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読書記録 『魔性の子』

十二国記シリーズを初めて知ったのは小学生の時でした。幼馴染はこのシリーズが大好きで、嬉々として布教してきたことが始まりです。
「面白いから読んで!」と手渡されたのはいいけれど、漢字は難しいし文字は多いし、かといって読まずに返すのも申し訳ない。結局3ページだけ目を通してギブアップしました。これが10年以上前の出来事です。

中学生の頃に親に勧められて『月の影 影の海』を読んだ記憶はあるのですが、展開が辛すぎてこちらもギブアップ。
以来、十二国記シリーズを手に取ることはありませんでした。

最近になってXのフォロワーさんが楽しそうに読んでいるのを見て気になり、再び手に取りました。
昔は難しくて読めなかったし展開も辛かったけど大人になったいまなら読めるかもしれない。読む順番が色々あるのは知っていて、とりあえずエピソード0とされている『魔性の子』から読み始めました。

これがめちゃくちゃおもしろい。
読む手が止まらないという経験を久々にしました。

十二国記はファンタジー小説というイメージがあったのですが、魔性の子はファンタジーとホラーを掛け合わせたような物語でした。神隠しを題材としていて、主人公である高里の謎を追うミステリー感もありどんどん読み進められる。484ページがあっという間でした。

十二国記のエピソード0という立ち位置のこの物語は、高里という青年の周囲で巻き起こる数々の不思議な出来事を追う形で進んでいきます。

教育実習のために母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気にかかります。広瀬自身が周囲にうまく馴染めなかった経験があり、教室の中でどこか浮いた様子の高里の姿が在りし日の自身に重なったからです。
母校で過ごすうちに、広瀬は高里に関する噂を耳にします。
高里は祟る。
彼を虐めた者が不慮の事故に遭うため高里は恐れられていました。彼を取り巻く謎の数々は彼が神隠しに遭ったことが関係していると耳にし、広瀬は高里を気にかけるようになります。
広瀬が母校を訪れてからも高里の周りで不慮の事故は起こる。責め立てる周囲の人々から高里を庇おうとするなか、更なる悲劇が起こっていく、といったあらすじです。

高里は幼い頃に神隠しに遭い、約一年間の記憶が抜け落ちています。ある日突然消えて、ある日突然戻ってくる。本人はいなくなっていた間の記憶が無いため神隠しと噂されている。
しかし無事戻ってこられたと思ったのも束の間、神隠しから帰ってきた高里の周りでは不運な事故が起こるようになってしまった。度重なる不幸な出来事によって彼は周囲の人々から距離を取られ、家族である両親からも疎まれてしまいます。

高里の境遇からもわかる通り、決して明るい話ではありません。不慮の事故、と言葉を濁していますが、人もばんばん死んでいきます。
ホラーやグロが苦手な人にはきついかもしれないといった感じでした。けれどそれ以上に、高里や広瀬の境遇を通して伝わってくるメッセージが印象深かった。

帰りたい。

私はただ漠然と、特定の場所を思い浮かべることなく「帰りたいと」口にしたことがあります。
家に帰る途中のバスの中で窓の外を眺めている時でした。「帰りたい」と頭の中にぽんと言葉だけが浮かび、気づけば口にしていました。
家に帰っている途中であるはずなのにどうしてそんなことを思ったのだろう。魚の小骨が喉に引っ掛かったままのようにずっともやもやと頭に残っていました。

『魔性の子』を読み終えた後、「帰りたい」と思うことは一種の逃避なのかもしれないと思いました。
帰りたい。どこに? 
思い浮かべるのは家や故郷、つまり自分にとって安心できる場所です。
外部のストレスから逃れて自分が心の底から安心できる理想の場所に行きたいと願う。家や故郷以外を思うこともあるのでしょうが、それらの場所に共通しているのは自分にとって不都合の無い安心感を得られる場所であるという点だと思います。
現実からの逃避を求めつつ、自分に安心感を与える言葉。それが帰りたいと変換されるのかもしれないと感じました。

ファンタジー、ホラーと色々な要素を含みつつ、人の心の暗い部分にも焦点を当てている。広瀬や高里を通じて、一歩踏み入った人の薄暗い心理を描き出しているこの小説は、読了後に「すごい、おもしろかった」としか出てきませんでした。

この世界観の作品をまだ読める。あと14冊もあって、まだまだ楽しむことができるのか。
なぜ今まで読まなかったのかと後悔する同時に、読まなかったから今から楽しめるんだと嬉しくもなります。
中学生の私は『月の影 影の海』を読んで挫折した経験があるので大人になった今の方が楽しんで読むことができるかもしれません。

しかし『魔性の子』を嬉しそうに手渡してくる小学生って何でしょうね。読み終えた今だから思うけど、これ、小学生が楽しんで読むのは難しいのでは?
幼馴染は薄暗さを感じさせるダークな世界観が大好きです。バッドエンドとかメリバとかを好んでいて、たまに好きな作品を私に教えてくれます。
本を借りたのが小学四年生くらいの時だったかな。十二国記が幼馴染の嗜好形成に影響してるとかだったら納得できる……ような気もする。

非常に面白かったため続きも読みたいのですが、次巻は『月の影 影の海』で過去の私が挫折した巻です。
でも今なら読めるかな。合言葉も知ってるし。

幼馴染の全力布教が十年以上経ってから効いてきました。十二国記は面白い。

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