大地震が起きたら、まずこれをしろ!
阪神大震災(1995.01.17)の、あの震度7の真上にいた人間として、いくつかお伝えたいことがあります。
それは「大地震がおこったら、どういった行動をとればいいか」ということ。
経験者にしか語れないことってあると思います。どんなに想像力豊かな人でもその場にいないとわからないことってあるのです。
いろいろありますが、箇条書きにしていきますね。
「家自体は倒れなかった」「火事や津波に巻き込まれなかった」ことを前提として話をすすめます。
なお、東日本大震災(2011.3.11)は、地震被害も大きかったですが、基本的に「広域大水害」でした。
それに対して、阪神大震災は「都市型地震災害」です。
以下は、阪神大震災の体験をもとに書いた知見です。
つまり「都市型地震災害に限った教訓」になります。ご注意ください。大水害や山岳部および郊外の地震災害などには当てはまらない場合もあります。
※
他にも「大地震が起こる前に、これだけはしておけ!」という体験的教訓と、「震度7の朝、妻は妊娠9ヶ月だった」という実体験ノンフィクションを書いています。もしよろしかったら是非読んでみてください。
●「まず火を消せ!」は、わりと無理
よく言われるのは「まず火を消せ!」ということですね。
でも、体験上、火は消せないと思います。
消す努力は必要でしょう。
でも、きっと消せない。そのくらい揺れることは前提として知っておいてください。
震度7級の地震だったら、まったく動けません。
昼間の地震だとしても、近くの柱とかにつかまって身体を支えるのがやっとでしょう。
ラグビーやってた大男のボクですら、ベッド上で1ミリも動けませんでした(阪神大震災は朝5時台に起こったので寝てました)。
1ミリも、です。起きることすらムリ。
ただただ手と足を踏ん張って飛ばされないようにしていただけ。そのくらい揺れました。
とにかく「一歩も動けない」と思っておいた方がいいです。
だから火なんか消せません。
第一、四方から家具が倒れてきます。下敷きにならず怪我しないのが精一杯だと思います。
んー、机の下に隠れるくらいはできるかな、どーかなぁ、というレベル。
火事にならなかったらラッキーなのです。(もちろん揺れがおさまったら火は消しましょう)
対抗策としては、揺れを感知して火が消えるタイプのコンロを買うしかないですね。ちょっと高めですが、必須だと思います。
あとはなるべく電気製品にしていくことですかね・・・。
●「まず水をためろ!」 これがポイント
揺れがおさまったら、まず水! とにかく水!
これは覚えておいてください。
特にマンションに住んでいる方、揺れ終わったらすぐに、風呂、バケツ、シンク、桶…なんでもいいですから出来る限り水を貯めましょう。
一軒家だと揺れてすぐに水道管が壊れて水が出なくなる場合もあるけど、マンションだったら屋上の貯水槽にまだ水があり(貯水槽が壊れていない限り)、あなたの部屋にも水が届くと思います。それを貯めるんです。
飲み水ではありません。
喉の渇きは、数日ならなんとかなります(何かしら飲料は手に入るので)。
困るのはトイレ用の水です。
水、止まります。つまりトイレを流せません。
特に都会では、野糞する場所なんて見つからないし(昼だと特に)、小学校に行こうが公園に行こうが、どこに行こうが水洗便所しかありません。
ってことは水が出ないと流せない。
汚物は溜まる一方。地震後どこ行っても便器はてんこ盛りで、しゃがんだら(座ったら)お尻につきそうでした(汚)。
地震当日の夜でその状態。
もう自分の家でするしかありません。
とはいえ、同居している家族に自分のモノを見せるのってイヤですよ〜・・・絶対流したくなる。
ちなみに、普通の水洗で1回にどのくらい水を使うか知ってますか?
バケツ2杯分でちょっと足りない。そのくらい使うのです。
自衛隊の給水に長時間並んでもいいところ1人で運べるのはバケツ2杯。そう、1回並んで(1時間くらい)トイレ1回分しかもらえないのです。
10階に住んでいたら、重いバケツを階段で必死に運んで(エレベーターもちろん止まってます)やっとトイレ一回分なんです。
20階に住んでたらどうなると思います? 高層マンションの上の方に住んでいる方はマジやばい。ご老人や身体が不自由な方、体力のない方など、まじ死活問題です。
ですから、「まず、水をためろ!」
一軒屋の場合でもすぐ近くの水道管が切れない限り少しは出ると思います。でなければ近くの公園とかに出かけていって、バケツで公共の水道から出来るだけ多く水をもらっておくことです。
まだ出る水を自分だけで確保して、他の人のことは考えないのか!って?
貯水槽だって水道管だって、どこか壊れていないとは限りません。
あっという間に裂け目から水が漏れ出てしまうかもしれません。
だから、まず、出るうちにあなたが水を貯めて、そのあと水を分け合えばいいんです。
阪神大震災では、まず自分で水を確保してから、「水あります」と貼り紙していた家がいくつもありました。正しい態度だと思います。
【重要な追記】
一軒家なら上記でいいかと思いますが、マンションなどの集合住宅の場合、排水管が揺れで壊れている場合があります。
その場合は、溜めた水でトイレを流すと、他の住民に迷惑をかけるばあいが出てきますので、以下のような「携帯用非常トイレ」を大量に買っておくのが重要かもしれません。
●屋内でも靴を履く
1日の半分は夜です。
暗い中で地震に遭遇する確率は1/2なのです。
そして、大地震が起こったらすぐ停電しますから、夜の7時であろうが真の闇になります。
何が言いたいのかというと、闇だと足もとも全くわからないということ。
グラスやガラスや食器がそこらじゅうで割れまくっています。ですからガラスの破片で足裏を怪我をする確率が高いんです。
いいですか。
水がでないから傷口洗えない。清潔にたもてない。ドラッグストアの棚もあっという間に空っぽ。病院はもっと重症の患者で一杯。
つまり、足裏をざっくり切った日にゃ大変です。歩けません。火事から逃げるのもヨタヨタです。
高層マンションに住んでいる方。
エレベーター止まります。止まったきりで当分動きません。
水とか食料とか近くの避難所にもらいに行くのにいちいち階段を上り降りしなければなりません。足の裏の怪我は致命傷なんです。
ですからまず、揺れたら「靴!」と思い出してください。
「水」の次は「靴」です。
屋内でも靴を履くのです。
玄関にそうっと足を怪我しないように歩いて行って、とにかく靴を履きましょう。
床汚すの嫌なら新品の靴をおろしましょう。
●家を離れるときは、必ずブレーカーを落とす
「通電火災」って言葉知ってますか?
電気はガスや水と違って半日~3日くらいでかなり復旧します。
一応電力系の会社が各家を回って人がいるのを確かめてから通電するのが原則らしいのですが、そんなもの不可能なので勝手に通電されることも多いのです。
で、その時に起こる火事が「通電火災」。
実際、阪神大震災での出火原因の6割は通電火災であるとすら言われています。
ボクの家の前など、アスファルトにあいた地割れ穴から、カゲロウになって向こうが見えないくらいガスが吹き出していました。
通電の際の火花がこのガスに引火するケースがあります。
また倒れた電気ストーブに再び火がついちゃったり(転倒感知システムがついていても倒れた後その上になにかが被さると働かないこともある)、落ちた裸電球が紙の上に落ちたりしていた場合も危ない。熱帯魚用のヒーターも通電の際かなり危ないらしいです。
通電時に家に誰かいるのならなんとか「通電火災」を食い止めることが出来るとは思います。
でもいなかったら無理。
地震後何時間も経ってから火事になった家なんて掃いて捨てるほど神戸にはありました。ほとんどが「誰もいない間の通電による火災」。
そう、もうわかりますよね。
ブレーカーを落としちゃえばいいのです。
地震後、家をなにかの用事で離れるときは、それがほんの短い時間でもブレーカーを落す。忘れないでください。
※震度5以上で自動的にブレーカーが落ちる装置も売ってますね。
●街を行くときは、電線と地割れに注意
道も地震直後はすいています。
クルマで脱出するなら決断は早いほどいいです。
ただし、東京みたいな大都市なら、クルマで脱出するのはやめたほうがいいです。
すぐ大渋滞になり救助の甚大な妨げになります。
逃げる途中で立ち往生したら、「家にも戻れないし先にも進めない」という地獄状態になります。
地割れができたり、塀が倒れていたり、ビルが倒れたりしています。
どの道がどこで通行不能か、当分わかりません。
というか、逃げた方向の被害の方がもっとスゴイ場合だって十分考えられます。そういった情報は数日は入ってこない、と思った方がいいです。
つまり、立ち往生する可能性が高いです。
それでも、必要があってクルマなどで逃げる場合。
なにが怖いって高圧線と地割れです。
電線はいたる所で切れて垂れ下がっています。地面は「うそー」というくらい割れています。アスファルトがもう鉤裂き状態なんです。スクーターが地割れに突っ込むのを何度か目撃しました。
運転も注意。
地割れってわりと見えにくい上に、まわりの家の倒れ方の凄まじさに目を取られて注意が疎かになるのです。ゆっくりゆっくりカタツムリのように運転しましょう。
※ 東京で震度6弱以上の地震が起きた場合、環七以内は通行禁止で入れなくなります。東京での大地震の場合クルマは使わないこと。
●整理や掃除を始める前に、とにかく写真を撮っておく
もちろん揺れがおさまってある程度落ち着いたあとですが、わりとすぐ部屋の中を片づけ出す人、多いですよね。
そりゃそうです。
生活しないといけないから。
でもちょっと待ってください。
その被害状況、とにかく写真に撮った方がいいです。
SNSに上げるとかそんなことではもちろんなく、地震保険のためです。
地震保険に入っている人、わりといると思います。
保険がおりた人、おりなかった人、いろいろいらっしゃるとは思いますが、おりた人に聞くと、ちゃんと被害状況を写真撮っていた人、多いみたいです。
屋外はあとでも撮れますよね。
カベのヒビとか、半壊の状況とか。
ただ、屋内は忘れがち。
なんだかんだ、すぐ整理や掃除を始めちゃう人、多いと思います。
屋内の被害、たとえば食器が割れたり、タンスが倒れて家電用品が壊れたりしたのも、わりと多めに写真を撮っておくと、あとで保険がおりることも多いようなので、ぜひ片づけ始める前に、写真を撮っておきましょう。
いろいろな角度から、ちょっと多めに撮りましょう。
あとで保険額が違ってくるそうです。
以上。
短いけど、個人的に感じたことを少しだけ書いてみました。
お断りしておきますが、ボク個人の意見なうえに、網羅的には書いていません。ボクの実感レベルで得られたことだけを書きました。
東日本大震災の経験もプラスして、世の中には「地震後の行動」として、膨大な量の知見が共有されています。
ただ、網羅的なものを読んでも結局忘れちゃうので、あえて「水」「靴」「ブレーカー」の3つを中心に書かせていただきました。
とにかく、個人的に一番辛かったのはトイレの水ですね。
東日本大震災の避難所でも、汚いトイレに行くのがイヤで、水を飲まないとか、ごはんを少なくするという人がいて、体調管理上、とても問題になっていました。
そういう体験が、ボクが共同代表をしている一般社団法人「助けあいジャパン」の「災害派遣トイレネットワークプロジェクト」につながっていたりします。
災害時に使えるきれいなトレイラー水洗トイレを、全国の市町村に導入して、被災した自治体に全国からトイレが集結するプロジェクトです。
え~、トイレなんて極限状態になったらなんとかなるぜ、流せなかったらそこらの路地でしてもいいし、なんて思った方もいるでしょうね。
でもなかなか野糞は出来ませんよ。都会では。
それに人間、我慢できる部分と出来ない部分があるんです。
なってみたらわかります。
特に共同生活している人。夫婦とか、両親と住んでいるとか。そういう人はどうしてもなにがあっても「うんこ」を流したくなるから。
ということで。
少しでもお役に立てたら幸いです。
※この文章は、1997年3月に書いた記事を加筆修正したものです。
※※他にも、震災体験記事を書いていますので、ご参考まで(↓)