羊歯植物
葉と葉の間一つ一つがお稲荷様だ。
背中の毛が濡れている。
どぶ板の上につくられたお稲荷様、
出勤前のホステスの腰の臭いを嗅ぎたくて体をかたむける。
どぶを流れる油の虹色の反射が岩手の女のようだと言って喜んだ。
東北の北のほうにしか褐色の女はいないという。
お稲荷様は明け方石になる。
葉はそろって不潔に揺れる。
カマドウマが脱税して明後日に跳ぶ。
ひも状の夕方が三日続くと皮膚が敏感になる。
雑食昆虫はこの時間に幼児をさらう。
それは飛翔筋の異常な発達が穏やかな落日を許さないからだ。
カマドウマを愛らしく思えるのは長所がないからかもしれない。
せいぜい目立つのは白黒の縞模様と体毛の長さ程度で、
カマドウマの悪意は会計を不正に処理することぐらいで潰え、
困惑するのは取締役連中だけだ。
そうしてカマドウマの体毛はますます長くなる一方だった。
夏祭りに列をなす精霊は首リウマチぞろい。
下をむいてコップ酒片手にそぞろ歩く。
酔いどれの一つが羊歯の葉上に嘔吐した。
体液をひっかぶるのが植物の生業、
ならばひしゃげたとしても羊歯の葉の配置は精霊の文法。
汚物にこそ精霊は群がり、囲んで踊る。
精霊が排泄する。糞尿にも酔いが回ると躍動して流れていく。
谷間へ、
天然石が産まれるところ、岩室の口へ、
垂れていく。鉱脈に染みていくと、
鍾乳洞が腰かがめて盆踊り踊る。
思い入れのある作品です。
ずっと前の、現代詩詩手帖で、選外佳作でした。
はじめて、名前とタイトルだけ誌にのって、涙が出るくらい震えました。
選者は広瀬先生でした。以後、詩手帖には縁がありませんが、
詩を一生懸命書いてみようと、きっかけになった作品です。
そのあと、改良を加えたものを、ココア共和国に投稿してそれは入選になりました。本当にがんばって書いた作品です。
これも、小冊子には掲載予定です。
あらあらしく、まだ無駄な言葉が多いように思ったのですが、そのまま載せます。