見出し画像

星野源『ばらばら』/紅白で「世界はひとつじゃない」と歌う意味

私は、ソロデビュー当時から星野源さんのファンです。特に1stアルバムの『ばかのうた』、2ndアルバムの『エピソード』は、上京したばかりの多感な(?)大学生の自分を何度も救ってくれました。

その後もアーティストとしてアップデートし続けて、多彩な活躍を続けている星野さんは憧れの存在です。

そんな星野さんが、2024年を締めくくる「第75回NHK紅白歌合戦」で披露したのは、1stアルバムに収録されている『ばらばら』という曲でした。当初は『地獄でなぜ悪い』を披露する予定でしたが、直前で曲目が変更になるというアクシデントを経てのパフォーマンスでした。

世界は ひとつじゃない
ああ そのまま ばらばらのまま
世界は ひとつになれない
そのまま どこかにいこう

星野 源『ばらばら』(2010年)

大晦日で「世界はひとつじゃない」と歌う

神妙な表情。

数秒間の沈黙の後、おもむろにギターを弾き始めた星野さん。

日本のエンタメの中心とも言えるこの場所で、「世界はひとつじゃない」と歌い始めました。

なんだか鬼気迫る雰囲気。
ひとつひとつの言葉に、温かみと悲しみが入り混じった感情が感じられ、まるで心に直接語りかけてくるようでした。

広いスタジオにたったひとり、無数のライトに照らされて。

どこか孤独を感じさせると同時に、すべての人に寄り添っているようにも見えました。

気が合うと 見せかけて
重なりあっているだけ
本物はあなた わたしは偽物

星野 源『ばらばら』(2010年)

この部分「本物はあなた わたしは偽物」から、「本物はあなた わたしも本物」に変わっていました。
どのような意図で歌詞を変更したかは分かりませんが、この日、この場所で歌う覚悟を感じました。
個人的な感想までに。「わたしは偽物」には自己否定や相手への憧れといったニュアンスがありました。しかし「わたしも本物」とすることで、自分自身を肯定するメッセージに変化しているように感じられました。

この曲が生まれた経緯

この曲が生まれた経緯について、「クソみたいな女に、猛烈にフラれたときに、吐き出すように書いた」と以前雑誌のインタビューで語っていました(出典:『クイック・ジャパン』vol.105)

ドラマで聞くような「僕たちはひとつさ」「やっとひとつになれたね」というようなセリフに対してのアンチテーゼとしての「世界は ひとつじゃない」という歌詞を書いたそうです。

この曲をライブで披露するにあたって、星野さんはひとつの解決策を示すことが必要だと考え、「ばらばらのままでも、重なり合うことはできるんじゃないか」というメッセージにたどり着きました。

2020年 『うちで踊ろう(大晦日)』の衝撃

「ひとつになることはできないけど、重なり合うことはできる」

これは2020年の紅白で披露した『うちで踊ろう(大晦日)』にも通じているメッセージだと思います。

『うちで踊ろう』は、2020年の4月に星野さんがInstagramで発表し、一般の人がダンスや楽器演奏、コーラスなどで自由にコラボできるという画期的な楽曲。紅白で歌った『うちで踊ろう(大晦日)』では、新たな歌詞も追加され、さらに強いメッセージを帯びていました。

愛が足りない
こんな馬鹿な世界になっても
まだ動く まだ生きている
あなたの胸のうちで踊ろう 一人踊ろう
変わらぬ鼓動 弾ませろよ
生きて踊ろう 僕らずっと独りだと
諦め進もう

星野 源『うちで踊ろう(大晦日)』(2020)

紅白の舞台で初めて耳にした「僕らずっと独りだと諦め進もう」という歌詞には本当に痺れました。

重なりあうことの奇跡

組織やパートナー関係において、「ひとつになる」という考え方だと、もしかしたら相手に何かを強いたり、相手を自分の思い通りにコントロールしようとしてしまうかもしれません。そして相手が期待通りに動かなかったら、過度に落ち込んだり、苛立ったりすることもあると思います。

でも、人はそれぞれが独立した存在であり、自分自身の自由を持つもの。だからこそ、「ひとつになる」ことは難しいし、その必要すらないのかもしれません。

でも、ふとしたタイミングで「重なり合う」ことがある。もしかしたらそれは、何の保証もない日々の中で起こる、奇跡のようなものなんじゃないかと思います。

2013年の泉谷しげるさんとの共通点

今回の紅白のテーマは、「あなたへの歌」でした。
余談ですが、まさに「自分に対して歌ってくれている感覚」を2013年の紅白で感じていました。それは、泉谷しげるさんのパフォーマンスです。
泉谷さんは名曲『春夏秋冬』を歌ったのですが、手拍子し始めた観客に対して「手拍子してんじゃねえ!!誰が頼んだこの野郎!!」と突然キレ始めました笑。
その後、テレビの向こう側にこう語りかけます。

テレビの向こう側で1人で紅白を見ているお前ら
ラジオを聴いているお前ら
今年はいろいろあったろ
いろいろ辛いこともあったろ
だから、忘れたいことも忘れたくないことも
今日は「自分の今日」にしろ
自分だけの今日に向かってそっと歌え!

2013年「第64回NHK紅白歌合戦」の泉谷しげるさんの間奏中の言葉

私は当時就活中で、大晦日も実家に帰らず、東京のアパートで1人でエントリーシートを書いていました。この語りを聞いたとき、泉谷さんが「俺のために歌ってくれてる!!」と感動して、ボロボロ泣いた記憶があります笑。

泉谷さんの言うように、1人で過ごしたり、あるいは働きながら年を越したりした人も多いのではないでしょうか。
その時の泉谷さんも、今回の星野さんも「大晦日だからこそ、こんな人に届けたい」という想いがあって、それがちゃんと届いたからこそ、非常に感動的なパフォーマンスになったのだと思います。

そんな僕も、自宅でこの文章をひとりで書いています。蕎麦食べてます!良いお年を!



いいなと思ったら応援しよう!