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The Lost Universe 古代の巨大水鳥⑤謎の巨大水鳥たち

鳥類の進化は非常に多様であり、あらゆる種族の鳥たちが「水鳥」となっています。陸上生態系と水域生態系を結ぶ彼らは、異なる世界のコネクターなのです。地球全体の生物多様性を維持するために、彼らの存在は必要不可欠です。
水鳥の世界には、まだまだ驚きと不思議がいっぱい! 古代種さえ真っ青になるほどの、現代のミステリアスな水鳥たちの謎に迫ってみましょう。


水鳥たちの現在と未来

全世界の水と空に舞う多様な翼

中生代から陸水域の生態系の一員として地位を固め、新生代に大いなる躍進と繁栄を遂げた水鳥たち。彼らは多様に繁栄・拡散し、今では生態系になくてはならない存在です。
河川にも海洋にも湖沼にも、そして干潟や水田にも水鳥は幅広く栄えています。それはすなわち、彼らの歩んだ進化戦略の勝利であり、彼らの能力が生存競争において極めて有利だったのです。水鳥の生態や形態的な特徴を知れば知るほど、彼らのすごさがどんどんわかってきます。

美しいフォルムのオグロシギ(国立科学博物館 特別展「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」にて撮影)。シギ類は後足が長く、浅瀬を歩き回りながら、水辺の生き物を効率よく捕食します。

進化の過程で、水鳥の後足は浅瀬を歩き回るために細長くなったり、後足に水掻きが形成されたりしました。陸上で機敏に動いたり、後足を武器として使うことは苦手ですが、代わりに水辺での移動能力は高くなり、独自の生態的地位を築き上げたのです。

ペリカン目に属するゴイサギ(井の頭自然文化園にて撮影)。水鳥の細長い後足は攻撃や疾走には適していませんが、浅瀬を歩き回るのにとても好適です。

陸域と水域を渡り歩き、大自然の物質循環を作り上げる水鳥。中生代の翼竜たちが担っていたであう役割を、新生代以降は鳥たちが受け継ぎ、地球の生態系を多様化させています。
自然界における水鳥たちの影響は計り知れません。水鳥の数が減ると多くの生命が甚大な影響を受け、生態系そのものが崩壊しかねません。自然界の循環を守るため、水鳥の保護、水辺環境の保全は欠かせないのです。

海辺の道路に集結したウミネコ。ときに彼らは淡水環境にも現れ、多様な陸水域の世界をつないでいます。

消えゆく水辺と彷徨う鳥たち

はるかな太古より大繁栄を勝ち取ってきた水鳥ですが、現代になって彼らは大きな危機にさらされています。水鳥は主に水辺で生活する鳥ですので、水域環境の減少や汚染が起これば、彼らの棲み家はなくなってしまいます。鳥は特に環境変化の影響を受けやすく、国際保護連合レッドリストに指定される絶滅危惧種の約14%は鳥類となっています
環境開発による水辺の消失、湖沼や河川の水質汚染など、人類の活動が水鳥の世界を壊し、多くの生命を破滅に追いやっています。この事実を受け止めたうえで、水鳥の世界を守るべく行動しなくてはなりません。

トキの剥製(国立科学博物館 特別展「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」にて撮影)。乱獲や農薬の影響で個体数を減らし、純粋な日本産のトキは絶滅しました。新生代後半以降の生物絶滅の大半は、人類の活動が関わっているのです。

地球規模で水鳥を守るために、世界では大規模な法令・条約の整備が進められています。代表的な例をあげるならば、1971年にイランのラムサールにて採択された「ラムサール条約」でしょう。
言うなれば、湿地及びそこに生息する動植物の保全を目的とした条約です。正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」であり、生命活動が水辺と密接に絡んだ水鳥にとって重要な意味を有します。ラムサール条約の登録湿地となれば世界的な知名度が上がり、現地の水辺保全や環境教育に大きなメリットをもたらします。

日本最大の湖・琵琶湖。ラムサール条約に登録された湿地環境であり、水鳥の重要な生息地となっています。
琵琶湖を往く2羽のカルガモ。水鳥が生きていくには広大な水辺環境が必要となり、これ以上の環境汚染はなんとしても防がなくてはなりません。

もちろん、ラムサール条約の登録湿地に限らず、全ての水域環境が重宝されるべきです。その中には、人為的な限定水域である水田も含まれます。
水田には水生昆虫や貝類や両生類が暮らし、水路を通って淡水魚もやってきます。田んぼの中で育った生き物たちを狙って水鳥がやってくるので、水田が織り成す生態系は実に豊かだと言えます。優雅にサギが歩き回る水田地帯は、とても美しく風雅な光景に見えます。

水田が減少し、耕作放棄地が増えれば、その土地の生物多様性が損なわれます。人が作った環境で大きく育つ生き物もいますので、水鳥を含めた生物全体の繁栄のため、生き物の揺りかごとなる水田は守られるべきなのです。

福島県の猪苗代町の水田地帯。代かき前の田んぼは、水鳥の重要な餌場となります。

環境保全と水鳥の保護の取り組みには、様々な実例があります。
小笠原諸島では外来のヤギ類が野生化し、現地の生態系を大きく変えていきました。この環境変化は、島に棲んでいた海鳥たちへの大きな打撃になったと考えられます。そこで小笠原では20世紀よりヤギの捕獲駆除を実施し、父島以外の島では根絶に成功しました(ヤギたちに罪はなく、勝手に連れてきた人間が全面的に悪いのですが、環境保全のためにはヤギを捕獲せねばなりません)

筆者が小笠原の父島で発見したノヤギ(写真中央)。彼らの生態行動は、海鳥の生息地を減らす原因となっています。ただ、人間に勝手に連れてこられたヤギたちも被害者なのです
小笠原の近海にて撮影したカツオドリ。各島のノヤギの捕獲が進んだことにより、海鳥の個体数が回復したと思われます。

ヤギは島の草原を歩き回り、海鳥たちの繁殖を阻害してきました。この影響から解放され、小笠原ではカツオドリやオナガミズナギドリなどの海鳥が爆発的に増えました。本件から学べることは、生態系の構成をもとに近い状態に戻せば、生物相の回復が見込めるという事実です。
このセオリーは水鳥のみならず、あらゆる生物に応用できる原則だと思われます。理解が完了すれば、後はゴールを設定して保全に向けて行動するのみです。

カモメ類の生息地は、主に海の沿岸部。海洋にゴミや汚染物質が流出すれば、たくさんの水鳥を死に至らしめることになります。

理知的な取り組みによって、水鳥と人間との共存は明るい方向に進展しつつあります。それはひとえに、水鳥を愛する人々の努力の賜物なのです。 

美しくかっこよく、愛すべき水鳥たち。彼らの神秘性は、ときに不思議な伝説を産み出します。ここからは、世界で報告される謎の水鳥の出没事件に迫っていきたいと思います。

謎の巨大水鳥たち

ファントム・ジャイアント・バード ~摩訶不思議! 幻影のごとく消える巨鳥~

「空を飛ぶ」という特性上、飛翔性の鳥にまつわる未確認生物の目撃談は古来より多数あります。人には届かない空を舞う姿に畏怖し、古人たちは鳥を神の使いのごとく感じたのかもしれません。その奇妙なお話の中には、水鳥らしき鳥のエピソードも含まれています。

コフラミンゴの剥製(国立科学博物館 特別展「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」にて撮影)。水と空の狭間を舞い、優雅に歩く水鳥たちはとても幻想的で、神話的なエピソードが生まれやすいと言えます。

2013年1月、アメリカ・ペンシルバニア州のサウスグリーンバーグの森の中で、謎の鳥の目撃報告が上がりました。1人の男性と2人の女性が森の冬景色を楽しもうと散策していたとき、見たこともない大きな鳥に遭遇したのです。

男性と別行動していた際、2人の女性は樹木の近くに鳥型の影を発見しました。その鳥は約2 mはあろうかという翼を広げ、折り畳んだ後、木の後ろへと移動しました。彼女たちは慌てて樹木の側に駆け寄りましたが、その鳥はどこにもいませんでした。
飛んだ様子もなく、地面には足跡すらなく、本当に忽然と消えてしまったのです。まさしくファントム(幻影)の鳥です。

アホウドリ類には、翼の幅が2 mを凌駕する種類もいます(国立科学博物館 特別展「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」にて撮影)。ただ、総じて飛翔性の鳥は軽量かつ小型であり、翼開長2 m以上の大型鳥類は珍しいです。

飛翔性の鳥は空を飛びますので、巨大化しすぎて重くなるのはデメリットであり、翼開長が2 mに達する鳥はそれほど多くありません。ファントム・ジャイアント・バードとは、いったい何者なのでしょうか。

大型の鳥として、正体の候補にあがるのは水鳥の仲間か猛禽類です。最も有力と考えられるのがオオアオサギです。日本に生息するアオサギよりも大型であり、翼開長2 mに達する個体も存在します。翼を広げたときの迫力はすさまじく、状況次第では未知の巨大生物と誤認されるかもしれません。

福岡県の柳川市の水路に立つアオサギ。至近距離で歩いている姿を見ると、かなり大きく感じられます。

ただ、1つ疑問なのは足跡がまったくついてない点です。翼開長2 mの鳥ともなれば相応の体重があり、土壌の上を歩いて足跡が1つもないのは不可解です。遭遇時期が冬期なので、地表が凍って足跡がうまくスタンプされなかったのかもしれません(それでも多少の痕跡は残るはずなので、何も確認されなかったのは本当に不思議です)。

ツル類のタンチョウ(井の頭自然文化園にて撮影)。ペンシルベニアにはカナダヅルが現れるので、ツル類もファントム・ジャイアント・バードの正体候補となります。

目撃情報が少なく、足跡や羽毛などの物的証拠もないので、ファントム・ジャイアント・バードの存在は今のところ不確実と言えます。ただ、21世紀になっても陸上脊椎動物の新種は次々に発見されているので、アメリカの雄大な森の中に未知の鳥が棲んでいる可能性もゼロではありません。
ファントム・ジャイアント・バードが本当に幻影ファントムなのか、今は誰にもわかりません。

フロリダ・ジャイアント・ペンギン ~体重2 tの巨大ペンギンがフロリダに出現?~

前回の記事にて、複数種の古代の巨大ペンギンを紹介させていただきました(下記リンク参照)。新生代前期~中期にかけて、大型種のペンギン類が南半球の広域で栄え、生態系に確固たる地位を築いていたのです。

しかしながら、アメリカ・フロリダ州では、最大級の古代ペンギンさえ腰を抜かすほどの、超ド級のペンギン型UMAの存在が囁かれているのです。そのサイズはもはや水鳥としての常識の範疇を飛び越えており、なんとサイやカバに匹敵する巨体だと言われています

最大級の古代ペンギンであるアンスロポルニス(右)と、現生種のコガタペンギン(左)の像。フロリダの超巨大ペンギンは、アンスロポルニスの数倍の大きさがあると言われています。

1948年、アメリカ・フロリダ州のクリアウォータービーチにて、信じられないほど大きな鳥の足跡が発見されました。また、巨大なペンギン型生物の姿を見たという目撃情報も上がり、体高は4〜5 mあったと報告されました。最初の足跡発見場所から約60 km離れたスワニー川付近でも謎の足跡が見つかり、「フロリダには超巨大ペンギン」がいると話題になりました。
4 m以上の巨躯ともなれば、現生種最大のエンペラーペンギンどころか、アンスロポルニスやクミマヌといった古代の巨大ペンギンたちでさえまったく歯が立ちません。2階建ての家の窓を覗けるほどの大きさですので、ゾウやキリンを比較対象にすべきなのです。

現生ペンギンの最大種エンペラーペンギン(名古屋港水族館にて撮影)。本種の約4倍の巨体を誇る巨大ペンギンが、果たしてアメリカ西海岸に生息しているのでしょうか?

体高4~5 mの巨大ペンギン。果たして、それほど大きな鳥が実在するのでしょうか。体重は少なくとも2~3 tあると見られ、陸上での移動や繁殖活動は極めて困難であると思われます。諸々の科学的な観点から、超巨大ペンギンの存在には疑義の念が持たれます。

高速で泳ぐジェンツーペンギン(登別マリンパークニクスにて撮影)。もし全長4 m級の巨大ペンギンが実在したのならば、いったい水中でどのような遊泳運動を行うのでしょうか。

1948年頃には当地で巨大ペンギンの目撃報告が続きましたが、約40年後の1988年になって、唐突に問題は解決へと向かいます。なんと「フロリダの巨大ペンギン騒動は地元住民のイタズラだった」というのです。この事実はフロリダの地元紙によって報じられ、巨大な足跡も人為的に作られたものと判明しました。普通の生物学者なら「体重2 tのペンギンなんているわけないだろ」とおっしゃるところだと思いますので、これはある意味当然の帰結と呼べるかもしれません。
この騒動の背景には、ひとえにペンギンの人気の高さが関わっているのかもしれません。創作UMAの対象に選ばれるほどに、ペンギンは人々から愛されていると言えます。ペンギンが可愛くて大好きという想いは、世代や国を越えて全世界の人々に共通しているのかもしれません。

陸上脊椎動物の中で鳥類は最も繁栄した種族であり、水鳥たちは陸域と水域をつなぐ重要な存在です。彼らの生命活動があるからこそ、地球の生態系はうるおい、自然界には多様な命が満ちあふれているのです。水鳥が棲む自然を守るために、身近なところから環境保全を始めていきたいと思います。

自然公園の池を泳ぐカイツブリ。地球の生命の循環を守るために、水鳥たちの棲む環境は絶対に必要なのです。

【前回の記事】

【参考文献】
Jan Kirby.(1988)Clearwater can relax; monster is unmasked. St. Petersburg Times.
Lammle, Rob.(2008)Florida's Giant Penguin. Mental Floss.
西海功, 濱尾章二, 對比地孝亘(2024)公式図録『国立科学博物館 特別展「鳥 ~ゲノム解析が解き明かす新しい鳥類の系統~」』日本経済新聞社
環境省 ラムサール条約と条約湿地 https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/About_RamarConvention.html
忽然と消えた巨鳥 〜 ファントム・ジャイアント・バード http://umafan.blog72.fc2.com/blog-entry-837.html

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