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女王バチは掃除係のハチを騙さないし、掃除係のハチはストライキを起こさない/「サピエンス全史」思索日記Vol.8

サピエンス全史」を読んで「すごっ!」と思った話を共有していくシリーズ、今回のテーマは”書記体系”。第7章を見ていきます。

大規模な組織運営に人類の脳が適していない3つの理由

人類は多くの人々と協力して何かを行うために、共通の神話を信じる必要があることは、今までの章(特にVol.1)で取り上げました。
しかし、集団の人数が大きくなるときに必要なことがもう一つあります。

何千人、いや何百人もがかかわる大規模な協力体制が必要な場合には、誰であれ一個人の脳では保存や処理がとうていできないほどの、厖大な量の情報を扱い、保存する必要がある。(第7章 P155,L1)

人々は何百万年にもわたり、情報を脳で保存しようと頑張ってきました。けれども、帝国が生まれ、あまりにたくさんの情報(税金の記録、軍需品の目録、法律、記念日日程など)を管理しないといけないときに、「脳」というデータベースは保存装置としての限界に達してしまったのです。

その理由は3つあると著者ハラリは展開します。

①脳の容量が限られている。
 純粋にデータベースとして保存できる量に限界があるということです。

②人間が死ぬときに、脳も死ぬ。
 脳に保存されている情報は全て、人間の寿命である一世紀以内に消去されることになります。
 口づてで伝えられていく情報も多いですが、伝言ゲームが100%正確な情報を伝え続けるとはとても思えません。

③脳は、大量の数理的データを保存することに適していない。
 人類は狩猟採集民としての進化しか遂げていない(Vol.5参照)ので、脳みそもまた狩猟採集民の生活に適しています。
 動植物の形状や特性を覚えたり、数十人の集団の人間関係を覚えたりすることにのみ適応してきたので、厖大で複雑な数理データを保存するのは苦手な分野でした。

こういった3つの理由を解決するかたちで生まれた新しいテクノロジーがありました。
シュメール人が発明したこのデータシステムは「書記」と呼ばれています。


女王バチは掃除係のハチを騙さないし、掃除係のハチはストライキを起こさない

人類は「書記」と呼ばれる、記号を使って情報を保存する方法を発明しました。

書記を発明!ってそんな大げさな・・・と思われるかもしれませんが、書記のすごさを感じるのに面白い事例が本著では示されています。
では、ミツバチの社会と、人類の社会を比較してみましょう。

<ミツバチ>
ハチの巣は、収穫係や養育係、掃除係といった様々な役割を含めて非常に複雑な社会構造を持つ。

ただし、ミツバチに法律係は存在しない。

なぜなら、ミツバチは巣の規則を忘れたり破ったりしないから。
女王バチは(人間のように)掃除係のハチを騙して食べ物を巻き上げたりしないし、掃除係のハチたちは(人間のように)賃上げを要求してストライキを起こしたりはしない。

なぜなら、それぞれのハチがその生涯で果たすべき役割のために必要な行動が、全てDNAにプログラムしてあるから。

アリやミツバチといった、人間以外の種の一部に見られる大きな社会が安定して強靭なのは、社会を維持するために必要な情報の大半が、ゲノムにコードかされているからだ。(第7章 P155,L4)

<人類>
人間の社会秩序は想像上の虚構を信じることで成り立っているので、 DNAにプログラムされた情報を子孫に伝えるのではなく、
守るべき法律、習慣、手順、作法などを意識的な努力によって伝えなければならない

そういった情報を、記号を使って保存する書記の技術が発明される。

ミツバチはDNAに最初から書き込んでおくことで情報伝達そのものを不要にし、
人類は書記に毎回書き込んでいくことで情報伝達して社会を維持している、
と言えるようです。

ミツバチ社会のように、DNAに書き込まれたプログラムによって全てが自明になった人間社会を想像すると、少しゾッとしてしまいますね。
そのあたり、勝手に妄想してみました!

<以下妄想>
例えば蜂の社会性はゲノムにコーディングされており、そこに個々の賛否は生まれない。自然に適応して徐々に進化してきた

サピエンスは採集民族から農耕民族になったことで、出生が増え、大規模な組織として生きることになった

それでも150人は超えずにいたが、あるとき言語が生まれ、共通の神話を信じることが可能になった

共通の神話を信じることによって、1000人といった大規模での協力が可能になったが、あまりに急激な変化だったため、生物学的なレベルでは進化しきれておらず、想像上の秩序で不安定な協力を続けている

もっと時間が経って、サピエンスが進化できれば、想像上の秩序、神話に頼らずとも大人数で協力できるようになるのではないか?

果たしてそれは、蜂のようにゲノムにコーディングされた全てが自明の社会なのか?
あるいは、何か揺るぎない神話を見つけるのか?
あるいは?

そしてその状態こそが、ニーチェの予言した、人間を超えた存在「超人」なのではないか?

最後の一文で個人的なロマンが炸裂してますがご容赦くださいませ。

今日はここまで。
肝心の書記体系の話までいけませんでした(笑)

次回は、人類の祖先が残した最初期のメッセージから話していきます。

つづくのです!

ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけましたら、ぜひスキをお願いします!