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ポテチ、その売上の秘密

「まったく、君はいつもそうなんだから」
腰に両手をあて、呆れ顔で理性は言った。

また説教かよと衝動は内心うんざりしていたが、そこは年長者として表情に出すことはない。実際、理性は衝動よりひとまわりは年下のはずだ。
「悪かったって。さっきから謝ってるだろ」

こうしたやり取りはいつのころからか日常茶飯事になっていた。
このままじゃいけない。理性は衝動と決着をつける覚悟を決めた。

発端
もちろん家の近所のコンビニに悪気があったわけではない。それでも深夜のコンビニの明かりが原因だといえなくもない。残業でヘトヘトになった会社の帰り道。ペットボトルの飲料水が切れたことを思い出し、店内に吸い込まれるように入った。
「いらっしゃいませー」

コンビニ
理性からすれば、この時間のコンビニに寄ることは避けたかった。疲れ切っているせいかお腹は特に空いていない。だったらまあいいかという油断もあった。それが間違いだった。

ポテチ
余計なものは買うまい。そう決めていたので、ペットボトルをかごに入れたあとはまっすぐレジに向かう。ほっ。
「…!?」

理性がほんの少し気を許したすきをついて、あろうことか衝動がポテトチップスをかごに入れたのだった。
「それはいけない!」

慌てて衝動をとめたが、理性の腕を振り切ってポテトチップスは買い物かごへ収まっていた。
「まあ、今夜はがんばったんだし、ご褒美ってことで。な?いいだろ?」
「『今夜は』って、昨日はプリンを食べたじゃないですか」
「いや、ほらもうプリンのカロリーは今夜の残業で使っちまったわけだし。補給だよ補給」

結局、衝動に押し切られるかたちとなり、レジを済ませるとコンビニを出た。

話し合い
「まったく、君はいつもそうなんだから」
もういちど理性はいうと、大きなため息をついた。理性と衝動はテーブルに座り、ポテチをはさんで向かい合っていた。

「君だってわかっているはずでしょ?深夜に食べるとカロリーオーバーになる上、内臓に負担をかけるだけじゃなく睡眠の質まで下げてしまう。食事は十分とっているのだから、ここは我慢するところでしょう?」

「さっき謝ったじゃないか」
「今日という今日は、はっきりさせましょう」
「まあ、ポテチでも食べながらさ…」
「ごまかされませんよ!」

理性の言いぶん、衝動の行動力
「じゃあ言うけどよ。彼女に告白できたのってだれのおかげよ?」
先日、職場のある女性に告白をしたのだった。まさかのOKをもらい、彼女と付き合うことになったのだった。
「そ、それは…」
「おまえ、『自分には絶対無理だー』ってさんざん言ってたの覚えてる?」
「だって、あれだけ性格良くて美人で頭も良くて…」
「オレのこと信じてよかったろ?」

確かに理性だけじゃ告白までには至らなかったと思う。もし断られたら仕事に影響が出るかもしれない。そもそも、彼女は会社でも「高嶺の花」といわれていて…
「それはあくまで結果論じゃないですか」

「彼女が家に来た時、インテリアのセンス褒めてただろ?あれだってオレのおかげだろ?」
そりゃ今の給料の額を考えたら、部屋のインテリアはこだわるところではなかった。衝動があまりに欲しい欲しい言うから、根負けしただけだ。理性はいくつか言い訳を思いついたが言葉にはできなかった。

議論とケツロン、ポテチの売上げ
「でもさ、おまえのことは尊敬してるんだぜ?」
「だったらもっと聞き分けてくださいよ」

「仕事でつかう専門の勉強。もう3ヶ月はつづいてるよな?」
仕事に追われる毎日のなかで、勉強時間を確保するのは難しい。本を机の上に広げておくようにしたり記録をつけたり、理性なりに続ける工夫をしてきた。
「運動だってするようになったよな?」
上から目線なのがなんとなく理性には気に入らなかったが、意外な衝動の言葉だった。いやいや懐柔されてなるものか。あわてて反論する。
「そりゃそうですよ!ちょっと油断すると君はすぐ動画見てゴロゴロしはじめるじゃないか!おかげでどれだけ体重が増えたことか…」

「それだよそれ。オレには到底できないことだ。でも告白だってお前ひとりじゃできなかった。違うか?」
「う…」
「結局さ、一人ではなにも判断してないってことだよ。バランスっていうかさ。あまり堅苦しく考えんなよ。オレ一人じゃうなくいかないし、かといって全部お前が決めてたらオレたち病気になっちまう」

「確かに…わからなくもないですが」
「じゃあ、ポテチでも喰うか」
「いただきます」

ま、理性と衝動はコンビなんだし仲良くやりましょうねってお話です。つまり、深夜のコンビニはこういう感じで、ポテチの売上を伸ばしているというわけ。

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