今日なに再読しよう(1) 〜ダン・シモンズ 『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』
死ぬまでに再読したい本がたくさんあります。もう新刊を読むヒマがない!と思うくらいたくさんあります(新刊も読みますけどね)。そんな「再読したい本」を少しずつ紹介していく「今日なに再読しよう」シリーズ。再読する前に記憶不十分で書くこともあるのであしからず。
小説の魅力っていろいろあると思うけど、「ストーリーテリング」は間違いなくその中の大きな部分を占めている。
で、ストーリーテリングにもいろいろあって。
ちょっとした身近な出来事を小さなストーリーに昇華して読ませてくれるものもあれば、ある事件を中心に抜群のストーリー構成で読ませてくれるものもある。
息もつかせぬ展開で読ませるものもあれば、自分が生きるはずがなかった人生をリアルに経験させてくれる類いのも多い。
中でもSF小説はストーリーテリングの最右翼だ。
想像力の翼を広げるだけ広げて、思っても見なかった場所まで読者を連れて行ってくれ、現実にはあり得ない体験をさせてくれる。
そういう観点をもってして、ボクはSF小説をこよなく愛しているし、実際よくSF小説を読んできた。
で、ですね。
SFって初読時の驚きももちろん素晴らしいんだけど、再読もまたいいんだなぁ。
初読時は、作者の想像の翼に乗っかって、人生で一度たりとも思い浮かべたこともないような景色の中を滑空するわけですよ。
それはそれはびっくりするし、美しいし、楽しすぎる。
でも、滑空が快感すぎて、いろんなものを見逃してしまう。
そういうのってありません?
たとえば、リアルな旅とかで。
もう、見る物聞く物すべてに新鮮な異国の旅とかで、そのときは圧倒されて旅は終わるんだけど、どうしてももう一度行きたいって場所、あるじゃないですか。
二度三度と通って味わい尽くしたい場所。
確かに二度目三度目じゃないとわからない魅力が、必ずそこにある。
そういう魅力。
そういう楽しさがSFの「再読」時にはあると思うのです。
作者の想像力が作り出した世界観の中で、最初はそのストーリーを楽しむ。
でも、二度目三度目は、その世界観を、今度は自分の想像力でもっと自由に楽しむ。
それがSF再読の醍醐味かと思う。
って、前置きが長くなってしまった。
上で「中でもSF小説は、ストーリーテリングの最右翼だ」って書いたけど、その最右翼なSF小説の中でも、これまた圧倒的に最右翼にいるのが、この『ハイペリオン』だと思うんですね。
もう「打ちのめされるレベルのストーリーテリング」がここにある。
なんか読んでる間ずっと「ダン・シモンズすげー」って呟き続け、打ちのめされ続ける。そんな読書。
忙しい日常で思考が矮小化して、なんだか小さく落ち着いちゃうとき、ボクはこの「打ちのめされるレベルのストーリーテリング」を再読して、自分の想像力に刺激を与え、なんとか飛翔させようとする。
そのために、いったん打ちのめされに行く感じ。
そんな感じで、ボクは『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』を再読してきたし、自分の人生の刺激としてきたなぁと思う(いままでに10回は再読した)。
ただ、再読の1ページ目を開くのにはちょっと勇気がいるですね。
なにしろ、時間がかなり取られちゃうし、一度あっちに行っちゃったら戻ってきにくいし。
まず、このシリーズ、やけに分厚いのだ。
以下は単行本のページ数。
(この圧倒的な分量を感じて欲しいからボクは単行本を勧めるけど、もちろん文庫も出ています)
『ハイペリオン』で524ページ(二段組み)
続編の『ハイペリオンの没落』で604ページ(二段組み)
そして、この『ハイペリオン』シリーズのあと、まだ続編があって、それはもっとぶ厚い。
『エンディミオン』594ページ(二段組み)
『エンディミオンの覚醒』808ページ(二段組み)
(※この『エンディミオン』シリーズはまた別で取り上げます。)
いや、読み始めたら止まらないんだけど、物理的に読む時間がたくさん必要なわけですね。
そういう意味で読み始めるのに勇気がいる。
そのうえ、しばらくは仕事が手に着かなくなる。
そりゃそうだ。
二度目三度目だからこそ、慣れたストーリーや景色を味わい尽くしたいわけで、初読時よりどっぷり世界観に浸かっちゃうわけですよ。
だから、仕事とかが落ち着いている時期で、数週間この世界でゆっくり遊ぶぞくらいな余裕があるときしか、この世界には入っていけない。
いろいろ環境を整えて、「よし!」と覚悟を決めて、再読し始める感じ。
まぁそうやって「ハイペリオン態勢」に入るのも、また楽しいのだけど。
さて、本の内容を説明するという野暮なことはしないけど、少しだけ内容にも触れておくと。
このシリーズの上巻である『ハイペリオン』は、6つの物語からなっていて。
そのうえ、どの物語もそれだけで傑作長編になるレベルに充実していて、それぞれに「打ちのめされるほどの想像力」で書かれている。
さらに、6つの強烈なストーリーテリングの末、6つの大きな謎を提示して、それらが次の『ハイペリオンの没落』でグワーーーー!と収束していくんだけど(収束しきらない謎は『エンディミオン』で収束していく)、もうどれもこれも、諸手を挙げて「まいりましたー」って言ってしまうようなストーリーなのだ。
第1章 司祭の物語: 神の名を叫んだ男
第2章 兵士の物語: 戦場の恋人
第3章 詩人の物語: ハイペリオンの歌
第4章 学者の物語: 忘却の川の水は苦く
第5章 探偵の物語: ロング・グッバイ
第6章 領事の物語: 思い出のシリ
こうやって題名を書き出すだけで泣けるレベルw
しかも少しずつ趣を変えて書かれているのでまったく飽きない。
それぞれに物語の中に物語があり、それらの上にまた大きな物語がある、という複雑な入れ子構造になっているのだけど、作者のストーリーテリング力がハンパないので、あなたはただ身を任せていればよい。
『没落』まで読み終わると、ちゃんと6つがつながってくるし(それだけでも驚きだ)、もっともっと壮大になる『エンディミオン』シリーズに、ちゃんとつながっていく。そこが本当にすごいんだな。
ちょうど今現在は『エンディミオンの覚醒』を再読しているのだけど、そしてたったひとつの場面に辿り着くためだけにただただ長い旅をさせられている最中なんだけど、これについてはまたそのうち書きます。
いやぁ、いままで小説や映画で様々な「偉大な想像力」に触れてきたけど、ちょっとダン・シモンズに並ぶ人は思い浮かばないなぁ・・・。
そういう意味で、長々書いてきたけど、イイタイコトはひとつだけかも。
圧倒的な想像力に触れたいなら、この4冊、特に『ハイペリオン』シリーズは必読ですよ、ということだ。
ボクはホント、この本に巡り会えて幸せだった。
人生であと何度読み返すことだろう・・・。
え? まだ読んでいない?
それはほんと、ラッキーなこと。
いまからこの世界を知ることができるあなたは、本当に幸せだ。
『ハイペリオン』 - 1990年ヒューゴー賞、ローカス賞受賞。1995年第26回星雲賞海外長編賞受賞
『ハイペリオンの没落』 - 1991年ローカス賞受賞。1992年イギリスSF協会賞受賞。1996年第27回星雲賞海外長編賞受賞
文庫にリンクしておきます。