【書評】続・インタフェースデザインの心理学〜ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針
◆概要
・普段WEBやスマートデバイスの環境で起きる体験を、関連する最新の心理学の成果を使った裏付けや説明をしている。
・アプリやメディアをデザインしたり開発するうえで、ユーザーフレンドリーなI/Fや、コンバージョンを高めるために役立つかもしれない知見が書かれている。
・疑問形で章立てされているので、興味のある内容から読み進められる。(ex. 創造性はデザインにどう影響するか)
◆私が特に面白いと感じたトピック・内容をいくつかピックアップして紹介したいと思います。
・読みにくい文章のほうが学習効果が上がる
・動詞より名詞のほうが人を動かす
・人は認知的不協和が原因で買ったものに執着したり、ものを買う
・読みにくい文章のほうが学習効果が上がる
→ すべてにおいて、シンプルでわかりやすいことが正であると考えてきた私にとって、衝撃を覚えるトピックでした。
ある研究者「読みにくいフォントを使うことが学習と記憶の向上につながる」という仮説を立て実験した。
同じ内容の情報を一方はArialで、一方はComicSans(読みにくいフォント)を使用して記述し、記憶への定着度を比較したところ、なんと、読みにくいほうが優位に記憶に残るという結果が出た。
このような結果をデザインに適用するには、慎重さが要求されるが、場合によって多少読みにくいフォントを使うことで、学習効果と記憶に残る効果が得られる可能性があることを検討してみてはどうだろうか。
・動詞より名詞のほうが人を動かす
ボタンのラベルにどういった言葉を置いたらよいか考える際に、参考になるかもしれません。例えば「注文」がいいのか、「買い物かごに入れる」がよいのか。
ここでは、2012年のスタンフォードでの心理学の実験結果から、「名詞」のほうが効果的であるという結論が主張されています。(ただし、英語での実験であるため、日本語でも同じ結果なのかは、述べられていません。)
その実験とは→ 選挙での短いアンケートの質問で「投票する」という動詞を使った場合と、「有権者」という名詞を使った場合での、アンケートの登録率の差が動詞が有利という結果になった。
その原理として、「集団への帰属意識」という欲求が行動に影響したことで説明されている。例えば、寄付を促すボタンに書くテキストは、「Donate now」より、「Be a doner」のほうが、寄付者という集団への帰属感を掻き立てられ行動させやすい。
・人は認知的不協和が原因で買ったものに執着したり、ものを買う。
人は自分の行動と信念が一致している状況を良しとする。それに反した「認知的不協和」とは以下のような状態をいう。
・自分の行動が信念と一致しない
・矛盾する2つの信念を抱える状況になったとき
・既存の信念と矛盾する新たな情報に出くわしたとき
ショッピングにおいて、認知的不協和がかえって商品への執着を強める場合がある。
買った商品やサービスに不満があると、自己の信念と異なる下手な買い物をしたと感じ、認知的不協和が増す。
この状態を解消しようとして、2つの行動に分かれる。1つは購入後にも「その商品は良い」という情報を積極的に求める、もう1つは、自分の信念を商品に合わせて改める、ということである。
前者に対しては、その商品をかったことがいかに正しいかを伝える他人の言葉を送ると良い。後者は自分がいかに良い買い物をしたかを他の人に話したり、評価・コメントを残す行動に出る可能性が高い。
また、認知的不協和は、ものを買う(買わせる)きっかけにもなる。例えば自分の中に2つの相反する考えがあるとする。
1.「私はアウトドア派である」
2.「持っているギアやウェアーがあまり高性能でない」
この時葛藤を取り除くために2つの選択をとる。
1. 高いブランド、高性能なギアを買うために行動する。
2. 自分の信念を改める。
2-a. 「本当はアウトドア派でない」と改める 。
2-b. 「手持ちのギアはそんなに悪くない」、「道具の価値は値段や性能ではない」と考えを改める。
このような認知的不協和を誘発するメッセージを送り、自社の商品がいかにこの状態を減らすものであるかを示すことは、人に行動を起こすことを促す。この方法は、マーケティングや広告・コピーに応用できる。
◆まとめ
UXやUIを設計デやザインするときに、うまいデザイナーが直感的に良いと感じること、正しいと考えることは、心理学的にも筋の通ることが多いと思います。その背景としてどのような要因があるか?心理学の最新研究成果と照らし合わせて見せてくれるところは面白い。
特に、正しいと思い込んでいたことが、実はそうでもないことがあるという発見があった。上にあげた3つのトピックは、多くの人に思い込みとのギャップがあるのではないでしょうか。
また、メディア環境が変化することで、心理学にも新しい課題やテーマが生まれているということにも気づいた。例えば電子ブックリーダーと従来の紙媒体の学習への効果の違いなどは、その典型といえます。