど
声張り上げる街頭募金
久々に取り組みたればついついと
熱の入りし日曜大工
他宗派の信者と共に働くは
我が信仰の問わるるところ
熱海にて日ノ出間近の屋上の
湯船にひたり初島望む
(社員旅行)
入院の母の我が家の鏡台に
入院前の生活偲ぶ
(帰省)
五月晴れ蒸し暑けれど久々に
自転車でゆく故郷の道
病床の母の看護の諸々に
行き届きたる看護婦さんら
見栄を張り初歩より誠せぬままに
人に遅れをとる三十年
向かい合う座席の若きカップルに
目のやりどころ少し困りつ
昼食をいただきながら仕事場で
盆栽などに囲まれている
(看板見習い)
八重桜色褪せつつも未だなお
赤紫にたわわに咲ける
睡蓮の葉と葉の間《あい》に浮かびたる
散りし二輪の八重桜かも
裏庭の木苺の新芽伸びにつつ
太太としてたくましきかな
伊賀上野山越えバスの窓外に
ドラマで見たる伊賀を求めし
触れ合いて四本並ぶ桜の木
さながら裾の広がる如し
青空を背《そびら》に白々咲いている
桜の花と空の色映ゆ
教会の車を洗う五月晴れ
清々しさに包まれにつつ
鉢植えの挿し木の梅の細枝に
紅の花二輪の咲けり
盆栽の青葉の下にたわわにも
さくらんぼうの如き実のなる
公園で見るは初なる太極拳
同好の士に好感覚ゆ
青空は雲一つなく澄み渡り
身のピリリッと引き締まる朝
開運の希望に燃ゆる錬成か
家庭の平和ただ望みつつ
一夜にて積もりし雪か白銀の
花咲く如く山一面に
厚き雲縁を光らせ丹沢の
霞みし峰を遠く控えて
新しき客車と見ゆるグリーン車
甥が乗りしと言いしものかも
甥っ子に夢を託せし学園や
今入学の知らせの届く
お刺身のまぐろシソの葉いかを盛り
菊花を添えて画龍点睛
教師より賜る資料目を通す
学令式の季節となりぬ
長年のみささげの徳現わるや
通夜に集まる懐かしき顔
盛り付けも皿洗いにも気働き
良くふるまえる大学生か
お祝いの懇親会に勤続の
四十年の人たちもいて
久々に来たる江ノ島想い出の
そこいら中に転がりている
建てられし新殿堂の基礎深く
多少のことではびくともすまい
使用後の食器つぎつぎ運ばれて
手早く洗い水切りをする
厨房に食器洗いつラジオより
二代教祖の訃報耳にす
幼より教えに触れしありがたさ
御前に祈り礼《いや》申し上ぐ
(第二代教祖告別式)
退社後の江ノ島詣での参道に
ゴーンと一つ竜口寺の鐘
窓越しに見える隣の山桜
蕾今にも開かん気配
退社して電車待ちつつ見上げたる
桜まさしく満開となる
年を経てペンキも剥げしいさり船
河口の橋に舫《もや》われている
少しだけお世話いたせし子供さん
いつのまにやら大きくなりぬ
(小・中・高等部会)
小さきころ共に遊びしこともある
甥もいつしか高三となる
注文に付け合わせ盛り飯をつぎ
食器洗いと今日は忙し
(江ノ島花火大会)
河口にて群れしカモメの次々と
水面《みなも》に降りて魚とるらし
久々に青空覗き茜雲
ゆっくり流る台風一過
たそがれに海面《うなも》の波の日を返し
河口の船の影も重なる
厨房の仕事も終わり肌寒き
駅のホームに珈琲を飲む
日の暮れて今年最後の買い物に
人の歩みもあわただしく見ゆ
お参りし初冬の庭を掃除する
空のしだいに明るくなりぬ
正装しひたに唱えるおやしきり
指の先まで凍《い》てつきし朝
剪定後数年ぶりの梅の木に
枝一杯の蕾つくなり
甥たちの布団を直し鶯の
今年初なる鳴き声を聞く
調わぬ一声なれど鶯の
流れるように清らなる声
一声は未だ調わぬ鶯も
三声目頃《みこえめごろ》の清らかに鳴く
日々のごとご飯を炊けど子供の日
注文続き追い炊きをする
夕食に冷蔵庫より見つけたる
使い残しのキャベツ炒める
木苺の真っ白い花小窓より
見えれば更にその戸を開く
試写会に見る中国の食文化
職場に照らし確認をする
ステテコにアンダーシャツで必要な
洗濯物にアイロンをかく
教祖祭式典ののち頂きし
ふるまい菓子に聖地を偲ぶ
赤い実を付けているのは山椒か
中に馴染みの種を見つけし
読み返す数年来の短芸に
その時々を思い巡らす
(短歌芸術)
食堂の窓より見ゆる駅前の
植込みの木のもみじしている
なかなかの喫茶店にて豆を挽き
入れる珈琲ひと味旨し
邸宅の庭の桜木みどり葉に
もみじも混ざりモザイクのごと
ゆくりなく何やら舞うか白きもの
更にちらほらやはり初雪
カーテンを開ければすべて白き屋根
雪は辺りを包みゆくかも
千両に積もりし雪のサクサクと
まるでさながらかき氷かも
欽ちゃんと教祖に呼ばれし先生の
体験談をビデオに拝す
(板垣欽一郎師)
遅れたる庭梅なれどようやくに
あまたの蕾咲き初めにけり
咲き初めし庭の白梅ほのぼのと
上の方だけ陽を受けている
白梅の上枝《ほつえ》に日差し受けながら
八分ばかりに咲き初めにつつ
薄青き空を背《そびら》に夜桜の
ほんのり白く今満開か
裏庭の雨に濡れたる木苺の
波打つような白き花びら
札幌の姉の一家に招かれて
安請け合いのお見合いをする
いろいろな姉の作品飾られし
部屋に招かれお見合いをする
札幌と姉に別れて帰路に就く
身の程知らずのお見合いをして
トタンにて僅かなスペース庭にする
田舎の我が家偲ばせる店
諸々の事情を文にしたためて
昼の休みをレストランに居る
引っ越しの予約をしたり費用など
できる限りの遣り繰りをする
ここまでが、神奈川県の藤沢での生活でした。
これからが、郷里、岡山県の玉野市に戻っての生活になります。
寝台車の小窓覗けば懐かしき
朝焼け空に関西の山
思い出すこともなかった故郷の
通学の道歩いてみるも
帰郷後にまずは取り組む大掃除
細かい桟も丹念に拭く
天井も壁も新たになりし部屋
畳一畳外されしまま
掃除機をかけては拭くを繰り返す
久しぶりなる二階の部屋に
大きな巣群がる蜂のすぐ横を
母はよたよた歩いてゆくも
長きこと家を離れし身勝手を
母の危険を見てお詫びする
掃除中父の残せし短冊の
俳句あまたも見つかりにけり
塵はたく父の俳句の短冊を
軒に広げて小風を通す
急坂の小道懐かし山の手の
手入れの届く憧れの家
ゆらゆらと泳ぐオコゼの厳《いか》つくも
見かけによらぬ可愛らしさか
懐かしき店かカメラのたかな堂
店主も髪の白くなりつつ
ひょろひょろと呆れる程に伸びし木に
山の昔を思い出しつつ
鎮もりし里の神社の裏の山
里人たちの墓所を抱きて
削りたる冷蔵庫の霜見間違い
叩けばシューッとガスの抜けゆく
ふるさとの家の近くに墓所ありて
たまの掃除もしてこられたり
渋川の砂浜に立ち母姉と
共に見渡す瀬戸の大橋
母姉と共に渋川海岸に
膝まで浸かり海苔掬いとる
井戸水を入れれば池の中央の
底に金魚ら寄り集まりぬ
川の鯔他魚を尾びれで洗いつつ
腹を光らせスーッと進む
見下ろしの岩を飛び出すオスの雉
そそくさと山の焼け跡を行く
裏山の焼け跡を雉の登りつつ
青き羽毛と赤き顔見す
裏山の焼け跡を行くオス雉の
いずこへとなく消え去りにけり
おじさんは段々畑の細道を
大根ぶら下げのんびり帰る
坂よりの見下ろしの庭うららかに
日の当たりいて洗濯物あり
昨日の雪山肌に残りたり
まばらに木々と交ざり合いつつ
漁《いさ》りする漁師が一人背を曲げて
舟の縁より海面《うなも》見ている
輝ける雲稜線の上にあり
太陽の光突き抜けてきて
小雨降る岸辺に一羽鷺らしく
さざ波洗う石に佇む
水面《みなも》より首を突っ込み逆立ちで
水底探る一羽のアヒル
西川を二羽のアヒルのスイスイと
流れに乗りてすぐに近づく
泳ぎつつ池の岸辺に群がりし
鯉はゆっくりパンを食べるも
川の水少し波立ち堰下る
さわさわさわと音を立てつつ
西川の緑道公園《りょくどうこうえん》アヒルたち
声を揃えてガアガアと鳴く
ゆくりなくお宮の桜枝いっぱい
付きし蕾の膨らんでいる
本殿へゆるゆる登る参道の
脇へ連なる石の欄干
境内の三段組に掛かる絵馬
諸願成就の朱印を押して
参道にせり出す枝の満開の
桜の花の欄干の上に
み社《やしろ》の檜斜めにせり出して
社務所を覆う枝枝もあり
空青く映える桜の枝枝の
花のたわわに咲き満ちている
また一つ風に舞いたる花びらに
道はさながら吹雪溜まりか
新緑の瑞々しさに群れて咲く
赤紫のツツジの花は
み桜の花の吹雪の舞につつ
近くの山に鶯の鳴く
葉の間《あい》を赤紫に群れて咲く
ツツジの花に蝶の舞い来る
公園に一群れとなる赤ツツジ
青葉の間にたわわにも咲く
日の当たるベランダ越しに見えている
南天の葉の日を透かしつつ
この年も我が家に生りしマスカット
母は娘に送らんと言う
球場にイベント始まる片いなか
張本さんに王さんもいる
違和感の拭い去れない王さんか
そのユニフォーム縞柄なれば
スローボール投げつつ早う振らんかと
場を和ませる金田さんはも
投げ終わりなお胸を張り腕を振り
おどけて見せる金田さんはも
ネット裏一番前に立ちて見る
後ろの人に気兼ねをしつつ
スタンドの人にすまぬと思いつつ
最後列に席を改む
スタンドの最後列の低き塀
支え持つ手に力の入る
アナウンス谷沢《やざわ》なれども打席には
誰か分からぬ人立ちている
凡打ばかり打ちたる谷沢お待ちかね
右翼スタンドにホームランする
快投を誇る平松ゆっくりと
打ち易そうなボールを投げる
整いしフォームで投げる東尾は
ボールも丁度良き速さにて
足をあげ一瞬止まり素早くも
速球投げる村田兆治は
大きめのスパイク気になる福本の
一・三塁間盗塁をする
県内の先生方の筆になる
書を鑑賞に会場目差す
いずこより薫り来るのかお茶の店
分からぬままに通り過ぎゆく
岡山の目抜き通りの店先に
インド料理のサンプルを見る
書道展場違《しょどうてんばちが》いなれど意を決し
案内状を渡して入る
作品の字のほとんどは分からねど
筆遣いなど勢い感ず
作品と共に写真を撮らるるは
これなる御仁の筆なるものか
珍しきインド料理の店なれば
チラシをチョイと頂戴いたす
お茶の香の薫る辺りに差し掛かり
店見つけんと注意して行く
お茶の香の薫るお店を見つけ出し
抹茶ソフトを一つ頂く
母姉とテレビに拝す雅子様
御婚礼のパレードにして
回廊を行く正装の雅子様
おすべらかしに十二ひとえで
朝見の御前に進む皇太子
ローブデコルテの雅子様はも
母校なる中学に来て鉄筋に
建て替えられし校舎に入る
年を経て高校入試に臨むため
母校の若き女教師《きょうし》に計《はか》る
高校の入学試験を受けるため
門を目差して歩みゆくなり
高校の入試計《にゅうしはか》りし女教師に
照れくさきゆえお礼も言えず
高校を中退してより三十年
入学試験に取り組みている
隣やら後ろの席のセーラー服
どうやら母校の女子生徒らし
試験後に今の問題できたかと
期待と不安の中学生ら
晴れの日の高校入試の昼食に
サンドウィッチと牛乳をとる
高校の入学試験の面接に
何でも来いと心を決める
裏山に立ち上りたる薄煙
百十九番通報をする
公園の未来都市ふう建物は
開館二日目倉敷科学センター
草原をあたかも低く飛ぶ如し
アストロビジョン全天周映画
見上げたる四季の夜空に満天の
星降る如しプラネタリウム
バスを降り坂道登る由加山の
倉敷少年自然の家は
入所式倉敷少年自然の家
生徒代表挨拶をする
初めてのグランドゴルフ強打せし
玉の意外に転がりゆかぬ
薪くべて頻りに噴き出す湯気とお湯
泡となりつつ飯盒炊《はんごうすい》さん
カレーライス終わりタワシで鍋底を
洗えば煤の混ざり泡立つ
朝食の前に三旗の降ろされて
自然の家に別れを告げる
ゴーンと突然響く鐘の音
仰ぐ鐘楼にお坊さんの影
雲の影静かに落ちる大仙山
頂きだけに薄日の当たる
園庭を門に向かいて母と娘《こ》の
おてて繋いで微笑みながら
玉中の吹奏楽部のハーモニー
土曜夜市の演奏にして
玉中の吹奏楽部のハーモニー
指揮をなされる若き女教師
今もなお結構人の参拝す
里の社の輪くぐり祭
お祭りのご本殿なる神棚の
お供え物をしげしげと見る
白瓜を持ちて突然走り出す
レジの女性とハタと目の合う
カアカアと雨の上がりしグラウンドに
二羽の烏の何を啄む
自転車で追い越してゆく若き女性《ひと》
ネックレスしてスタイルもよし
もてあそび見るも無残なサンダルに
じゃれし子犬のかぶりつきつつ
蝉しぐれひたすら続く夏の日に
ひときわ高きオーシンツクツク
目覚めたる朝《あした》の床《とこ》に蝉しぐれ
裏の山より喋《しゃべ》くりやまず
晴天の爽やかな風商店の
つるされている風鈴鳴らす
嶺遥かオレンジ色に染まりつつ
雲一つなく晴れ渡る空
既得《きとく》なる御婆さんなれやトンネルの
中を箒で掃除なさるる
松の木の葉陰に数羽雀子の
見え隠れつつ囀《さえず》りている
電線に止まる燕らおのがじし
相手かまわず囀りている
朝霧の薄くかかりて静まりし
表通りに鉦の音聞こゆ
燕《つばくろ》のふっくらと毛を膨らませ
嘴埋め毛繕いする
どしゃぶりに路面の水の増え続け
捌《は》けるそばから更に流れ来
とげとげの蕾大きく咲いている
花のどうやら向日葵《ひまわり》らしき
霧かかり木々の間《あわい》を湧き上がり
嶺の辺りを隠してしまう
母と共に信号渡る女の子
「おうちへかえろおうちへかえろ」と
太陽の昇り秋雲金色に
染まり耀う台風一過
壮年の錬成《れんせい》に来て窓越しに
白き大平和祈念塔立つ
窓外の白亜《はくあ》の大平和祈念塔
朝陽を受けてすがやかに立つ
錬成の大講堂に集いつつ
合唱高まる壮年の歌
高速のバスの後ろに付いてくる
車は車間距離を保ちて
朝焼けの東の空のうろこ雲
光るところと陰るとこあり
早朝の雨の降りたる草むらに
ガチャガチャリンリン虫の音のする
紅白の幕に幟《のぼり》の並びたる
小高き丘の早朝の寺
白きもの銜《くわ》えてカラス飛び来たり
電信柱のトランスの上《え》に
秋晴れに白き車の輝きて
大仙山の清やかに見ゆ
朝焼けに影絵のごときクレーンの
静やかにしてしっかりと立つ
店先の小鳥のおりし鳥かごを
覗きて母のにっこりとする
山の木の色づき初めし朝方に
赤み帯びたるやわ陽の当たる
朝霧のかかりて大きクレーンの
霧の中より聳《そび》え立つごと
暗雲の間《あわい》より差す太陽の
眩しき光一筋にして
チュンチュンと雀の二羽が飛び合いて
上に下にと戯《たわむ》れている
暗雲のへりに太陽直射して
眩しく白く輝いている
山の端に日の沈みゆき暮れ残る
空に裏山薄暗くなる
店先に植えられているボケの花
白とピンクに咲き分けている
空青く朝日を受けし羊雲
北へゆっくり流されてゆく
朝の日のやさしく及ぶ木に二羽の
目白らしきが枝移りする
雨あがり少し青空見え始め
山の地肌のしっとりしている
朝焼けの空に大型クレーンの
ワイヤー静かにぶら下がりたり
臥竜山頂上辺りの焼け跡に
自動車らしきガラスの光る
山の面《も》を白く霞めて粉雪の
飛び交うように降りしきるなり
朝まだき積りし雪を踏みゆけば
先に付きたる足跡のあり
にび色の空より雪の降り続き
家並みの上《え》に白く積もれり
降りし雪積もりたる道自転車の
わだち幾本うねり続けり
山の木を白く包みて降る雪に
クリスマスツリー並びたるごと
トンネルの周りの木々を白く染め
この冬一の雪の降りつぐ
街並みの向こうに見える大仙山
まばらな雪に雪国のよう
雀子の消え残る雪啄みぬ
そばを歩くも逃げるともなく
大仙山雪をかぶりてまばらなり
突き出す岩の濃くくっきりと
本堂の屋根の反りたる大聖寺
薄らに雪の積もりたるかも
臥竜山《がりゅうざん》この冬一の雪かむり
中腹の木々寒々として
遠山に白さ著《しる》けく積もりたる
雪はこの冬一番のもの
山々の色濃き木々の雪かむり
まばらに白し町の彼方に
玉野なる臥竜山にも雪積もり
焼け跡辺りゲレンデのよう
トンネルの壁の凹凸セメントを
吹き付けただけでほら穴のごと
トンネルの蛍光灯は壁を輪に
照らして続きワープのごとし
(SF映画のシーン)
見上げたる真上あたりに皓皓《こうこう》と
月の輝くほぼ真ん丸に
灰色の雲の手前の冬の山
暖かそうな朝の陽を受け
瀬戸内の島の手前の凪《な》ぎし海
眩しく光る雲間もる日に
真っ白に湧き立つ雲の上層の
下に広ごる灰色の陰
待ち時間持て余したるちびちゃんは
ただに黙ってのたくるばかり
(病院の待合)
春雨に咲き初む梅の蜜を吸う
目白数羽の枝移りして
町中のフラワーポットの葉陰より
小鳥顔見す眼のふち白き
参拝の記帳なしたる卓上に
甘く香れる沈丁の花
朝方に煉炭熾《れんたんおこ》せばご近所で
声張り上げておんどりの鳴く
遊歩道帰る道々後ろより
ふとも鶯初音を聞かす
梅の枝に羽をせわしく動かして
一羽の目白蜜を吸うらし
青空にあまた咲き初む木蓮《もくれん》の
クリーム色の上向きの花
青空にあまた咲きたる木蓮の
クリーム色の花に日の差す
白梅の先の切られし太き幹
新芽の伸びて姿整う
木蓮の白き花々咲き満ちて
青空に映ゆ朝の日を受け
空青く咲き満つ桜そよ風に
ひらひらひらと花びら散らす
青空に伸びしいちょうの枝々の
萌黄《もえぎ》の若葉日を透かしつつ
さっきまであやしていたに若き母
子を抱いたまま少し寝はじむ
降る雨に小枝の先のいちじくの
小さな新芽芽吹きはじめる
満開の桜の花に少しづつ
萌黄の若葉加わり始む
ライト点け警報鳴らしマイクにて
進行告げつつ救急車ゆく
原色に彩られたる鯉のぼり
新築されし家のテラスに
春の陽に誘われ狭き中庭に
紋白蝶《もんしろちょう》の一つ舞いくる
春くれば日当たり悪き中庭も
金魚の池に陽の伸びてくる
電線に一鳴き一鳴き尾羽立て
囀《さえず》り交わす雀子の二羽
大聖寺本堂の屋根てっぺんに
のどかな声でとんび二羽鳴く
教会の広間の花瓶に生けられし
可憐《かれん》な花はしゃがの花とう
春の日を受けて街路のさ緑の
ボックスウッドの艶《つや》めいている
(ツゲ科)
すくすくと伸びしいちょうの並木なし
萌黄若葉のトンネルとなる
並木なすいちょうの伸びて枝々に
萌黄の若葉こまかに並ぶ
暮れ残る尾根の上なる晴れ空に
オレンジ色の星の瞬《またた》く
冬越しの暗緑色の山肌に
じょじょに若葉の広がりてゆく
花も散り青葉となりし梅が枝に
つぶら実あまた育ちつつあり
日曜の朝早くして道場に
気合の声と竹刀の音す
道の辺のおおむらつつじ満開に
紅紫の花を咲かせて
教会の花瓶《かびん》の中の大輪の
紅の牡丹《ぼたん》の一輪の花
剣山を瓦《かわら》のかけらで隠したる
小さな花器の鈴蘭の花
兄妹の兄らしき子が石起こし
蟹《かに》を掴《つか》まえバケツに入れる
お祖父さんの前を歩ける女の児
両手を上げてはしゃいだりして
西風の冷たき春の青空の
上層あたり雲脚はやし
えにしだの黄色ふえゆく大仙山
澄む青空にくきやかに立つ
朝の霧尾根を隠して流れゆく
薄らに岩を浮かび見せつつ
庭先の鉢のサボテン紅に
紫がかり満開に咲く
中庭の小さな池に日の当たり
金魚のうろこキラリと光る
目の前の花にとまりし紋白蝶
口吻《こうふん》伸ばし蜜を吸いいる
マラソンに歩道行き交う人らあり
昼を額に汗光らせて
朝の日を受ける小高き尾根沿いに
とんび一羽がゆるやかに舞う
日を受ける小高き山の裸木に
とんび一羽の舞い降りにけり
参拝の道々の歌記すべく
手帳開けば老鶯《ろうおう》の鳴く
雨あがり宿すしずくに紫陽花の
淡きピンクの花みずみずし
畑の辺のひまわり一つ青空に
黄色の花をやや上向かす
荒れ庭に猫じゃらしの穂群れていて
日差しにふちの輝いている
梅雨明けを思わす日差し受けながら
大輪の花咲かすひまわり
夏の日の幟の立ちしみ寺より
和太鼓の音連打なさるる
潮の満つ河口に夏の風わたり
暑さしのげば磯の香のする
西風に流るる秋のうろこ雲
朝日を受けて輝いている
くきやかに緑の映える山の上
秋晴れの空真っ白な雲
ふるさとを見守るごとき大仙山
秋晴れ空に緑の映ゆる
風呂上がりふとベランダに出てみれば
葉擦《はず》れやさしく涼風の吹く
秋晴れの朝の小高き山の上《え》を
とんび六羽のゆるゆると舞う
里の山そびゆる秋の高空を
絹雲ゆるく東へ流る
彼の方を注視せし猫ひるがえり
躍動しつつ藪《やぶ》へ駆け入る
おわりに
いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけましたでしょうか。
僕にとりましては、みんな懐かしい思い出ばかりです。
ありがとうございました。
著者 藤本楠庭ー大空まえる
えいめいワールド出版
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