シナリオ/脚本(姑と嫁)
以前シナリオのスクールで書いたシナリオを載せたいと思います。
姑(息子ラブ)と嫁(バリキャリ)が対立する話です。
ストレス溜まったときに野菜を切るとなんだかスカッとしますよね。
主人公の夏美はそうやってストレス発散してます。
【登場人物】
竹井夏美(32)会社員
竹井時子(65)夏美の姑
竹井祐介(35)夏美の夫
九条杏里(32)夏美の同僚
〇竹井家・全景(朝)
同じ形の二階建ての一軒家が立ち並ぶ新興住宅地。
〇同・玄関・外(朝)
門扉に「竹井祐介・夏美」の表札。
〇同・寝室(朝)
カーテンの隙間から差し込む日差しに目をこすり、
ベッドの中で伸びをする竹井夏美(32)。
置時計は「6時」を指している。
寝室内の物音に気付き、音のする方に静かに体を傾ける夏美。
壁側を向き隣で寝ている竹井祐介(35)の頬が動いている。
祐介の隣で立膝をつく竹井時子(65)がお粥に息を吹きかけて冷まし、
祐介の口元に運んでいる。
目を見開き動けないでいる夏美に気付く時子。
時子「ちょっと、あんた!」
飛び起きる夏美。
夏美「お義母さん、どうされたんですか」
時子「祐ちゃんが具合悪いってのに看病もしないで、妻失格よ」
祐介の頭を撫でる時子。
静かに目を閉じる祐介を睨む夏美。
夏美「すみません、軽い風邪ですぐ治るという診断でしたので」
時子「祐ちゃんは軽い風邪から肺炎になったことがあるの。知らないの?」
夏美「はい・・・」
ため息をつき呆れた顔をする時子。
時子「もういいわ。寝癖直しなさいよ、みっともない」
祐介を一瞥し、寝室を出る夏美。
祐介が起き上がり、あくびをする。
祐介「ママ、ありがとう。僕は、大丈夫だよ」
大げさに咳をする祐介。
慌てて背中をさすり、寝室のドアを睨む時子。
〇同・キッチン(朝)
スーツを纏い、メイクも完璧な夏美。
エプロンを掛け冷蔵庫からキャベツを取り出しまな板の上に置く。
一呼吸置き、端からキャベツを切る。
夏美「あのババア、勝手に人の家に入ってくるんじゃねえ」
千切りのスピードが上がる。
夏美「ただの風邪だろ、マザコン野郎が」
冷蔵庫から長ネギを取り出し大きな音を立ててみじん切りにしていく。
肩を叩かれて驚き包丁を手にしたまま振り返る夏美。
怯えた顔をした時子が両手を挙げる。
時子「さっきから夏美さんのこと呼んでたのよ。包丁置いてちょうだい」
夏美「あぁ、すみません」
みじん切りの野菜を不審そうに見る時子。
野菜を皿に盛る夏美。
夏美「サラダです。いかがですか?」
夏美の格好をじろじろと見る時子。
時子「あなたどこ行くの?」
不思議そうな顔の夏美。
夏美「会社ですよ」
時子の眉間に皴が寄り顔が赤くなる。
時子「祐ちゃんが体調不良なのに会社?夫と仕事どっちが大切なのよ」
エプロンの端をぎゅっと握る夏美。
夏美「比べられません」
時子「結婚したら家庭に入るべきでしょう。
赤ちゃんも産まないで何やってるんだか」
腕時計を見る夏美。
夏美「今日は会議があって会社休めないんです。私よりもお義母さんの
看病で祐介さんはすぐ元気になると思います」
鞄を持ち逃げるように立ち去る夏美。
〇オフィス・全景
50階建てのガラス張りのオフィスビル。
〇同・会議室・中
多くの社員の前でプロジェクターに映した資料の説明をする夏美。
夏美「業務の更なる向上を見据え・・・」
無駄のない言動で堂々としている夏美。
頷きながら話を聞く社員たち。
〇同・社員食堂・中
高層階の窓側の席でぼんやり外を眺めている夏美。
向かいの席に九条杏里(32)が勢いよく座る。
杏里「ごめんごめん、ミーティング長引いちゃって。
あれ?もしやそれは・・・」
タッパーに敷き詰められたみじん切りの野菜を食べている夏美。
夏美「そう、いつものやつ。今回は旦那の看病。
理由付けては昼夜問わず勝手に忍び込んで忍者かよ」
同情した眼差しで夏美を見る杏里。
杏里「祐介さんカッコいいのになあ」
夏美「母親思いの良い人だと思ったんだよね。騙された。超マザコン」
杏里「不満なこと全部言っちゃいなよ、仕事だと思って。
夏美、優秀なコンサルじゃん」
夏美「家庭のコンサルタントかぁ」
笑顔で頷く杏里。
〇通り(夕)
両手にスーパーの袋を下げ、ゆっくりと歩く夏美。
ため息をつく。
〇竹井家・リビング・中(夜)
明かりは点いているが静まり返った部屋。
辺りを見回す夏美。
夏美の背後のカーテンが動き、カーテン裏から白い布を持った
時子が出てくる。
時子「思った通り。そんな機械じゃ細かいゴミは取れないのね」
時子と夏美の間を丸いルンバが通る。
時子「丸かったら四隅のゴミは取れじゃないない」
黒く汚れた白い布を夏美に渡す。
驚いた顔で布を広げる夏美。
布にはヒマワリの凹凸の模様。
時子を睨む夏美。
夏美「お義母さん、これ私のハンカチですよ。
クローゼットの中から出してきたんですか?」
唇を舐め、ニヤリと笑う時子。
時子「夏美さん、外見に似合わず地味な下着つけてるのね」
顔を赤くして、時子に詰め寄る夏美。
夏美「一体私の何が不満なんですか?はっきり言ってくださいよ」
腕を組み、夏美を睨む時子。
時子「全部よ、全部。息子に相応しくないの。
やっぱりあの子は私が決めた相手と結婚してもらうべきだったわ」
寝巻姿の祐介がリビングに入ってくる。
祐介「夏美お帰り。風邪だいぶ良くなったからご飯作るね」
祐介の背中をさする時子。
時子「優しいわね。でも寝てなさい」
祐介が棚の上に飾られた絵を裏返す。
『家事分担表』と書かれた紙が貼られている。
『金曜・夜ご飯・祐介』の文字を指さす祐介。
舌打ちする夏美。
夏美を怒り顔で見る時子。
時子「何よこれ、家事は妻の役目でしょうが。
楽しようとしてるんじゃないわよ」
祐介「夏美も働いてるから分担してるんだよ」
優しい目で祐介を見る時子。
時子「本当祐ちゃんは優しい子。
妻はね、夫に尽くすことが仕事なのよ」
ボサボサの頭を掻く祐介。
祐介「そうなんだ、まだ結婚一年目だから
ママに色々教えてもらわないと。ね?」
祐介が夏美の肩に手を置く。
祐介「ママは家事が得意なんだ。夏美は今まで仕事ばかりだったから
今度は妻の勉強をしなくちゃね」
祐介に向かって拍手をする時子。
時子「この短時間にすっかり夫らしくなちゃって。
さすがママの子だわ」
両手でテーブルを思いっきり叩く夏美。
スーパーの袋を持ち上げる。
夏美「夜ご飯は私が作ります」
時子が袋を夏美から奪う。
時子「ダメダメ、あんたの料理サラダしか食べたことないんだもの。
祐ちゃんの栄養が」
力強く時子から袋を奪う夏美。
夏美「ここは私の家なので」
大きな足音を立てリビングから出る夏美。
夏美の後をつける時子。
〇同・キッチン(夜)
袋からにんじんを取り出しみじん切りにする夏美。
夏美の後ろから覗き込む時子。
時子「あんたみじん切り好きね」
にんじんを切るスピードが速くなる。
夏美「夫に尽くすのが妻の仕事ならお義父さんのところへ
帰らないと説得力ないですよ」
むすっとした顔をする時子。
時子「料理中は口を開けないの。汚いわ」
きゅうりを袋に入れ麺棒で思いっきり叩く夏美。
後ずさりする時子。
時子「ちょっと何やってんのよ」
大きく振りかぶって、叩く力を強め、
夏美「たたききゅうりですよ」
呆れた顔をする時子。
夏美「私はコンサルタントです。戦略立案、業務改善、組織体制、
家庭にも応用してみようと思います」
時子「難しい言葉並べて、嫌だわぁ」
夏美「働いたことのないお義母さんには少し難しいですかね。
すみません」
怒りで震える時子。
時子にみじん切りの野菜が入った皿を突き付ける夏美。
夏美「サラダです。遠慮はいりません」
通りかかったルンバの上に片足を置き、
片手で前髪をかき上げながら時子を睨む夏美。
~おわり~