【詩】悪人の掌
ぼくの胸に手を置いた
あなたの手のひらから
悪人の匂い
堪え飽きた腹に
悪食の衝動
ぼくの皮膚を掻き混ぜた
うつくしい夢想
奥歯に噛み砕かれ
切実さは夜を明かす
あなたの口から零れた
苦悶や喘ぎが溶ける前に
舌の上に乗せるんだ
静かにあなたを掻き混ぜる
炭から噴き出す煙に炙られた
あなたのうつくしい希みは
逃げ惑い
窓から落ちる人のようだ
鼓動を濡らし
敷布に染みを形取る
あなたの指の爪の隙間に
深い色した飢餓が滲む
足の指の爪が白く色を失くし
分かち合った肉が口に滲む
硬く握られた
悪人の掌
ゆっくりと開かせた指の節
その背をずっと撫でていたんだ
ぼくの思慕を掻き混ぜる
うつくしい悪役
正義に噛み砕かれ
行き場を失くしたあなたが
仕方なくここで夜を明かすのを
ぼくは嗤っているんだ
あなたの奥に透けて見える
喪失の穴が埋まる前に
腹の上に乗せるんだ
静かにあなたを掻き混ぜる