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View #10 電気をキャベツに例えたらわかる。電力価格高騰ってどゆこと?

毎週末に1週間のニュースを厳選し、サステナブルな視点から世界をViewする(観る・考える)週刊コラム「Sustainable News View」。

今回の記事はこちら。


____はじめまして!

あれ、担当の人変わったんですか?

____はい!今回からわたしが担当です。

ちょっと、声が大きいですね...。前の人は?

____なんか自給自足がしたいとかで、宮崎に行ったそうです。

え、そんなタイプでしたっけ(笑)。

____あいさつもなくすみません、って言ってました。今夜DMするそうですよ。

まあ、いいや(笑)。元気にやってるんならいいんでしょう。はじめますかね。

今回の記事、12月から1月にかけて大騒ぎになった電力の市場価格高騰に関する内容です。

この一連の話、何が起きているのかいまいちわかりづらかったんですが、「いったい何が起こったの?」という話に答えてくれていて、めちゃくちゃ価値が高い内容になっています。

____電気代が高騰してたんですね。それすら知らなかったです!

おっと。それすらも知りませんでしたか(笑)

____記事を読んで初めて知りました。

でも案外、あなたみたいな若い人の多くは、知らなかったりするのかもしれませんね。まず大前提から認識を合わせていきましょうか。

____お願いします。

はじまりは2016年。

電力市場が自由化しました。

東京電力とか関西電力とか、電力市場は電力公社と呼ばれる企業による事実上の独占市場だったんですが、民間企業も電気を売り買いをしてOKになったんですね。

____へ〜。

ただ、ポイントなのは、電力公社が独占していたのは電気をつくることだけじゃないということです。何だかわかりますか?

____う〜ん、電池みたいに、電気をためることですか?

その発想も大切ですね。電気をつくることを「発電」と呼び、溜めることを「蓄電」といいます。

蓄電は、実はまだ技術途上にあって、その重要性が増してくるのはまさにこれからといったところ。だから、電力公社もまだまだ独占はできていなかったんですね。

答えは、電気を送ること。「送電」です。

____あ! 電線のことですか?

そのとおりです。

電力公社が持っている資産は、発電所だけではなく、むしろそれ以上に送電網に価値があります。

送電網というのは、電線や変電所などのインフラや、電力の需給バランスを保つ仕組みを含めた総称だと思ってください。

自由化したとはいえ、使う電線はいっしょじゃないと困りますよね。いまさら別の企業の電線をつくるなんてわけにもいかない。

だから、2018年の「発送電分離」です。

発電と送電を別々の事業に分け、送電は従来の電力公社が担当し、新興企業が電気を売り買いするときはその送電網を借りるかたちにすることで、新興企業は発電にだけ集中できるようにしたんです。

____おお。なんとなくわかってきました!

よし、この調子で続けますね。

ここからは、電気をキャベツに例えて話します。

キャベツが作られてからあなたの食卓に届くまで、どんなステークホルダーがいるでしょうか?

キャベツをつくる農家キャベツが売られるスーパー。あと最近自分はネットスーパーで買い物をすることが増えまして、だからキャベツを配達してくれる人がいます。

生産 = キャベツ農家
小売 = スーパー
配達 = 配達屋

____そうですね。

では、キャベツを電気に置き換えてみましょう。こうなります。

生産 = 発電事業者
小売 = 小売事業者
配達 = 送電事業者(電力公社)

____電気にも小売がいるんですか?

そう、そこがポイントです。

新電力企業としてよく皆さんが耳にする企業のほとんどは、この電力小売事業者にあたります。

新電力会社の多くは、太陽光発電などの自然電力系が多いのですが、そういった自然エネルギーの発電は、地域性が強いものです。

だから、発電事業所はローカルになりがちです。鹿児島で太陽光発電をしてる企業と、札幌で風力発電をしてる企業が違う企業であろうことは想像がつきますよね。

ただし、新電力側としては「全国どこでも自然エネルギー由来の電気を使える」をメリットとして出したい。

だから、鹿児島では太陽光発電由来の電気を買って、札幌では風力発電由来の電気を買うわけです。そしてそれを「自然エネルギーの環境にやさしい電気」という商品としてお客さんに売っているわけですね。

____スーパーと同じということですよね?

その理解でOKです。

そして、今回の電力価格の高騰ですが、供給される電気が足りないとなると、どうしても需給バランスで、電気の料金が跳ね上がってしまいます

____台風被害でキャベツの生産が落ちた年に、キャベツが1玉500円したことがあったんですが、そういうことですよね?

まさにそういうことです。キャベツは台風被害でその1年ずっとダメになってしまいますが、電気は毎日変動するものです。

だから、電気の市場価格はたまにどーんと高騰することは当たり前と言えば当たり前なんですね。

____あれ? でも今回の記事のもともとの問題は、市場価格が高騰したことでしたよね?

そこが問題を見誤っているんだと、この記事は指摘しています。問題なのは、「市場価格が高騰したこと」ではなく、「市場価格の高騰が3週間も長引いたこと」だと分析しているんですね。

____なんで長引いたんですかね?

以下引用をまずは見てください。

卸電力市場では、発電事業者が市場で売る電力量は、取引が確定した電力量(約定量)に比べて多くなる(売れ残る)ことが一般的だ。これは、売れ残りが無いと、万一発電量が不足したときに調整力が無くなってしまうためだ。
しかし現実には、12月26日に売り入札量が激減して以降、売り入札量と約定量がほぼ一致する状態が3週間ほど続いた。つまりこの期間、市場に提供された電気は「ほぼ売り切れ状態」になっていたわけだ。

つまり、キャベツの例でいえば、市場に出回るキャベツが全部なくなると困るから、農家側は多少売れ残るくらいに、需要よりも多めのキャベツを供給するわけです。

万が一、キャベツが足りなくて困る人がいたら、その売れ残りを買えるようにしとくわけですね。

この話、キャベツ不足だったら、夕飯にお好み焼きをつくるのを諦めれば済むかもしれませんが、電気だとそうはいきませんよね。

ただ、今回は驚くことに、電気がまったく売れ残らなかったんです。

これはつまり、「発電事業者側が、電気をいつもよりも出し惜しみしている」可能性が考えられます。

日本国内の発電事業者の8割は、いまだに電力公社が占めていて、電力市場はいまだに寡占市場ですから、電力公社が一斉に出し惜しみをしたことで、今回市場価格の高騰が長引いてしまったというわけですね。

____ええ? なんでそんなことするんです?

その理由として、経産相は、「寒波の到来による電力需要のひっ迫」「火力発電所の燃料となるLNGの供給不安」を上げています。

ただ、この記事の調査によると、どの両方とも、実はたいした影響はなかったことがわかっています。まず電力需要のひっ迫について、引用してみます。

また、確かに年末年始にかけて電力需給のひっ迫が懸念される状況は生じていたものの、結果的には、他社からの電力融通を受けても、供給余力が3%を切る「電力ひっ迫」の状況までに至っていない。
これは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)からの指示により、各エリア間で発電設備を最大限活用し、互いに電力を融通しあった現場の尽力の結果だ。
実は、1月6日には同機関から各発電事業者に対し、発電設備を最大出力で運転するとともに、余剰電力を市場に供給するよう指示が出ていた。
もしこの指示通り発電設備を稼働させていたのであれば、実際に「電力ひっ迫」が起きていなかった以上、余った電気が市場に提供されていなければおかしいことになる。

____電気が不足しそうだったからみんなで頑張って調整しあったら、結果として電力ひっ迫はせずに済んだということですね。

そうなんです。だから、電力ひっ迫によって価格が高騰した、というロジックは通らない

じゃあ、LNGの供給不安は?というと、これが今回の話の肝なんです。

簡単にいうと「このままの勢いで発電してたら燃料(LNG)不足になるかもしれないからと、発電事業者側が発電を抑えて、市場に売る量も抑えた」ということ。

これについて、今回記事でこの議論を展開されている安田特任教授はこう述べています。

「もしそうだとすれば、なぜ公開されている情報とは異なる情報(=発電継続が燃料不足につながることを示唆する情報など)をもとに、発電事業者が市場行動(売り入札量の抑制)を判断したのかという問題が出てきます。これは、市場の透明性に関する問題にもなります」

____どういうことです?

要するに「LNGの供給が減って発電継続が燃料不足になるかもしれない」という情報を持っていたのが、発電事業者側だけだった、ということ。

例えば、さっきのキャベツの例でいえば、台風が来てキャベツ畑がめちゃくちゃになったという話は、農家だけが知っている秘密情報ではないですよね? 

スーパー側もぼくら消費者側も、今年は台風でキャベツがあまり収穫できていない、という情報を持っている。

だから、供給されるキャベツ量が少ないからといって、スーパー側もしのぎを削って買い争うようなことはしないわけです。だって、台風がきたからキャベツの収穫がやばいって知ってますから。

今回の件で問題なのは、スーパー側が、キャベツの収穫がやばいことを知らされてなかったことにあります。

何も聞いていない状態で、ただ市場に出回るキャベツが異常に少ないとなったものだから、たくさんのスーパーが「早く買わなければ!」と、われ先にと買い争ってしまったんです。

その結果として、電力価格の高騰が3週間にまで延びてしまったと。

____おお!なるほど!ちょっと今ピンときましたよ。情報って大事なんですね。

そうなんです。また引用しておきます。

市場の適正かつ公正な運用を行うためには、最低限、市場に参加するステークホルダーが同じ情報をもとに判断できる状況でなければならない。
提供する電力量を抑制した要因として、寒波による電力需要への不安や、LNGの在庫量に対する懸念などは確かにあったのかもしれない。しかし、もし発電事業者側の行動に合理的な判断があったとしたら、今度は現段階の情報公開ルールに不備があるといえるだろう。
市場プレーヤー間の「情報の非対称性」によって、結果的にそこで背負うリスクも非対称になっている状況だ。

つまり、情報の非対称性が残ったままの市場設計がまだまだ未成熟だというわけですね。

____日本の電力市場、まだまだだね!ということですね。

まあ、そういうことですね。

ただそうも茶化してもいられないほど、事態は切迫している面もありまして、このおかげで、自然エネルギーを推進していた新電力企業は、とんでもない額の損失を被っているんです。

電気代って急に大きく上げるわけにはいかないでしょう?

そんなことをしたら「もう買わない!」って言われてしまいますから。

キャベツの原価が500円から1万円に急に上がったけど、消費者に売る値段は200円をキープしないといけない。

みたいな状況になったわけです。こんなの、大赤字ですよね

電力公社はどこも体力があるからいいものの、体力のない新興企業は潰れるレベルの大ピンチです。

___ひえええ〜!それはたいへんだ。

だから、いま新電力企業は本当に正念場を迎えています。

そしてこの記事が語るように、今後の市場設計を早急に見直さないことには、この問題はきっとまた起こってしまうかもしれないわけです。

今後どうなるのか、とても注目しています。

(おしまい)

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イッチー/伊地知 悟
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