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河野裕子『うたの歳時記』

 桜、晩夏、年の暮など、季節ごとに、短歌や俳句が紹介されている。その季節に読むのはもちろん、季節に先立って読んで準備したり、季節が過ぎた後に、振り返って読むことができる。
 季節ごとの歌を、念頭に置くことで、過ぎゆく時間に、奥行きができる。
 『霜月』には、二首ならべて、次のような歌が紹介されている。

坂の上に大寺ありて霖雨はそのあたりより降りはじめたり 齋藤史(『秋天瑠璃』)
時雨来るけはひ遥かなり焚き棄てし落ち葉の灰はかたまりぬべし 長塚節(『長塚節歌集』)

河野裕子『うたの歳時記』
※霖雨にルビ「ながあめ」

 十一月は、もう少し先だけど、楽しみになってしまう。秋のおわりの、スモーキーな雨。内面の暗さと外の景色の暗さが一致するせいか、落ち着く。