離島についてのディテール①

蜃気楼が、忘れ去られた沼の底で孤独に堪えて、渡鳥の脚に続いている頃に、直線的に排尿したあとの言葉が、水面を吹き抜けていく吃音の風になる。その島の広葉樹のたしかなにおいを、羊のように豊かな感受性が探すことがあった。砂浜に残した足跡から記憶の音が聞こえてくる。離島を書かなければならない深夜は、二つ以上の身体が必要となった後、汗ばんだ指先の感覚だけで、島民による絶え間ない営為をあらわしてみたくなる。小さな蜂起のように、散文を書く呼吸音が、磨かれていない窓の不穏な汚れに結晶していく。

信仰

渡鳥が誤解をおそれずに翔んで朝靄を裂き、島の輪郭を浮かびあがらせる。離島では呟くという行為が意味をなさない。陶器のような夜の二人の陰に、夫婦と友人の区別がない。不安がありえないから海面に群れる陽光の反射の、その揺らめきの角度や数によって宗教が規定されていく。島民は空耳に、独自の解釈を施すようになり、空耳を聴いた場所が精緻に記されて、そこに特別な砂が蒔かれる。

離島特有の女の肌の浅黒さを想像できるだろうか。異性の性癖を愛する覚悟が生まれつき備わっているようにみえる。島民同士が顔をあわせても挨拶がなかった。過剰に声が大きいという状態がなく、余る、ということが性的にみえるのだ。離島は配給手帳によってだけ外海とつながり、聞いたことのない豆類を計る単位で経済は支配されて、尿の臭いと性だけに向かう眼差しで若者は会話している。

針仕事

針仕事の一筋の気の遠くなるほどの手間で、花の途中になっていく二色だけの柄合わせ。鳥の夜にみる夢を自分の布には必ず入れる。生活の温度のゆび先で幾人もの針が、島で紡がれた糸を編み込んでいくとその労働が、衣類を纏うものの毛穴に沁みていく。落ち葉を舞いあげる音が森林の中で孤独になるとき刺繍は、夜の肌触りのいずれ語源になるだろう。会話が途切れはじめ、そっと摘むように持った布のきれ端の、あだ名で呼ばれなくなって久しいと感じる夜に。


先々月、投稿し、佳作に選んで頂いたものです。保存用として。


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