図録とともに美術展を振り返る (1)〜2009年「ネオテニー・ジャパン 〜高橋コレクション」
「場所もとるし、もう図録を買うのはやめよう」とずいぶん断捨離もしちゃったんだけど、あるきっかけで「やっぱり美術展の図録はなるべく買うことにしよう」と心変わりした。
このシリーズでは、行った美術展の図録を読み込んだり、家に残っているいくつかの図録を見返したりしていきます。他のはこちらにまとめていきます。
(※図録:美術展や展覧会で販売されるカタログのこと)
いままでたくさんの図録を美術展などで買ってきたけど、もったいないことに断捨離でわりと寄付したり捨てたりしてしまった。
そして、「場所もとるし、もう図録を買うのはやめよう」と思っていたんだけど、あるきっかけがあって「やっぱ少しでも気になった美術展の図録はなるべく買うことにしよう」と心変わりした。
リンク先に書いたように、確かに図録って物理的には高いけど価値的には安い。
しかも、本当に気に入った図録は下手な作品集や写真集よりずっと見返す回数が多いことにも気がついた。
ということで、これからは気に入った展示会のいい図録はなるべく買おうと思っているのだけど、家にあるいくつかの図録も少し見返してみよう、というのがこのシリーズ。
今後行くであろう新たな美術展の図録も(何度も見返すものがあったら)取り上げて行こうと思う。
第1回目は、2008年〜2010年に催された展覧会「ネオテニー・ジャパン 〜高橋コレクション」。
ボクはこれを2009年の夏、長岡にある新潟県立近代美術館で見た。
たしか、越後妻有トリエンナーレの帰りに一人で寄ったのだと思う。
(他に、上野の森美術館、札幌芸術の森美術館、鹿児島県霧島アートの森、秋田県立近代美術館、米子市美術館の計6館で開催された)
展示に本当に感動して、かなり長時間、美術館に滞在した。
そして迷わず図録を購入。
※ これは市販もされているので、図録というより書籍に近いかもしれない。帯もついているしね(この記事の下の方でアマゾンにリンクしてます)。
168ページで2000円と、これだけ充実した展示だったわりにページ数は少ないのだが、いままで買った図録の中で、一番多く見返しているかもしれない。
図録の構成や内容の良さもあるけど、なにより「日本の現代アートの旗手たち」の、ある視点からの索引になっているのが大きいのである。
その視点とは、ネオテニー。
ネオテニーとは、幼形成熟、つまり、幼形を保ったまま性的に成熟した状態を指す。
この美術展は、高橋龍太郎というコレクター(本業は精神科医)のコレクションを展示したものなのだが、高橋氏は「日本の現代アートはネオテニーだ」と形容し、たとえば図録の中でこんなことを言っている(山下裕二氏との対談)。
日本の美術そのものが、世界の美術史の中では、胎児のまま出産を強いられた、ネオテニー(幼形成熟)ではないか、ということですね。江戸期からの蓄積があって今のコンテンポラリーシーンに結びついているわけではなくて、突然文明開化があって、ひたすら防衛策で洋画を作って、それに排撃される日本画があって、この二つは相容れない仲まで来ているけれども、世界史的にはほとんど闇に葬られて、約100年が過ぎて、ようやく今日のコンテンポラリーシーンがある、人類になりつつある、というニュアンスです。
また、主催者は「序」でこう書いている。
本展では、現代用語のひとつとして取り上げられるようになった「neoteny(幼形成熟の意)」をキーワードに、高橋コレクションから35人の作家の作品を選びました。90年代以降の日本の現代美術にみられる特徴 ー幼さ、かわいい、こどものような感性、マンガ、アニメ、オタク、サブカルチャー、内向的、物語性、ファンタジー、過剰さ、日常への視線、技術の習熟、細密描写、巧みな表現など、日本の現実や若者の心象風景とリンクした世代のアーティストたちが生み出してきた新たな世界を、多角的に読み解きます。
この美術展と図録で、ボクは多くのアーティストを知った。
それは高橋氏のネオテニー視点からのセレクトではあるが、先人の視点からモノを見ることは視野が広がる一番の方法だ。
この「ネオテニー・ジャパン」に行かなかったら、本当にたくさんのアーティストを見逃していたなぁ、とゾッとする。
図録では、それぞれの作家の作品を買った動機や経緯を高橋氏本人がコメントしているのだけど、コレクター的な陶酔や韜晦の裏側を読みながら作品と見比べていくと本当に面白い(これぞ家でゆっくり楽しめる図録の本懐!)
取り上げられている35人を、図録で取り上げられている順に書いていくと、
奈良美智
村上隆
会田誠
小沢剛
小林孝亘
須田悦弘
Mr.
村瀬恭子
山口晃
高嶺格
小川信治
小谷元彦
できやよい
伊藤存
束芋
西尾康之
三宅信太郎
天明屋尚
鴻池朋子
村山留里子
加藤泉
加藤美佳
工藤麻紀子
照屋勇賢
さわひらき
町田久美
秋山さやか
名和晃平
青山悟
佐伯洋江
池田光弘
千葉正也
池田学
丸山直文
三沢厚彦
2009年当時から有名だった奈良美智や村上隆、会田誠、山口晃、名和晃平などはもちろん素晴らしい。
それに加えて、当時まだボクが知らなかった鴻池朋子や池田学、小谷元彦、天明屋尚とか、本当に出会えて良かったなぁと思うし、他のアーティストたちも、個展のときとかに「あ、ネオテニーで取り上げられていた人!」とか思って観に行ったりする。
こうやってある視点から切り取って記録に残してくれるのは図録の醍醐味だなぁ。。。
ちなみに、原画で感動したもののポストカードなどは、いまでもデスクのコルクボードに貼ってあったりする。(右上の豚はNYCのバー「the spotted pig」のコースターで、この展示とは関係ない)
ちなみに、上のほうでも書いたけど、この図録、アマゾンでも買えます。
そういう意味では、図録というより書籍なのかもしれない。
最後に、図録の雰囲気を少々ご紹介して終わります。
この図録はこれからも何度も見返すものになると思うなぁ(内容的にも索引としても)。