「怒鳴らないで下さい」と言えた日。
私は損害保険会社で営業をしています。
中途入社し、もうすぐ16年目。
保険会社と言えば想像されがちな、テレアポや訪問によってお客さんを勧誘するのではなく、保険を販売する代理店(皆さんが日頃手続きをしているのはほとんどが代理店です)への指導や教育をするのが主な仕事です。
保険会社の社員は、直接個人のお客さやに商品説明をしたりする事滅多にありません。
時々クレーム対応をしたり、代理店が説明しきれない場合に法人顧客を訪問することはあります。
以前から、私が担当する代理店のS社長の対応に困っていました。
S社長は、2代目社長として代理店経営しています。
年齢は私より5歳ほど上で、40代半ば。
大学卒業後すぐ父親が経営する代理店に入社し、後に代表取締役に就任された方で、一般企業での勤務経験はありません。
保険会社は、商品を代理店に提供し、代理店がお客さまと契約をすることで運営していますので、一昔前は代理店へのゴマすりがそれはそれはすごかった。
代理店は、小さいながらも経営者であるというプライドを持っていることと、古くからの慣習で持ち上げられてきた風潮のため、代理店は保険会社よりも立場が上!という意識がある人が多い。
そしてS社長も例にもれず、このタイプ。
私が担当するようになって3年ほどになりますが、
気に入らないことがあると、大きな声で怒鳴ります。
最初は、大人になって他人から怒鳴りつけられるなんて経験は初めてだったので、本当に驚きましたし、数日立ち直れないほど落ち込みました。
もちろん何度も泣きました(こっそりね)。
何度も繰り返されるうちに、また怒鳴られるのではないかという恐怖でビクビクしてしまい、一時期は携帯番号の登録名を「怒鳴られる覚悟をして取る」と言う名前にしていたほど。
だけど、どれだけ気に入らなくても、相手を萎縮させ、黙らせて自分の思いを通すなんてことは、あってはならないことなのです。
私は、この抑圧されるおかしな上下関係を当たり前だと思わず、違和感を無くさないようにしようと心に決めていました。
私が間違ったことをして怒鳴られるならまだマシのですが、ほとんどは勘違いや虫の居所が悪かったり…というパターンが多く、いつしか『怒鳴られないために』という判断軸で接するようになっていました。
そんなある日、S社長を担当する他の生命保険会社の営業社員(20代女性社員)も、私と同じ状況であることがわかりました。
私だけじゃなかったのか…
私が異動したり、担当替えがあったら、次に担当する私の後輩も同じ気持ちで仕事しなければならないのかと想像すると、この状況を看過するのはやめよう!と静かに湧き上がる青い炎のようなものを感じました。
そして上司に相談の上、S社長に申し入れることを決めました。
(直属の上司と、もう1つ上の上司にはかねてから状況を共有していました。
もう無理だと思う前に申し出てね、と言われてました。)
そして決行の日。
またもやS社長の勘違いから電話で怒鳴られました。
それから少し時間を置いて電話をしました。
「お話ししたいことがあります。
もう、声を荒らげてお話をするのはやめてもらえませんか?
私の能力で、御社を担当させていただけること、とてもありがたいと思っています。
至らないことも、不満もある事は認識しております。
ですが、大きな声で怒鳴られると、恐怖心から建設的なお話が全くできません。
私の後に御社を担当をするのは、私の後輩の女子社員です。
彼女たちに、私と同じ思いをさせたくありません。」
何百回、何千回と頭の中でこの瞬間のことをイメージしていたので、手は震えていましたが不思議と落ち着いて話をすることができました。
また、私は普段から怒鳴られている時は会議室等に行き、スマホをスピーカーにし、自分の携帯で会話を録音していました。
いつか何かの時に役に立つように。
そして、今回の申し入れも録音済み。
我慢してやり過ごして、異動を待つこともできたかもしれません。
また、上司に頼んで、担当を外してもらうこともできました。
だけど、それでは根本的な解決にならない。
私は、私の後任が困らないように、ということを念頭に置いていつも仕事をしています。
・代理店の従業員とプライベートのLINEは交換しない。
・異性の従業員とら2人きりで社外で会うことはしない。
会社のルールから逸脱した過剰な対応やサービスは、私の後任も同じ対応をするよう強いられることになってしまいます。
S社長は、ひたすら私に謝罪しました。
カッとなると、大きな声を出してしまうこと。
自分でも、この性格をなんとかしたいと思っていること。
自分が崇拝する代理店社長が、同じように保険会社社員に怒鳴りつけているのを見ていて、いつしかそれが当たり前だと誤認してしまったこと。
これまでも、怒鳴った後は私に電話やメールで謝罪がありました。
ただ今までと違うのは、S社長が保険会社側からこのような申し入れをされた事は過去1度もなかった。
これまで大人しかった、自分よりも格下だと思っている女子社員からキッパリと指摘されたことで、いくらかショックがあったはず。
私は、私を守ってくれないような会社なら、もう会社を見限って去る覚悟で行動しました。
10年前なら、思いとどまるよう会社側から説得されていたかもしれません。
しかし、コンプライアンス重視の社風になったことや、管理職の若返りにより、確実に会社が変わったと実感したので、思い切って行動に移しました。
これは、まだ10日ほど前の話。
しばらく平穏な日々が続くのか、それとも舌の根も乾かぬうちに…となるのか分かりませんが、
嫌なことを「嫌だ」と言えた私を、自分で褒めたいと思います!!
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