人に嫌われてもいいという話
昔話をしようと思う。
菓子職人に憧れた私は、
縁があってカフェで働くことになった。
全て1から作るのは大変だったけど、
当時の私は、やる気に満ち溢れていた。
そこの厨房は、基本的にデザート1人。
食事系を1人と言う人数で、現場を回さなければいけない。
1ヶ月先輩に教わったら、1人で任されるというので。
結構大変だけど、作るのが好きな人なら、 やりがいがある場所だった。
学校も、そうだけど。
職場も、なんとなく合わないひとが1人くらいは、いたりする。
教えてくれる先輩の1人が、なんとなく苦手で。
その人も私に対しては、必要最低限しか話さない。
とはいえ2人で厨房を回さないといけないので、
ある程度のチームワークは、必要だと思い。
質問したりするが、そっけなくされる。
それだけなら、まだいいけど。
朝、来て挨拶するも毎日無視される。
相手が先輩だし、小心者だから言えなかったが。
来る日も来る日も、挨拶してもスルーされた。
『おいぃぃぃ!
挨拶は社会人の基本だろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!
仕事をする場だし、私が気に入らないのかもしれんが。
子供じゃないんだから返事くらいしろやぁぁぁぁ…肩パンかますぞ?あん?』と。
心の中のヤンキーが沸々と沸きたっていた。 結局そんな事は、できなかったけど。
その人以外は、優しかったし。
やりたい仕事だから、続けられた。
私が新人で、できることが遅いからかもしれない。
毎日、頑張ってたら少しずつ、認めてもらえるかも?
私に嫌われる何かがあるかもしれないからと、
毎日どんなにスルーされようと挨拶は、続けて。
少しでも早く、戦力になれるように。
自分なりに早く、正確に、作業を回せるように 厨房で必死になっていた。
半年以上過ぎた時に、右手に違和感を覚えた。 違和感を覚えつつ、作業を続けてたら痛みが出てきた。
無理な手首や腕の使い方をしてたのか、
腱鞘炎になっていた。
店長に相談して『本当に、申し訳ないけれど。
自分も作業する時に、気をつけますが。
手首が痛むので、力仕事が大変な時は協力してもらうこともあるかもしれない』 と先輩達に、お願いをした。
病院に通って注射をしてもらったり、
痛み止めの塗り薬を塗って、 サポーターを、はめながら仕事を続けた。
が、例の挨拶すらスルーされる先輩と組む時は。
しんどくて助けて欲しくても、どうしても言えない自分がいた。
その先輩と組む時が多かったから、 自分でも相手とコミュニケーションを取ろうと 試みながら、仕事を続けていたが。
知らず知らず、無理していたのか、
右手首の痛みが酷くなっていき。
2回目の注射を追加してもらった。
店長に、また相談する事にした。
『どうしてそんなに酷くなるまで無理するの?
助けて貰えばいいでしょう?』
言葉が詰まる。
『助けてもらいたいけど……。
どうして、毎日挨拶しても無視される人に、
助けてって言えるでしょうか?
私も仕事してる以上、相手と少しでもコミュニケーション取ろうとはしてるんです。 店長も知ってると思うけど。
でも〇〇さん、それすらもスルーするじゃないですか?
そんな相手に、どうすればいいんですか?』
もう泣きそうだった。
店長も言葉を詰まらせた。 『……わかった。
ただあなたが、何も言わないだけかと思ってた。
〇〇君の態度も気付いてたけど、あの子も、ああいう子だから…。
とにかく、無理させてごめん。
今後の事は、体の様子を見ながら考えよう』 と言われた。
色々考えながら働き続けたけど、
3回目の注射を打っても痛みは、あまり改善せず。
最後の方は、ドアノブを回したり、
ブラウスのボタンをはめるのも困難になっていた。
好きだった仕事が。
お菓子を作るという事が。
嫌いになりそうだった。
好きを嫌いになりたくなくて、
私は、一年ちょっとで、その職場を辞めた。
根性なしだなあと自分で思ったけど、 その時の自分に、それ以上は頑張れなかった。
反面教師じゃないけど。
苦手な人でも職場の人には、
今でもコミュニケーションは、
ちゃんととっている。
相手が困った時に、何かを聞けなかったり
助けてと言えないような、そんな職場にしたくないからだ。
月日が経って私は、酔っ払って思い出したついでに。
当時付き合っていた恋人に、 ぼんやりと、この話をした。
彼は、こう言った。
『人に嫌われるのは、当たり前なんだよ』
頭を殴られたようだった。
私は、人の目を気にしたり。
あまり嫌われたくないと、振る舞ってきた人生だったから。
咄嗟に言われた彼の言葉を、上手く飲み込めなかった。
『2:6:2の法則って言ってね。
自分と合う人は、この世の2割で。
逆に2割は、自分とは合わなくて。
あとの6割は合ったり、合わなかったり人によるかな。
だから、どんな人格者でも、人気者でも。
2割の人は合わないし、嫌われたりもするよ。
人に気を遣いすぎだよ。
自分のことを嫌いな人にまで、気を遣って わざわざ、傷つかなくていいんだ』と言われた。
大切な人に嫌われたのなら、ともかく。
話しても分かり合えない人は沢山いる。
"そんな人達には『嫌われてもいいんだ』"
そう思ったら、時を超えて心が軽くなった気がした。
嫌われる事を恐れるあまり、
そんな事にも、気づけなかった。
本当に傷つくのは、自分が好きな人達に嫌われた時だけで、充分だ。
その事に気づけて良かったという話。
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