500文字の建築試考「体験」
建築設計者にとって、もしくはどんな人々にとって「原体験」というものが存在することは多い。そして人生のモチベーションのきっかけを「原体験」におく人も多いと感じている。
幼い頃に育った街の風景の記憶であったり、辛かった部活や学校での出来事、好きなものに没頭した記憶、旅行で行った先の異世界での体験、家族の事情など、「原体験」というキーワードと共に人生が語られているのを聞くことが多いと感じる。
私の建築に対してのモチベーションは、この「原体験」をつくることにある。
それも空間によって新しい世界の見方ができるような「原体験」だ。
このような体験は空間と密接に結びついていることがものすごく多い。
田舎の田んぼに囲まれた中での体験なのか、住宅地のマンションの一室での体験なのか、はたまた全く知らない土地の夕焼けを見ながらの体験なのか。
この体験がどんなものであったか思い出すときに必ず現れる周りの空間。
この体験のための空間を考えることが何より面白く楽しい。
素晴らしい体験のための空間を作るには、そこで起こる現象と、その人がその後どういう感情になるかを考えることが必要だし、そんなことは予測不可能だから、結果的に予想とは全く違う体験が生まれることが醍醐味である。だから体験豊かな建築を考えることをやめられない。