【SFショートショート】金持ち教習所 高額当選編
ついに当たった。
夢の超高額当選である。
そして私は「金持ち教習所」に入った。
かつて宝くじの高額当選者には、銀行から「高額当選者の手引き」なる冊子がおくられたという。
しかし世界的な経済恐慌が長引き、大金の使い方を忘れた人々は副賞クラスの当選でも舞い上がり、その金に振り回されてほとんどが身を滅ぼしていた。
そんな人々の自滅防止につくられたのが「金持ち教習所」である。
高額当選者がここに入所するのは、国によって義務とされた。
私にとって一つ疑問だったのはなぜ「学校」でも「セミナー」でもなく「教習所」なのかということだったが……
「ようこそ。それでは、さっそく学習を行いましょう」
担当教官が、私をベッドと一体となった機械に接続した。
「これは、高性能の睡眠学習装置です。この機械で、あなたは今まで知らなかった大金の使い途を知る事ができます。学習は一瞬で終わりますから」
その通りだった。
私は眠りに落ちるやすぐに覚醒し、頭には今まで全く思いつかなかった大金の使い途が刻まれていた。
「賞金の受け取りは、一括か年に1%ずつの分割か選ぶ事ができます。どうしますか?」
「一括で」
次の日から私は、与えられた知識を活用して大金を使い始めた。
今まで知らなかった贅沢品の買い漁りに始まって、金をさらに増やすための株への投資や、不動産、債券の購入。
それ以上に、家族や友人たちに大盤振る舞いをして、私は有頂天になっていた。
やがて、ベンチャー企業の立ち上げに手を出して、そこから次第に目論みが狂い始めた。
そもそも自分が、金持ちの振る舞いに向いていなかったのだと気づいた時には遅かった。
家族からは三行半を突きつけられ、友人たちも離れていった。
ついに無一文となって路頭をさまよう羽目になり、私はいつの間にか「金持ち教習所」の前にいた。
もう一度、ここを出た時に戻りたい……
心底そう願いながら、ガックリと膝をついたところで……
目が覚めた。
「どうです?自分がどう大金を向き合うべきか、分かったのではないですか?」
担当教官が言った。
「あなたが使ったのは睡眠学習装置ではなく、人生シミュレーターという機械だったのです。使い途の知識だけで賞金を手にした時、今後の人生で起こることを経験するためのシステムです。さあ、今度こそ本当にどうするかうかがいます。賞金の受け取りは、一括で?分割で?」
「……分割で」
大金との付き合い方だけでなく、なぜここが「教習所」なのか、私にはやっとわかった。
教習所にはシミュレーターがつきものなのだ。
完
たはらかにさんの募集企画「#毎週ショートショート」参加作品です。
お題は「金持ち教習所」。
自動車教習所では最初にシミュレーターをやらされましたが、どこも必ずそうなのかわからないまま、オチをつけてしまいました。
😅
さておそらくこの宣伝も最後です。
noteさんで開催中の「創作大賞2023」に、長編SF小説「銀河皇帝のいない八月」で応募しています。
7月24日まで、応援期間ということなのでそれまで「いいね」や感想コメントなどいただければ幸いです。
結果はどうあれ、それまで感想をもらってなかったこの小説に、コメント等いただけるようになったので、参加してよかったです。
また長編を書きたいなと思っているので、その節はよろしくお願いします!