「夢」は逃げない。逃げるのはいつも自分だ
これは起業家、高橋歩さんの言葉だけど、ここでの「夢」が指しているものは、高橋さんと、私ではちょっと違う。
と言うのも、私は夜みるほうの「夢」について、この言葉を伝えたいのです。
さて、お正月といえば「初夢」。
そこで昨年1月2日に書いた記事を再編集のうえお届けします。
「夢」は、いつも私たちのそばで、メッセージを送り続けています。
よりよく生きるためのヒントや
人生を充実させるための手がかり、
「本当はこう生きたい」とセルフが望む姿など。
夢はいつでもあなたに寄り添っている。
たとえ、あなたが、自分の人生に諦めそうな時でも。
ずっと、より「あなたらしく」あろうとしている。
夢は、あなたから逃げません。
夜見る夢には、そんな側面があるのです。
だけど、夢は不思議すぎて、メッセージを読み解くためには、ちょっとだけコツが必要です。
そこで、今日は特にビジネスリーダー向けに
「夢との付き合い方」
をまとめます。
「夢」とは、そもそも何なのか
「どうして人は夢を見るのか」
その理由は、実はまだよくわかっていません。
「記憶を整理するため」という説もあれば、
「ストレスによるもの」「眠りが浅いから見るもの」なんて説もあります。
なお、歴史的には、夢は様々な場面で活用されてきました。
たとえば、
こんな記録も残っているそうです。
今の常識で考えると眉唾感もあるかもしれません。
でも、これは一つの真実。
伝統として、人が、夢から学び、たくさん智慧を得てきたのは確かなのでしょう。
じゃあ、どうしてビジネスリーダーをはじめ、成長・発達を望む方々に「夢を探究すること」をお勧めするのか。
その理由は、ユング心理学の夢の捉え方にあります。
人生の「偏り」を調整するために「夢」を見る
「全体性を生きること」を阻むもの
ユング心理学では「夢」を「無意識の補償作用」と捉えています。
日常的な思考・感情などを束ねる顕在的な意識の奥には広大な無意識が広がっている……という話は多くの方がご存知のことと思います。
そして、日常的に認識できる顕在意識は、意識全体のほんの数パーセントだとも言われています。
「全体性(ホールネス)を生きること」の大切さを、いろんなところで聞くようになりました。でも、私たちは自分の意識の90パーセント以上について、気にも留めることなく(文字通り「無意識」として)生きています。
「生き方」の偏りを調整するために「夢」がある
本来もっているもののうち、9割以上が見えていないのだとすると、どんなことが起きるでしょうか。
全体の数パーセントしか見えていないなかでの意思決定は、誤って当然です。どうしたって「生き方」に偏りが出てきます。
特に、社会的な役割(役職、職種、父/母など)は、意思決定の誤りや、生き方の偏りへとつながりやすいものです。
たとえば、今でこそいろんなタイプのリーダーシップが認められるようになりました。
とはいえ、今でも「リーダー」という役割に「強い信念をもったブレない人」「多くの人々をまとめて、目標に邁進できる人」「どんな逆境にあっても弱音を吐かない人」などのイメージをもつ方は多いものです。
とはいえ、普段はどれだけブレない人だとしても、うまくいかないことに直面し続けると、自分の信念を疑いたくなることがあるのでは?
信じていた人に裏切られたり、なかなか結果が出なかったりする時は、弱音を吐いたり、逃げ出したくなるのが、人間として、ある意味では正常な反応なのでは?
だけど、ここで「リーダー」という役割(に対して自他が抱くイメージ)を全うしようとすると、どうなるでしょうか?
おそらく、人として当然の「傷つきやすさ」や「繊細さ」「弱さ」を押し殺して、強く、ブレずに人々を引っ張っていこうとすると思います。
このように、本来は持っているものを「なかったこと」として扱うと、「歪み」が生まれてきます。
身体を例に考えてみてください。
姿勢の歪みは、やがて積み重なって骨格の歪みにつながっていきます。そして、それが筋肉の緊張や凝り、痛みを生んでいく。
もし、これを同じことが、人生全体で起きているとしたら、どうでしょうか? 自分の人生自体が、かなり偏ったものとなり、その結果として、さまざまな「痛み」「葛藤」に繋がっている可能性が高いわけです。
……とこんな感じで現れてくる人生の「偏り」を調整するために「夢」が作用している。
このように考えるのが、ユング心理学が考える「夢の補償作用」説です。
私たちは「夢」をみることで人生の「歪み」「偏り」を何とかしようと、より全体性を生きられるようにしようとしている。
これは、人が生まれながらに備えもった智慧のようなものです。
そうやって考えると、夢の捉え方が変わってきませんか?
「夢」は私たちにものすごく大切なメッセージを送ろうとしている。
このように考えると、摩訶不思議なものが身近に感じられるかもしれません。
*詳しく知りたい方はユング心理学の入門書をご覧ください
夢から得られるもの① 「シャドウ」への気づき
「まだ生きられていない自分」の一面
さて、ここからが本題です。
「夢」と向き合うことで、一体何が得られるのか。
それをもう少し具体的に考えていきます。
端的にいえば、夢と向き合うことは「本来もっているのに、まだ生きられていない自分の一面」に気づくきっかけになります。そして「まだ生きられていない自分の一面」の代表が「シャドウ(影)」です。
シャドウ(影)とは、心理学の言葉で、意識から排除され無意識化された人格的な側面のこと。過去のさまざまな出来事がきっかけで、無意識のなかに積み重なった心の傷、癒される必要のある記憶・思い出・感情などなど……
間違いなく、この文章を書いている私にも、読んでいるみなさま方にもみんなシャドウ(影)はあります。
シャドウが「ある」ことは、悪いことではありません。
シャドウがあるのが、むしろ自然なことです。
それに何より、私たちが暮らすのは、ふつうに生きているだけで傷だらけになってしまうようなハードな世界。シャドウは、ハードモードがデフォルトの世界を何とか生き抜いてきた証、名誉の傷のようにさえ感じてしまうのです。
シャドウは、言葉・想いに力を与える
「シャドウ」と言うと、『ティール組織』の著者、フレデリック・ラルーさんのことを思い出します。
思い出すのは、2019年の来日の際、彼のスピーチ。
彼のメッセージは「名誉の傷」(シャドウ)に根差したものでした。
そんなに長いものではないので、ぜひご覧になってみてください。
私は、彼の話を聞いたとき「痛み」「悲しみ」「苦しみ」に直に触れた感覚さえありました。
とはいえ、心の傷をそのまま見せつけられたわけではありません。
彼のスピーチには、「痛み」「悲しみ」「苦しみ」を感じるきっかけになった現実と向き合い、必死に抗おうと最善を尽くしてきた人生が丸ごと詰まっているように感じられたのです。
そういうメッセージって熱量、インパクトがまるで違います。
言葉(コンテンツ)として理解するものというよりも、心に、身体に直接届くような素晴らしいスピーチで、今でも深く印象に残っています。
大きなムーブメントは、単なる美辞麗句からは生まれません。
ムーブメントを動かすものは、その人の奥底にある、深く根差した願いです。
そうした「願い」って、悩んだり、苦しんだり、時には悲しみに打ちひしがられたり、涙を流したりといった人の生き様そのもの。そして、「生き様」はシャドウ(影)と共にあるものです。
悩み、傷つき、苦しむなかで生まれた傷(シャドウ)が、癒されて、消化されて、マネジメントできるようになったとき、大きなインパクトを生む仕事へと繋がっていくのでしょう。
だからこそ、影響力を発揮していきたいと願うビジネスリーダーの皆さんには、シャドウを探究して欲しいのです。
自分の人生を丸ごと使った仕事(たとえば、自分の代表作とも言えるような作品(本やスピーチ等も含む)を遺したり、人生を賭けて成し遂げたいような事業を立ち上げたりすること)に取り組みたいのであれば、シャドウと向き合い、それさえも力に変えてみてはいかがでしょうか?
一見、回り道のように見えるかもしれません。
でも、必ずその先には、信じられないような力が生まれるはずです。
そして、自分の力でシャドウ(影)と向き合う方法として「夢」はたくさんのヒントを与えてくれます。
「夢」は無意識の補償作用としてあらわれてくるもの。
つまり「夢に向き合う」≒「シャドウと向き合う」ことなのです。
なお、全人格的な成長・発達のガイドを示すINTEGRAL LIFE PRACTICEでも「シャドウ」への取り組みとして「夢の記録」を勧めています。
個人的には、まずは自分で「夢を記録する」ことから始めて、徐々に専門家の力を借りられるといいと思います。
ただ、どんな方法であっても「夢と向き合う」と決め、行動に移せるの他ならぬあなた自身。ぜひ試してみてください。
夢から得られるもの② 未来の可能性
夢から得られるものの2つめ、それは「未来の可能性」です。
これは私の経験則ですが、
「夢は、現実の数歩先をいっているな」
と、夢の記録を続けるなかで気づきました。
たとえば、私は2022年6月に当時の所属先を退職しました。
でも、実は、退職や独立・起業を暗示する夢を2020年の年末頃からくり返し見ていました。あと、妹の妊娠がわかったとき「妹の出産」を連想するような夢を見たことがあります。
え? 怪しい?
たしかにそうかもしれません。
でも、無意識の原理に立ち返ると、こうした出来事も一理あるように思えてならないのです。
「無意識の原理」については、以下から引用します。
というわけで紹介されている「無意識」の分類は、次の5つ。
未来の可能性は、ここでいう①⑤に該当します。
無意識全体のうち、これらの占める割合がどれだけかはわかりません。
だけど、無意識(≒夢)を探ることは、今の私たちの枠を超えた「可能性」を探ることと「イコール(=)」ではないでしょうか。
というわけで、まだ生きられていない可能性に気づき、その潜在的な可能性を実際に生きていくために、より「自分らしさ」を発揮して、自分のやるべきことに邁進するためにも、「夢」はたくさんのヒントをくれるのではないかと思うわけです。
方法論:夢からヒントを得るには?
これらの理由から、より全体性を生き、自分自身を成長・発達させて生きたい方、自分の人生を生ききりたい方には「夢を観察すること」をお勧めします。
最後に、私がやってみてよかったと感じる探究方法をご紹介します。
「夢」の記録をつけてみる
いつ、どのタイミングで、どんな夢を見たのかを記録するという、とてもシンプルな方法。
「夢を記録しよう」と決めて、夢に意識を向けることで、夢を見始めるということも多いようなので「普段あんまり夢を見ない……」という方は、まずこの辺りから始めると良いかもしれません。
私は、夢の記録を始めて5年を超えました。毎日事細かに記録しているわけではなくて、印象深かったものや、キーワードを残しています。すると、よく出てくるモチーフ、キーワードなど、自分自身の傾向性が見えてくるのでなかなか興味深いです。
夢の記録用のアプリもあるので、ご参考までに。
私はこれを使っています。
キーワード検索ができるので、自分の夢の「傾向」をつかめるのがおもしろいです(「船、神社がやたらと出てくる」など)
ユング心理学/プロセスワークを学ぶ
いざ「夢分析」などのキーワードで検索をかけると、いろんな情報があって玉石混交の状態。残念ながら、夢からヒントを得るための技術は、まだ十分に整理されていません。
もちろん「夢占い」「夢分析」のサイトの情報も参考になります。
ただ、実際に夢を読み解いてみると、もっともっと奥深い気づきがあるので、サイトの情報で止まってしまうのは勿体無い!
夢の奥深さに出会うための知識・情報を提供元として、私がオススメしたいのは「ユング心理学」と「プロセスワーク」。
本だとこのあたり。
セミナーだとこのあたり。
プロセスワーカー、プロセスワークプラクティショナーのセッションを受けるのもお勧めです。
*ちなみに、私もプロセスワーク・プラクティショナーです。多少ならばセッションも受け付けられるので、ご関心がありましたら下記よりお問い合わせください。
夢分析サロン
「夢の観察を継続していこう」と心に決めた方には、こちらがオススメです。
認定プロセスワーカーの松村憲さんが主宰するオンラインコミュニティ。
月に一度のセミナー&コミュニティメンバー間の日常的なやりとりを通して、より深く、じっくり夢を向き合うことができるはず。
おわりに
「夢」は、いつも私たちにメッセージを送り続けている。
私たちが、それを受け取ろうが、受けとらまいが、ずっと、ずっと届けようとしている。
たとえ、自分が「自分の人生」に絶望した時も、
夢は決して、あなたの人生を諦めていないのです。
同じような夢をくり返し見ているとき、
妙に印象的な夢を見たときは、
夢からのメッセージに耳を傾けるべきタイミングです。
そして「初夢」は不思議なもので、
その年のテーマがおもしろいほどに現れています。
私は、昨夜、早速「初夢」を見ました。
昨年の初夢の続きのような摩訶不思議な夢で、そこには逃げても逃げても逃げきれないほどの「人生のテーマ」「宿命」「指名」を感じずにはいられませんでした。
ああ、こうきたか……と思いがけず早起きしてしまったほどです。
さて、あなたの初夢はどんなものでしたか?
そこにはどんなメッセージが隠れていると思いますか? そこから何を受け取り、どんなふうに取り入れていきますか?
夢と対話する方が増えることが、私にとっての夢です。
ぜひ「夢」との対話を楽しんでくださいね。