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500文字の建築試考

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永本の建築に対する興味、考え、学びを毎日500文字で書きます。
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#建築

2500文字の建築試考「絹を織るまち」

今回は少し長めとなるが、2018年に訪れた「絹を織るまち」山梨県富士吉田市のことについて話す。卒業設計のリサーチのために訪れたまちだ。 ここでは今もなお、絹を染め、紡ぎ、織り、服や傘などを作っている。 「絹を織るまち」富士吉田のこと富士吉田市といえば、 ・富士山 ・富士急ハイランド ・吉田のうどん(日本一固いうどんらしい) などなど、特徴はいろいろあるが、その中でも歴史ある特産物として、 ・絹織物「甲斐絹」 というものがある。 江戸時代には、江戸で一大ムーブメントを起こし

500文字の建築試考「不確定が生むもの」

建築は不確定の中に生まれる。 建築には必ず、使ってくれる利用者が存在する。 住宅には、その家に住む住人が。 コンサートホールには、音楽を聴きに来た観客が。 駅舎には、毎日のようにそこを使う通勤者が。 建築設計者は常にこの利用者のことを考え、この空間の中でどのような行動をするのか、この空間からどのような気持ちを受け取ってもらえるのかということを想像して設計している。 建築がどんな効果をもたらすのかということに思いを巡らせる。 しかし、この利用者という存在は、建築から効果を

500文字の建築試考「散歩的建築」

建築は散歩的な体験を促す役割をもつ。 散歩を日課として日頃から続ける人は、毎日同じ道を、毎日同じ時間に、毎日同じような速さで歩いているであろう。 そのような散歩をするご年配の方を見て、 「いつも同じように散歩をして飽きないのかな」とか 「いつも同じように散歩をして暇なのかな」とか、 若者は勝手に思うことがある。 でも実はこの『毎日同じように』ということが、散歩にとってものすごく大事なことであることが、最近自分の中でようやくわかってきた。 毎日同じ道を散歩すると、日により異

500文字の建築試考「現象 in SeaLanch」

2020年9月21日。 アメリカ西海岸、サンフランシスコから北に100マイルずっと太平洋を眺めながら運転し、たどり着いたのがチャールズ・ムーア設計のシーランチ・コンドミニアムだった。 この建築に宿泊、しかも2泊できたことは、間違い無く人生における最高の建築体験の一つとなった。 では何が最高なのか。 雄大な景色か。 細部までこだわり抜かれた設計か。 巨匠が自ら作った別荘に泊まれたと言う歴史の重みか。 このどれもが最高たる所以だが、一言で表すと次の言葉だと思う。 地球への

500文字の建築試考「体験」

建築設計者にとって、もしくはどんな人々にとって「原体験」というものが存在することは多い。そして人生のモチベーションのきっかけを「原体験」におく人も多いと感じている。 幼い頃に育った街の風景の記憶であったり、辛かった部活や学校での出来事、好きなものに没頭した記憶、旅行で行った先の異世界での体験、家族の事情など、「原体験」というキーワードと共に人生が語られているのを聞くことが多いと感じる。 私の建築に対してのモチベーションは、この「原体験」をつくることにある。 それも空間によ

500文字の建築試考「現象」

私はいつも、見たことがない現象とワクワクする文化をつくりたいという思いで、建築のことを考えている。 まずはそのひとつである現象についての500文字。 現象という言葉は日常生活の中でもよく使われる言葉だと思う。 気象現象、自然現象、社会現象などなど日頃ニュースなどでも扱われる馴染みのある言葉ばかりだ。 しかし私がつくりたい現象は豊かな体験を生むようなものと自分の中では考えている。 そしてよく考えると次の3つの特徴があってこそ成り立つものだと思う。 ① たまたま出会ったと