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「あんのこと」~人の優しさとは~

上映中にぜひ観に行こうと思っていた映画「あんのこと」
気が付けばアマプラで配信していた。時間が経つのって本当に早い。
河合優実という女優のすごさがあぶり出されている。
ビジュアルが圧倒的にいいわけではないが、圧倒的な存在感がある。
この映画は河合優実がいたからこそ成立したと思う。

以下、あらすじと感想。

 主人公・香川杏(河合優実)は、幼少期から虐待を受け続けていた。いわゆる親ガチャで最悪の親から生まれ、父親が誰かも分からない。母の言いなりのまま12歳から売春をはじめ落ちていく。小学校も通えず漢字も書けない。そんな杏は実母と祖母と三人で団地で暮らしているが、一度だけ祖母が、虐待をする母から守ってくれたことがある。その時点で杏にとって唯一大切なのは祖母だけだった。

 シャブの常習者になっていた杏は、家族を養うために売春を生業にしていたが、客がシャブが原因で痙攣したとき、客を放っておけず、結局警察に捕らわれた。そこで一風変わった刑事・多田羅(佐藤二朗)と出逢う。
 多田羅は全力で杏を守ろうとしていた。多田羅は覚醒剤から立ち直るためのセミナーを立ち上げており、そこに杏を参加させた。就職を世話したり、家族から引き離すためにシェルターを用意したり、学校に通わせたり。そんな多田羅に杏は、父性を感じたのだと思う。同時に杏は、人の優しさというものに初めて触れたことで自分を肯定できるようになっていく。

 そんな中、コロナ禍が始まった。いつ終わるとも分からない緊急事態。就職先を失い、学校を失った杏はそれでも必死に更正の道を進む夢を持ち続けていた。そんなとき同じシェルターに住んでいたシングルマザーに「子供を一週間くらい預かってくれ」と無理矢理押し付けられる。そのまま児相に相談することもできたが、杏は1歳くらいの子ども・隼人を仕方なく預かる。やがて杏は気付く。自分がいないと隼人は生きていけない存在だということに。

杏は生まれてからずっと虐待を受け続けてきた。だが今、多くの人に助けられる有難みを知った杏は、隼人と暮らすことで人を助けることの尊さを知る。

 しかし、多田羅はセミナーの参加者を警察という立場を使い凌辱しているという裏の顔を持っていた。そのことを週刊誌にスッパ抜かれ、犯罪者として刑務所に入れられる。杏にとっては、この世界で誰よりも信頼できる人間に裏切られてしまったも同然だ。
 同時期、杏は実母と偶然出会ってしまい、祖母のためにお金を工面してほしい(一晩だけでも売春をしてきて欲しい)と頼み込まれる。殺したいほど憎い実母に対して、何か諦めのようなものを感じた杏は、隼人を実母に預けて、金の工面に向かう。
 だが翌朝、自宅に戻ってみると、隼人の姿はなかった。泣き止まない隼人に嫌気がさした実母が、隼人を児相に渡してしまったのだ。

 一度は信じた「この世界」にまた裏切られてしまった杏。その悲しみ、空虚感はどれほどのものか。生まれてきたことへの疑問、この世界への疑問、自分が信じたい「優しさ」というものへの疑問は、何一つ解決できないようにしか思えない。杏の人生において、そこに反論できる出来事は悲しいくらい見つからなかった・・・。

 杏に「それでもこの世界は捨てたもんじゃない」と一体誰が胸を張って言 
 ってあげることができるだろう。

 この世界は誰もが誰かのせいにして生きている。
 だが、誰もがこの世界を「こういうものだ」と諦めたことで、
 命の危険に晒される者がいる。

 優しいものが損をする時代。優しいものが苦しめられる時代。
 そのことを「そういうものだ」と言ってのけてしまう時代。

 この時代は、僕たち(今の成人を育てた世代)が作り上げたように思う。
 そしてその倫理観はそう簡単には戻らないだろう。

 今の時代が「優しくない時代」なら、そこから目をそらさずに「優しい時 
 代」を若者たちで作り直さなくてはならない。大変申し訳ない気持ちでい
 っぱいだが、「自分の未来は他の誰かのせいにしても良くはならない」

 自分の人生を切り拓くため、幸せを考える自分であり続けて欲しい。


         この物語は事実を元に作られたという。
      「杏」のモデルになった女性の冥福を強く祈ります。


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佐藤雀@雀組ホエールズ
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