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気の向くままに

起床してから身支度を整えるまでは普通だった。

きっかけは「あれどこにしまったっけ?」「あれ持ったっけ?」という漠然とした不安の連続。自分が嫌いになって、立てなくなって、外に出られない気がして、仕事に行ってもこのままな気がして、私は休んだ。

無くしてたと思ってたスーパーのポイントカードが財布から出てきた。今かよ。

とりあえず午前中休んだら回復するよね、と思いまずはその旨を連絡。ひんやりした床にぺとりと頬をつけて、泥のように寝た。寝ても寝ても満足出来ない。iPhoneだけは「しっかりしなさい」と言ってくれる。でも届かない。オレンジ色に光る「スヌーズ」をタップし続けた。

起きたらもう、午後1時を回っていた。

会社か、地元行きの列車か。はたまたワンルームのアパートに残るか。どれを目的地にするにしても、選択できるのは今だ。ここに留まるか?いや、この街にいるだけで今は辛いことが多すぎる。今全てをかなぐり捨てて帰るか?いや、連休明けが辛いに違いない。そもそも自転車はどこに停めるんだっけ?仕事に向かうか?こんな吐き気と抑うつの中で。顔は強ばっていた。今日頑張っても治る見込みはないだろう。

気がつけば私は、背中にリュックを背負っていた。家族から「でかすぎるよ!」と言われているバックパッカー用のリュックサック。

お気に入りのスニーカーはこの前の雨水をまだ少しだけ含んでいた。不快だ。吐き気が止まらない。

自転車に乗ったら過換気症候群になる可能性があった。けど、とにかくこの街から出ていきたくなったので自転車を選ぶ。大丈夫、発車時刻までまだ25分ある。
心拍数があがるたびに不快感は高まり、おえ、おえと言いながらペダルを漕いだ。駐輪場は大きかったのですぐに停められた。南の330番だった。

列車の中で薬を飲まなきゃいけない。コンビニでミネラルウォーターを買う。田舎に住んでたころは、(もちろん今も田舎住みではあるが)本当に片田舎だったので「水道水があるのにペットボトルの水を買うなんて」と思っていたな。そういえばこの駅の自動改札機はIC対応じゃないのにどうして切符をスマホのクリアケースに入れてしまったんだろう。リュックのハチワレがかわいい。

13時59分に出発する列車は、2番ホームで私を待っていた。すぐに自由席に乗り込む。お遍路さんや外国人観光客、帰省する人々で割と混んでいたが、滑り込みで座ることができた。

車窓から眺める海は、ゼリーのようなかたまりに見える。ドンペリドンが効いてきたのか、もう嗚咽は出ない。少し横になりたい気もするが、現状から離れることができただけで体調は少しずつ回復しつつある。もうすぐ圏外になるんだよ、ここは縦に長い片田舎だから。
だからもう、この長話はおしまい。

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