からだの土台の作り方
【アスリートのための身体の仕組み講座】
第4回は
【からだの土台の作り方】
について整理していきます。
『からだの土台づくり』
と言うと、具体的にどういった事なのかイメージできない方が多いかと思います。
わかりやすく言い換えると
【パフォーマンス向上のためには基礎体力が必要不可欠。
その基礎体力の部分をどうやって作っていくのか?】
って事です。
当然、『走り込みじゃー!』ではうまくいきませんからね。
具体的に、何をどうしていくのか考えていきましょう。
Ⅰ.土台(ベース)の重要性
身体のベース、基本的な体力、基礎体力
言い方は色々ですが・・
それが大切という事は皆さんご存じですね。
どんな技術、戦術も、基礎的な体力がないと成り立ちません。
技術は疲れていない方が早く習得(神経系との関係)されますし、その技術を叩き込むため反復練習するにも体力が必要です。
戦術もそう。
どんなに理解力があっても、それを遂行する事が出来なければ意味がありませんね。
当然、ケガなく安定したパフォーマンスを発揮するためにも基礎体力という身体の土台(ベース)が重要となります。
しかし、下の2つのピラミッドのような選手が実は多いんです。
技術や戦術など、そういった部分って
・選手自身もモチベーション高く取り組みやすい
・ある程度学びやすさがある
・近年はそれを“売り”にしたビジネスも多くなっている
など、こういった事もあり、技術や戦術の部分はレベルアップしているように思います。
しかし、身体の土台(ベース)、基礎体力の部分は重要という事はわかっていても
・モチベーション維持が難しい
・理解が大変
・何をどうしたらいいかわからない
・形だけのなんちゃってトレーナー多すぎ
・体幹や走り込みなど、『○○やってるから大丈夫』というのが多い
など、こういった事もあり、なかなか踏み込んできちんと出来ている選手が少ないのが現状です。
そもそも、生活環境の変化などの影響もあり、基本機能の低下、活動量の低下が起きており、基礎体力が低下してきているという事もあります。
技術や戦術は向上しているけど、基礎体力や気力が追い付いていない事が多くある
っていう状況ですね。
こういった時代だからこそ
・基本的な機能の部分
・からだの土台、基礎体力の部分
ここに関して、意識的に、こだわって取り組んでいく必要があるんですね。
Ⅱ.土台づくりの流れ
大切なことは理解できたけど
『それって具体的に何をするん?』
って事ですよね。
様々なトレーニングがありますが、まずは【流れ】を確認しましょう。
この流れを知らないと
『走りこんでも怪我が多い、パフォーマンスに繋がらん』
『体幹やってるけど、成果でとん?意味あるん?』
『筋トレしとるけどパフォーマンスに繋がらん』
『とにかく怪我が多いんじゃあ』
『コンディションの波が激しくて・・』
などなど、このような事が起こったりします。
正しく理解しておくという事はとても大切ですね。
【身体の土台づくりの流れ】
①リアライメント(姿勢を整える)
→骨の位置や関節の位置などを整える
②スタビリティ(姿勢と動きを安定させる)
→体を支える筋肉たちを機能させ安定させる
③コーディネート(効率よく体を動かす)
→体幹部と手足を協調させる、連動させる
④アダプテーション(環境適応能力)
→様々な環境に適応できるようにする
⑤ストレングス(強さ、しなやかさ、体力的要素)
→筋トレなど、その人に必要な強さを獲得する
⑥パフォーマンス(求める動きを獲得)
→スポーツ動作、技術的な動作に繋げる、高める、強くする
このようなイメージですね。
↓
姿勢がぐちゃぐちゃだと、当然ですが動きも悪くなりますね。
姿勢が安定していないのに動きが安定することもない・・。
姿勢も悪いし、安定もしていない状態で筋トレやアジリティ強化、技術練習をしても効果的ではないですね。
逆に怪我のリスクが高くなるだけです。
そして、
『頑張ってトレーニングしているのにパフォーマンスがあがらん』
とストレスを感じ、更に練習量を増やしてしまったり、自信を失っていったりとネガティブなサイクルにはまってしまいます。
自分自身の状態を正しく知ること
今、何が必要なのか整理すること
求めるパフォーマンスまでのストーリーを確認すること
これらが出来ると、精神的に不安定になる事はないですし、前向きに取り組んでいけますね。
選手それぞれ、状態も違えばベストなアプローチ方法も違います。
ただ、選手自身では気付けないですし、わからない。
指導者にもわかりません。
だから、こういった部分は専門家であるトレーナーとのやり取りが大切になりますね。
選手はざっくりでも知っておくと、トレーニングの意味がわかるし、適切なトレーニングを選ぶことができます。
そして当然、質もよくなります。
トレーナーさんのサポートを受けているのであれば、より踏み込んだ話ができて、質だけでなく成長スピードもあがります。
では、土台作りの流れ、①~⑥まで少し詳しく確認していきましょう。
Ⅲ.①リアライメント
まず最初に確認すべき部分は姿勢。
ざっくりな姿勢ではなく
骨の位置や関節の位置を(その人にとって)正しいポジションにする
という感じです。
これを
リアライメント
と言います。
体がイマイチな状態だと
・体にかかる負担↑↑
・筋肉が引っ張られたり、縮んだりする
・筋肉自体の長さが変わってしまう
・関節可動域がせまくなる
・呼吸が浅くなる
・機能低下に繋がる
など、本当に多くの問題が起こります。
特に骨盤、股関節あたりはスッキリさせておかないといけません。
よく
『硬いんですよねー』
と柔軟性不足と勘違いしている方がいますが
【関節可動域】と【柔軟性】
ここをごちゃまぜにしちゃいけません。
別物ですから。
めちゃめちゃ硬い選手でもスッキリ整えていくと
『おぉ~、スムーズに動くし可動域が広がった!』
ってなります。
少しでも良い状態で次のステップにいった方が絶対に良いですよね。
『なんか動きが悪いんですよね』
『少しつまっている感じがあって・・』
という状態で次のステップ、トレーニングを行ってもうまくいきません。
どの競技でも第一歩は
【リアライメント(姿勢を整える)】
から確認していきましょう。
Ⅳ.②スタビリティ
姿勢を整えたら
スタビリティ(姿勢と動きを安定させる)
です。
骨や関節を良いポジションにしても、不安定じゃダメ。
動きに入る前に
【静的な安定性】を獲得する必要があります。
静的安定性が獲得できていないと、動きを安定させることも難しいんです。
コア(体幹)を安定させるスタビリティとは
姿勢や関節を良い状態で維持し、軸や重心も良いポジションで安定させる
という事です。
その為には
・インナーユニットの機能を高める
・アウターユニットやアウターマッスルの機能を高める
・インナーユニットとアウターユニット、アウターマッスルがちゃんと機能する
こういった部分が重要になります。
アウターマッスルがメインで頑張っている状態だと、姿勢は簡単に崩れてしまいますし、動作に入った瞬間ボロがでます。
ユニットとかマッスルとかややこしいですね。笑
インナーユニットやアウターマッスル等について詳しくは過去の記事をご確認ください。
そして、コア(体幹)の安定性は3つの要素からなります。
コア(体幹)を安定させる3つの要素
・骨や靭帯、関節包による安定化
・筋活動による安定化
・中枢神経による筋活動の制御
となります。
簡単に言うと
【骨・靭帯・関節包】
【筋肉】
【脳】
この3つがうまいこと働く事が重要ってこと。
司令塔(脳)がしっかりしていても現場(骨や靭帯、筋肉)に問題があったらうまくいきません。
逆に、
現場(骨や靭帯、筋肉)に問題がなくても、司令塔(脳)がうまく機能していないとうまくいきません。
そういう事ですね。
で、安定性を獲得するためにはザ・体幹みたいな(プランクとか)トレーニングを行ったりするのですが
【何のためにやるのか】
【ポイントを整理してできているか】
など、きちんと効果のでるように注意して行いたいですね。
形や回数、負荷などにとらわれて、効果的ではないトレーニングになっていることもよくあるので、今一度、確認してみてくださいね。
スタビリティ不足でスムーズな動作が出来ない選手はとても多いんです。
【安定しているから動ける】
↑
これを忘れずに。
Ⅴ.③コーディネート
『姿勢を整えたら安定させましょうや』
というのが①と②でした。
静的安定性の次は
【動的安定性】になります。
コーディネートやコーディネーション、動きづくりと言われるところですね。
『体幹部を安定させたら手足を協調させましょうや』
という感じです。
【スタビリティ】⇒静的安定性(姿勢を安定させる)
【コーディネート】⇒動的安定性(手足を協調させる)
言葉では簡単に説明ができますが、スタビリティでも動きのあるトレーニングがあります。
動きとして、実際にはどのような違いがあるかわかりますか?
簡単に説明すると
【背骨の動きを伴うか伴わないか】です。
良い姿勢をキープしたまま手足を動かしていく
→スタビリティ
胴体(背骨)の動きも出しながら手足も動かしていく
→コーディネート
という感じです。
そして、スポーツ動作において重要となるのが
【効率の良い動き】です。
・どんな動きに対しても身体の軸が保てる
・体幹を肩甲帯・骨盤帯と連動させる
このような部分が大切なポイントとなります。
肩甲帯と骨盤帯を連動させるためには、背骨がうまいこと動かないといけません。
『肩甲骨が大切だ』
『骨盤が大切だ』
『軸が・・』
など、色々言われますが、それぞれピンポイントで考えるのではなく、“全身”で考えていく必要があります。
“売れる”という事を考えたらピンポイントで出した方が良いのですが。笑
そして大切なことがもう1つ。
【正しい動きを脳に学習させる】
ということ。
脳は、崩れた姿勢や間違った動作が長く続くと
『この姿勢が正しい姿勢なんだ』
『この動きが正しい動きなんだ』
と認識し、間違った姿勢や動作を無意識に行うようになります。
脳に身体の設計図があるんですが、
その設計図自体が間違ったものに書き換えられている状態です。
その間違った設計図のまま日常生活をすごしたり、スポーツをしていると、どこかにボロが出てきますよね。
それが違和感や痛み、不調に繋がるという訳です。
また、姿勢や動作を整えても
『ちょいちょい!何勝手にいじってんの!?
設計図と変わっちゃうじゃん!設計図通りに戻さなきゃ!』
って、脳は思うんです。
だから、姿勢など整えても
『数週間でまた元に戻っちゃった』
なんてことが起こるんですね。
ではどうしたらいいのか?
って話になりますね。
答えは簡単。
姿勢を整えたら、それを安定させること、正しく動くということを“脳”に叩き込めばいいんです。
『この姿勢が正解だよ~。このポジションで骨や関節を安定させてね~。動く時はこうやって動くんだよ~。』
ってことを脳に教えてあげるんですね。
脳にある身体の設計図の書き換えです。
このトレーニングは、『ひたすらやる!』とかじゃないので気を付けてくださいね。
きちんと整理して、正しくアプローチしていくと、ちゃんと設計図の書き換えは行われます。
Ⅵ.④アダプテーション
①~③ここまでは
【重力に対してまっすぐ立つ】
という“ヒトの基本機能”になります。
骨の配列、安定力・固定力、協調性、連動性など
身体を思うように操作できる【ボディコントロール】の部分です。
アダプテーション(環境適応能力)
ここからは、身体を環境に適応させる部分に入っていきます。
身体機能統合、インテグレーションなんて言われる部分ですね。
簡単に言うと
『身体を良い感じにしていこうぜ』
↓
『この身体をうまいこと使えるようにしようぜ』
みたいな感じですかね。
どんなに素晴らしい機能があっても、求める環境で発揮できなければ残念ですよね。
ここがうまくいかなくて悩んでいる選手って多いんです。
・トレーニングが競技に反映されない
・体幹(コア)は意識できるけど、普段の姿勢、動きに反映されない
・“意識的”⇒“無意識”にうまくならない
こうして具体的に書くと
『それあるわー』
となる選手も多いんじゃないでしょうか。
こういった場合に
【アダプテーション(環境適応能力)】
が大切になってきます。
ヒトの身体は“脳”が指令を出しています。
反射などもありますが、基本的には指令スタイルですよね。
“脳”は良い姿勢や効率の良い動きなど求めていないんです。
『ラクをしたい』が優先されます。
『考えるのは疲れるので、何も考えなくてもいい姿勢、動き』をするんです。
その結果、どこかに違和感がでる、痛みが出てくるとかありますが、そうすると、『じゃあそこは使わない』みたいな感じです。
こうして書くと
『じゃあトレーニングしてもダメじゃん』
みたいな感じですが、求める姿勢、動作をするようにうまく誘導すればいいんです。
そのために
【脳は目的に反応する】
というのをうまく利用します。
“その目的を達成するために身体をどう使えばいいか?”
これを脳が勝手にコントロールして引き出してくれます。
“機能的な部分”
と
“強化、技術の部分”
これらの繋ぎ部分というイメージですね。
かっこよく言うと
【目的や課題に合わせて身体を反応させる】
という事ですね。
基本的な機能を獲得したら、様々な環境にも適応できるようにする。
これは、成長期の選手にとっても重要ですし、もちろん大人、トップアスリートにとっても重要な部分となります。
Ⅶ.⑤ストレングス
『ストレングス』
こう言うと、筋トレ、ウエイトトレーニングというイメージをもつ方が多いかと思います。
が、
『筋トレしとってもパフォーマンスに繋がらん』
『高負荷、高重量まで扱えるようになったけど・・』
という選手は多くいます。
もちろん、筋トレ、ウエイトトレーニングはとても大切ですし、選手にも取り組んでもらいます。
しかし、ここでいうストレングスの重要ポイントは
【強くしなやかに、体力的要素を高める】
ということ。
そして、そのトレーニングは
【その選手に必要なもの】
でなければいけません。
当然ですよね。
ベースとなる部分をきっちりやりつつ、プラスアルファの部分をきちんと見極めて取り組んでいく事が大切ですね。
トレーニングをはき違えると最悪です。
本当に取り返しのつかないことになります。
『肉体改造』と言ってトレーニングに取り組んだはいいけど、間違ったトレーニングをしてしまい、パフォーマンスが低下し、怪我も増え解雇されたプロスポーツ選手も多くいます。
筋トレではないですが、スピード自慢の選手が持久系のトレーニングばかりやらされて、スピードが落ちてしまったという事も多くあります。
そうやって落ちたスピードは残念ながら戻りません。
本当に残念なことです。
こういった選手は本当にたくさんいます。
トレーニングをはき違えてはいけません。
ちなみに
『筋トレして重たくなったらスピードが落ちる』
なんて言われることもありますが(今は減った?)
それは間違いですね。
スピードに自信があって、
『筋トレしちゃうと重くなるからな~』
って理由をつけて筋トレを避けている選手は考えを改めてください。
きちんとトレーニングする事で、更にステップアップできますよ!
マッチョになる事が目的ではないので、そこだけは間違えないように要注意ですが。
その競技、その選手に合った身体にする。
レベルアップの為にトレーニングをする。
当たり前のことですが、そこをはき違えてしまう、間違ったトレーニングをしてしまうと
・動きが重くなる
・関節可動域に問題が生じる
・怪我が増える
・パフォーマンスが低下する
・選手寿命が縮む
など、残念なことになってしまいます。
ストレングスは
動作の質を更に高める為に行う!
忘れないでくださいね。
Ⅷ.⑥パフォーマンス
色々とお伝えしてきましたが、最終的には
【求める動きを獲得する】
【それを競技の中で発揮する】
という部分に繋げていきます。
ここの方法は、言ってしまえば
最短で求める動き、パフォーマンスを引き出すことができるのであれば、やり方、方法は何でもいい。
と思います。
僕は、その選手にとってベストなものを一緒に確認し、細かい動作と動作を繋げて求める動きを作り上げていって、競技動作に落とし込んでいくイメージで進めていきます。
マニアックすぎて文字にできないですが。
様々なトレーニングが紹介されていたりしますが、やり方や形などにとらわれて、本質を見失わないように注意してくださいね。
結局、ベースの部分がきちんとできていないと、絶対にどこかにボロが出ます。
どれだけ潜在能力を引き出せるか。
身体をうまいこと使えるか。
見失わないようにしてくださいね。
まとめ
身体の機能的な部分が100点でも、それを動かす筋力が無いとダメ。
どんなにパワーがあっても、機能的な動きができないとダメ。
身体がおかしな状態で技術練習してもうまくならない。
どんな競技にしたって
【身体の土台(ベース)が大切】
ですよね。
身体を良い感じにすること。
そして、その身体を適応させる、うまこと使えるようにすること。
ここが出来ているからこそ、技術を含め、スポーツ動作を高めることができます。
色々な要素を整理してきましたが
自分自身どこからどう取り組んでいくべきなのか
まずは、ここの確認からですね。
『順番に完全にクリアして・・』
という事ではないので。
今よりも少しでも良い状態にして次の要素、その次の要素・・
というイメージです。
骨や関節のポジションが、今よりも良い感じになれば、安定性も引き出しやすくなります。
今よりも安定性が増せば、動作もやりやすくなります。
こういったイメージで高めていきます。
なので僕は、選手と話をしながら絶対に身体のチェックから始めて、少しでもスムーズに、確実に上げていけるようにサポートしていきます。
選手自身で取り組むには限界があります。
監督、コーチ、指導者の方々にもこういった部分はわかりません。
よりレベルアップしていきたい方は、こういった部分に目を向ける必要があると思います。
トレーナーさんも得意分野が色々なので・・
こうした部分が専門で信頼できるトレーナーさんがいれば相談を。
『そんなんわからんわ!』
という方はいつでもご相談ください。