バス停
乳歯のやわらかさを、二度とあじわうことが、できないと知っていながらも、主語のない大胆な呻きから、一日がはじまるのかもしれない。舌でたしかめる濃い、唾液の温度。日射病の、なつかしさ。あの場所には浴びるほど、身体にとりいれたかった、日陰があった。とても丁寧に、描かれる曲線の束が、視野にあらわれて異性の肉体が急に、恋しくなったのをおもいだす。貧血に、比例して私たちの目は、無造作をゆるす皿に、新しい朝が盛られていくのを、みすごしてしまう。かたほうの、ぐんて。じかんをきりとる停留所に、本を読む幽霊が、やさしくつどいはじめる。きっと穏やかに、望まれた死が、この土地にもあったはずだ。はだの色でわかる仕事を、引き連れているから、吐き出される言葉も、前日の息づかいに放り込むようにして、自分とは交わることのない理由だけたえず、口もとにのこっている。どぶに、棄てられたカバンが、傷ついた誰かみたいに、内側をさらけ出していた。この右側の、席からみえた沼はきっと、風とともに書かなくてもいい、手紙の中身になる。小さな女の子たちには他人の、下の名前も光ってみえた。おままごとで、つかう冬の言葉が、人工の空気の流れにのってお父さん役は、完成しないように暖炉の、煉瓦を積みつづけている。薬指のような小鳥の、上空から影をなげかけて、私たちに付着している、生活のための数字をやさしく、ぬすみとっていく素振り。その一羽一羽がすぐに、ほどける手の繋ぎ方をしているから、見上げる角度によって、きっと明日の午後にはまた、モノトーンの泥棒に戻っている。そして左右異なる靴を、小さく跳ねる魚の蒼さで履きながら、肺呼吸を忘れているうちに、鱗の色彩を取り込みたいと、願っているのに違いなかった。とても抽象的に、掴みつづけている井戸水のぬくみのような眠気を、淡水魚の縄張りに、そっとおいてくる。いつからだろう、文章を声にするとき、いいわけから読んでしまうようになったのは。本が大きすぎて、ページを開くとかならず顔に、こすってしまった幼すぎた頃は、私も誰かの従弟に過ぎず、童話に描かれている丘はいつも静かで、収穫について自然と話しこみたくなっていたのに。うつくしい反復する動作の、皮膚感覚でおこなう手作業にはかならず、冬の言葉がしみこんでいた。そしてその場所での、農夫たちの休憩は、昨日の空き巣の話から始まり、生きる上で他に、選択肢がなかったという犯罪の理由を、皆で愛するために、湯を啜っていた。偶然もれて、しまった口笛でわかる空白は、誰かの歩みが引き連れて、ひろがるたしかな言葉だ。古井戸からたちあらわれる形容詞が、砂鉄のような夜の足音を一層、おおきくひびかせながら、空気にはまだ朝の、謝罪のにおいが沁みている。うずくまったとしても、蝶々結びができずに、青く塗り立ての、せせらぎの音だけを捉えようとして。森林に面した小さく、開けられた窓から木々の直喩が、姿勢を整える前の表情で、ぐわっ、と飛び込んできたことがあった。そんなときは、思いつきのように誰だって、腐葉土の一部で、単語の到着をのぞむまえには、鼓動のような想像のなかだけに、自分を置いてくる。いくつもの朝の、栞を挟んだまま昨日の、記憶がはみ出さないようにしながら。表紙の異なるノートの一ページ目は、まだどれも幼くて、文字は黒鉛でもあるのだから、言葉は人体にどれ程かの毒かもしれない。だから私たちは、植物の葉を胃に入れながら、一文の消化を待っている。散文を綴るように、鼻にぬけていく、こそばゆくて自覚がない宗教に、自分の血はたえず、巡っているらしい。ため息をつく場所をさがす神様が、木工ボンドを手の甲に塗る遊びをみつめる。乾かすとほんの少し大きなものに、自分の皮膚を貸したつもりになっていた。口に強くおしあて、草笛を吹くときの、草の震えかたで今も、泥と青虫のあじが下唇にしみている。そんな生まれてから三行目を、もう肌で忘れているにもかかわらず予期せず、たちあがる原色の、笑い声。おぼえている、自分がまったく幼かったころに、停留所にたっていた年上の少女を。それはおそらく母親の友人の、話の話にでてくる娘でもあった。家中の時計が、正確であるにちがいない少女の、ふくよかな鼻歌がステップを、踏みならしてバスに乗りこむときのあの、記憶の中の歩幅にまだ、あこがれを抱きつづけている。
これも過去に投稿したやつでした。
少し、くどいかもしれませんが、わたしとしては、二万字くらいの長編詩がかきたいなぁ、とか思って書き始めている詩です。
上手くいっているところと、そうでないところもあるので、改良を加え、推敲して、また別のところに発表しようと思います。
現在、作品集をプレ詩集(小冊子)と称して販売しております。
金額は基本、無料です(正確には価格自由)。
まだまだまだまだ在庫のほうありますので、
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