印税もらうとものすごくケチになっちゃう理由
先週、拙著『ファンベース』が5000冊の大重版になった。
去年の2月に発売してから1年9ヶ月。
それだけ経って、これだけ増刷するのはわりと希有なこと。
これもこの本を周りに薦めてくださるみなさまのおかげです。ありがとうございます。
これで9刷り42000部。
望み通り「じわじわ売れるロングセラー」になってとてもうれしい。
じわりじわりと5万部を目指します。これからもよろしくお願いします。
とか、こんなこと書いてると、昔からこう言われるんですね。
「いいなぁ! 印税生活は!」
「うらやましいなぁ! 印税がっぽがっぽ!」
以前よりは減ったんだけど、まだそういうことを言う方がいらっしゃる。
でもね、ホント、印税ってたいしたことないんです。
知らない方のために、軽く印税の説明をしましょう。
書籍の場合、著者がもらう印税というのはだいたいが「定価の1割」なんですね(人に寄って違うけどだいたいは)。
つまり、本『ファンベース』は定価950円だから、1冊売れるとボクに95円入るわけです。
5000冊の重版で、95円×5000冊=47万5000円。
累計で42000部だから、95円×42000部=399万円。
はい、そう、いい収入です。
47万5000円あったら欲しかったアレも買えるし、42000部売れれば、日本人の平均年収400万円くらいにはなる。贅沢言いたいわけじゃない。
ただですね。
この文章の冒頭から喜んでいるように、これだけ売れるのって「希有」なのです。
ボクの出した本の中でも『明日の広告』に次ぐくらいな売れ行きです(『明日の広告』は最終的に十数万部いったはず)。
普通は1万部でヒット。
3万部売れたら鼻高々。
10万部で驚天動地。
50万部? 見たことも聞いたこともない世界。
100万部?? たぶん明日オマエ死ぬぞ。
くらいなイメージ。
いや、そのくらい売れている人もいますけどね。
普通の野球選手が大リーガーのトップクラスと年収比べても意味がないのと同じこと。
特にこの「本が売れない時代」、そんなに売れるもんではないのです。
いま、日本で、特に書籍の印税だけでずっと食べて行けている人って、それこそ村上春樹や東野圭吾クラスを含めて30人いないんじゃないかなぁ・・・(音楽の印税とかはカラオケとかもあるし、ずっと売れ続ける場合も多いのでまた別)。
しかもですよ。
本書くって、ホントに大変なんです。
もう、労力に見合わない収入としか言いようがない。
「世の中にどうしても伝えたいこと」がなければ、ボクなら絶対に書きません。そのくらいはキツイ。
ボクは遅筆なほうだから参考になりにくいかもだけど、ボクで一冊出すのに1年以上苦しみまくります。
夜も遊びに行かなくなるし、週末はずっと苦しんでいる。プライベートを犠牲にしまくってようやく書き上がる。
本『ファンベース』は、出版社と話が決まってから1年半かかりました。苦しんでいる時間を含めると、書き終わるまでに1500時間はかかってる。
そうしてようやく出版して、2年かかって399万円では、本当にわりに合わないのです。
まぁサササっと書ける人もいるし、シャドーライターがついている場合も多いですけどね。
シャドーライターっていうと「任せて全部書いてもらう」みたいだけど、そこまで行かなくても「口でざっと話したことをライターさんに書いてもらってそれを直す」という簡易なやり方もある。
ボクはそういうの一切やったことがなくて、最初から最後まで自分で一文字一文字書いていきます(キーボードでだけど)。
どのくらいの量を書くかというと。
本『ファンベース』で、1行42文字で1ページ16行だから、1ページで672文字なんですね。つまり、本文278ページの本なので、18万6816文字書いた、と(余白など含む)。
まぁ余白引いたりするともっと短いし、『ファンベース』はわりと厚いほうなので、一般化して一冊書くのにだいたい12万字くらいとしましょうか。
このnoteとか書いている人ならわかるけど、わりとすぐ1000字くらいは行っちゃいますよね。一回1000字とすると、10回で1万字。それを12倍だから、つまりnoteを120回書いたら一冊って計算。
文字数だけなら、なんとかなりそうですよね?
でもね、アタマを整理してひとつのテーマを破綻なく12万字でまとめるとかって、もうホント大変なんです。
いや、ホント。
地獄としか言い様がない。
そうしてなんとか書き上げて、1万部売れないとか普通です。
たとえ1万部売れたとしても(まぁまぁのヒットです)、一冊95円の印税なら95万円。
苦労して、時間もたくさん使って、惜しげなく知見を共有して、95万円。
いや、ほんと、割に合わないと思います。
そのうえ!
生活がケチになるんです。
・・・いや、これはボクだけかもしれない。
でもね、ケチになっちゃうんですよ。
なんでかって言うと、これだけ苦労して書いて、ようやく一冊95円が手元に入るわけなんだけど、それ自体がまた「たいへんなハードルをくぐり抜けてのこと」なわけです。
つまり。
あなたが買ってくれる、という高い高いハードルがそこにある。
あなたが、「んー、この本、どうかな? 買って損はないかな?」って逡巡したあげくに、ポチッとアマゾンで押したり、書店でレジにもっていったりしていただいて、ようやく95円がボクに入るわけ。
それを考えると、
きゅ、
きゅうじゅうごえん、が、ものすごく貴重に思えてしまうのですよ!
自動販売機で、ペットボトルのお茶の小さいのが・・・100円!!!
ひえ〜〜〜!「お一人様分」以上か!そうなのか!!!
ひとりの人が、あの本を買おうか買うまいか迷った末に買ってくれて、ようやくこのお茶が飲めるのか・・・!
と、とてもじゃないが、飲めない!
ココイチのベジタリアンカレー!
(なぜこのメニューなのかはこちら)
トッピングなしで509円!!!
くぉ〜〜〜!「5人様分」以上!!!!
5人もの人がわざわざ本屋に行ったりアマゾン行ったりして買ってくれて、やっと、やっとこのカレーが食べられるのか・・・!!!
む、無理! 喰えん!! 口が裂けても、オレには喰えん!!
いちいち95円が頭をよぎるのだ。
いちいち「これ買ったら何人分なんだ?」と計算してしまう。
ユニクロでヒートテック950円・・・「10人様分」!!!
ビール飲み放題2000円ぽっきり!・・・「21人様分」以上!!!
ラグビーW杯2019「イングランド vs ニュージーランド戦」7万円・・・な、ななひゃくさんじゅうろくにんさまぶん・・・!?
な、736もの人があの本を迷った末に買ってくれて、よ、ようやくチケット1枚・・・!?
ひえ~~~~!
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・
いや、もう、1冊買っていただく、というのがどれくらいなハードルなのかよくわかるだけに、あらゆることがもったいなくなっていくわけです。
・・・こうして、増刷の知らせが来るたびに、ボクはケチになる。
「いいなぁ! 印税生活は!」
「うらやましいなぁ! 印税がっぽがっぽ!」
いや、ご同輩。
印税生活、逆に超質素っすよ。
ペットボトルのお茶を飲むのもさんざん逡巡するですよ。いやマジで。
※
【追記】
実際には売れてから印税が入るのではなく、刷った分だけ印税が入ります。
なので、あなたが一冊買わなくても、増刷すれば印税は入ります。
ただ、著者がもっているイメージとしては、「一冊一冊買っていただいて入ってくる」という感じです。少なくともボクはそういう感覚で生きています。