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目から鱗のハウツー営業⑲【私の人生を変えた上司の一言】

私は「営業という仕事の真の姿」をお伝えしたいと思い、このシリーズを続けています。
皆さん、こんにちは。
サトミ営業相談所の川端です。

お知らせ


弊所は8月6日から14日まで夏休みに入ります。
ですので、今年3月から始まったこのシリーズも今回が前半戦最後の記事になります。
前半戦最後という区切りに相応しい内容を検討したところ、これを読んでいる営業職の皆さんが考えさせられるような内容が良いのではないかと思いました。

営業職とはいかなるプロフェッショナルなのか?


そこで今回は、『営業職とはいかなるプロフェッショナルなのか?』ということについて、私の持論を述べたいと思います。
皆さん一人一人が【営業職にとって必要な素養とは一体何なのか?】を考えるきっかけになれば望外の喜びです。
勿論、この事については様々な意見があり、たった一つの正解などは存在しません。
ですから、この記事を読む際にも、一つの意見として受け止めていただき、皆さんそれぞれで考えていただくことをお勧めします。

伊藤所長との出会い


まず、このことを語る上で決して欠かすことができない方との出会い、そしてその方とのエピソードを紹介したいと思います。
 
まずは出会いからです。

私が20代後半でメーカー営業をしていた頃の話です。
私は営業所で最年少でありながら、数字は良く、今思えば少し調子に乗っていたと思います。
今から振り返ると当時はまだ営業という仕事をあまり理解していなかったのですが、結果がそれなりに出ていたので、その時はその時なりに営業という仕事を理解しているつもりだったと思います。
 
そんな時、出会ったのが伊藤所長です。
私が配属していた福井営業所の新所長として赴任してきたのです。
伊藤所長は大変穏やかな人で部下を叱るという事もほとんどありませんでした。
当時としては珍しく、部下にも丁寧に話す物腰の柔らかい人でした。
 
あまりに優しい人だったので、私は最初どこか『頼りがいのない上司だな』と思っていました。
 
これから紹介するエピソードの主役はこの伊藤所長です。
 
そしてこの事があって私は初めて「営業職はいかなるプロフェッショナルで、どんなことに秀でた存在であるべきなのか」「営業職にとって必要な素養は何なのか?」を考えるようになりました。
それくらい今から紹介する話は私の営業職人生に大きな影響を与えることになりました。
 
 

私の人生を変えた事件


ある時、私達福井営業所配属の営業マン数人が昼休憩時に話をしていました。
その時話題に上っていたのは、「営業職とは何のプロなのか?」「営業職とはどんなことに秀でたビジネスパーソンなのか?」ということでした。
 
川端「例えば、職人ならモノを作り上げるプロで、素人がとても作れないモノを作り上げますよね。
プロ野球選手であれば野球のプロで、我々素人ではとても投げられないようなボールを投げ、そしてそれを打ち返すことに卓越した技術を持っています。
そう考えると、我々営業マンは何のプロなんでしょうね?」
先輩営業マン「やっぱり他の職業より、お客さんと話したり、説得する機会が多いから、そういうことに秀でたプロだろ?
話が上手い、説得力がある、あと人の懐に入り込む、誰とでもあっという間に仲良くなれる、その場の空気を読む、そういうプロなんじゃない?」
川端「やっぱりそうですよね?」
そんな何気ない会話でした。
 
私達の結論が一つの流れに吸い込まれそうになったその時、事態は急変しました。
 
普段大人しい伊藤所長が珍しく、その話に割って入ってきたのです。
 
部下たちの浅はかな考えに我慢できなかったのかもしれません。

営業職は〇〇のプロフェッショナル!


「いやそうじゃないと思う。
営業マンは約束を守るプロなんだと僕は思う。
営業マンは他の誰より約束を守れるプロフェッショナルでないといけないんだ。」

静かで穏やかな口調でしたが、伊藤所長の激しい感情の動きを感じたのは後にも先にもあの時だけだったと思います。
でもその発言の意味を詳しく私たちに教えることはありませんでした。
『それぞれで考えよ』ということだったと思います。
 
 
あの時の衝撃は今も忘れることは出来ません。
自分の浅はかさを恥じるとともに、頭を激しく殴られたような気がしました。
勿論、その時は自分の考えがとにかく浅はかだったことが分かっただけで、その言葉の意味は分かりませんでした。
ですから、その後時間があればずっと「あれはどういう意味なんだろう?」と考えるようになりました。
すると、少しずつ自分なりの答えが見つかってきたような気がしました。


あれから15年・・・


そしてあの時から15年経った今、私は営業職として最も大切な行動規範として「相手と交わした約束を守ること」を挙げています。
そして、営業職のみならず、
【ビジネスパーソンとして最も基本的かつ大切なことは約束を守ることだ】
と主張しています。
 
 
営業という仕事を続けていると、色んな上司や他の営業職に出会います。
お客様が営業職の場合もありますので、社内外あらゆる営業職と話す機会に恵まれます。
中には素晴らしい技術や考えを持った人もいます。
色んな方の色んな言葉や考え方を本人から、或いは誰かから間接的に聞きました。
しかし、営業という仕事を語る上で、これほど端的にその本質を語った言葉を私は未だ知りません。
それほど、「営業マンは約束を守るプロなんだ」という言葉は私の心に突き刺さったのです。
 
実はその後私が転職した事もあって、伊藤所長と一緒に仕事をしたのはたった4か月間だけです。
 
たった4か月の付き合いですが、それほどこの言葉はその後の私に色濃く影響を与えてくれましたし、それを教えてくれた伊藤所長には今も感謝し、また尊敬しています。
 

私が辿り着いた答え


では何故そこまでインパクトを感じたのか、そして何故そのことを考えた結果、そのまま自分自身の仕事における根本として大切に持ち続けているのかをお話します。
 
確かに、営業職とは契約獲得という目的の為にお客様への説明を繰り返し、日々その技術を磨き続けています。
その結果として、その技術は他の職種の方よりも高いのかもしれません。
恐らく私や先輩がそうであったように、人に話す、或いは人を説得することのプロであると思っている人が多いはずです。
 
そして、その次に挙げられるのが、人当たりがいい、物腰が柔らかい、などどんなお客様が相手でも仲良くなれる柔軟性や人付き合いの上手さを挙げるのではないでしょうか?
このことは「営業職の適性(どんな人が営業職に向いているのか?)」という質問の回答にもよく表れていることだと思います。
 
しかし、伊藤所長はそのどちらでもなく、【約束を守ること】、ただこの一点のみを挙げました。

約束の履行は技術でなく、人間性の問題?


勿論これを読んでいる方も違和感を覚えたと思います。
『約束を守るかどうかなど営業職の人間性の問題であって、能力や技術の類ではないだろう。』
だから、
『営業職が約束を守るということに長けた、そういうプロだなんてなんか変だな』
と思ったはずです。
人によっては、『営業職にはこれぞと思えるような卓越した技術や能力なんかない(もしくは必要ない)ってこと?』と思った方もいると思います。
 
しかし、じっくりと考えてみてください。
契約獲得のために最低限必要なことは何でしょうか?
商品やサービスが便利であることも必要ですが、お客様から見て、その商品の窓口である営業職への最低限の信用が必要ではないでしょうか?
 
営業職は多かれ少なかれ、自社に有利な情報を多めにお客様に提供し、不利な情報を少なめに提供します。
お客様を騙すことなく、契約を獲得するためのギリギリの線がここにあります。
お客様もそれは十分に理解しているので、複数の会社の複数の営業職から日常的に意見や情報を収集し、最終的に何をどの会社からどれだけ買うかを決めます。
 
その中で、お客様はどの営業職の意見により耳を傾けるのでしょうか?
どの営業職もお客様から好かれよう、信頼を得ようとそれぞれに努力をしています。
その中から抜きんでて好かれる方法はなかなかイメージしづらいですよね?
 
では嫌われる営業職はいかがでしょうか?
つまり、このレースを勝ち抜く方法ではなく、脱落する方法です。

それは、自分が口にしたことすら実現できないことであり、
つまり、約束を守れない営業職です。
こうしたことは大げさでも何でもなく、営業職にその意図があったかどうかは別として、お客様にとってはウソをつかれること、騙されたこととそれほど違いません。
 
何故なら、お客様から一方的に依頼されたことが出来ないのでなく、営業職が自らの意志で宣言したことすら守れないという行為だからです。
ましてお客様が契約を交わすということは形やそのモノが異なるだけで、お客様の様々なモノをお預かりし、お客様が我々営業職に大なり小なり何かを依存するということに他なりません
 
自分の言ったことすら守れない営業職がお客様から預かったモノを守れるのか、そんな相手に依存しても良いのか?という問いになります
つまり、約束を守るというのはビジネスパーソンとして信頼されるための最低ラインなのではないでしょうか?
 

約束を守るくらい誰でも出来るのか?


『それにしても営業職が約束を守るプロというのは言い過ぎではないか?』
『約束を守るくらい、どの営業職も出来ることなんじゃないか?』
そう思われた方も多いと思います。
 
残念ながら、そうとも言えません。
お客様と交わした約束をほぼ100%守り続ける営業職の方が稀であると私も思います。
これは営業職に限らないと思いますが、仕事の現場でこの約束を守るという行為を取り続けることがいかに難しいか?
 
まして、営業職はもともと契約の意志がないお客様に「買ってください」と無理な依頼をするのが基本スタンスです。
放っておけば生まれないお買い物をいかに成立させるかという戦いをしています。
 
契約を獲得するため、お客様に好かれたり、喜んでもらうためにその場しのぎやその場の勢いで出来ないかもしれないことを口にすることをゼロにすることは非常に難しいことです。
 
「たぶん大丈夫だと思います」
「何とか頑張ってみます」
こんな言葉をお客様に言ったことはありませんか?
あなたがいくら断言していないつもりでも、お客様によっては何とかしてくれそうだと思うはずです。
実現を断言した訳ではなくとも、こうした言葉の後に
「やっぱりダメでした。」
「何とか頑張ってみたんですが、無理でした」
こんな営業職の結果報告を聞いて
お客様がどのように感じるかは想像できると思います。
 
当初は実現できるはずだったのが会社の方針転換や様々な事情や状況の変化で出来なくなった、こんなこともいくらでもあります。
 
でも、そんな事情はお客様には関係ありません。
元々そんなことをお客様が強要した訳ではないのですから。
一方で、これほどお客様の信頼を損ねる行為もありません。
何故なら、いかなる事情であれ、営業職が自分で勝手に引いた最低ラインを下回った瞬間だからです。
お客様が要求した訳でなく、営業職が自分で勝手に宣言したことが実現できなかった、約束を守れなかったとはそういう事なのです。
 
一方で、このような事態を全く作らない営業職も確かにいます。
それは自らが言ったことの実現に最善を尽くす一方で、出来そうにない約束を最初から交わさないからで
す。
 
我々営業職は当時の私や先輩がそうであったように、お客様の懐に素早く入り込み、そして卓越した話術やプレゼンでお客様を契約に誘導するのが営業職であり、それらの技術が高いのがプロの営業職であると思い込んでいます。
 
だからこそ、「話が上手い、説得力があるプレゼンが出来る、人の懐に入り込む、その場の空気を読む、そういうことの秀でた職業、そういうプロフェッショナルだ」などと考えているのです。
 
しかし、こうした技術が高くても数字がパッとしない営業職がいるのも、こうした技術がお世辞にも高いとは言えない営業職の数字がいい場合があるのも事実です。
こうした事実は営業職が契約獲得を目的としている以上、プロ野球選手にとっての投げる、打つ、捕るの卓越した技術に該当するモノが、営業職にとっての話す技術ではないことを物語っているのではないでしょうか?

営業という仕事の真の姿


我々営業職は、自社の商品や製品やサービスという自分ではないモノを取扱っています。
お客様のことを100%は知り得ない我々営業職は、本当は自社商品がどれくらいお客様にとってメリットがあるモノかなどは分からないはずです。
勿論お客様も本当は使ってみないと分からないはずです。
だからこそ、一定の割合で購入後のクレームやトラブルが発生するのです。
 
当たり前に交わされている契約も、実はそうした危うい均衡の上に成り立っています。

そう考えると、我々営業職に最も必要な要素は、お客様にとってそのように危うい均衡の上に共に立つに値する人間なのか、そしてひとたび均衡が崩れた時に最大限誠実に対応してくれる人間なのかではないでしょうか?
それが「まずは人間として信用できること」であり、その評価を最も失うのは約束さえも守れない事であり、逆に最もその評価を確かなモノにするのはいついかなる状況であっても約束を守り続けることなのではないでしょうか?
 
営業職が約束を守り続けることは苦しく、難しいことである。
いやそれはあらゆるビジネスパーソンにとっても、そうでしょう。

しかし、こちらが能動的に積極的に行動し、その事でもともと求めてもいないお客様に買ってもらうという奇跡を起こすのが営業職の生業である以上、それが他の職種の方よりも出来るはずであり、出来なければならないんだという意味だったのではないか。
それが
「営業マンは約束を守るプロなんだと僕は思う。
営業マンは他の誰より約束を守れるプロフェッショナルでないといけないんだ。」という強く短い言葉に込められた本当の意味だったのではないか

 
伊藤所長はそのことを私たちに伝えたかったのではないかと今は思います。
 
そして、本当はそのことを意識することなく、淡々と当然のように実行できることこそ、営業という仕事の真の姿なのではないでしょうか?
 

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