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自分の中の読者が読んだ「はじめての小説」ができるまで。
ホリミヤというアニメを相変わらず見ている。
個人的に空気が好きで、男の子と女の子の関係性でのみ構築された青春作品で、大きなストーリーラインはない。
男の子も女の子も悩むけれど、「君に届け」の後半のような地方の高校生特有の将来に対する不安や、恋人になった後の大きな気持ちのすれ違いはホリミヤにはない。
からこそ、永遠に続くような楽園感がずっとベースにはあるのだけれど、第十話に脇役の女の子がフォーカスされ、告白する前にフラれてしまう。
それを知った、一人の男の子が「誰も悪くないから辛いんだな」と思う。
これがホリミヤの中核に据えられているからこそ、楽園感が醸し出されていたんだと気づく。
と、同時に楽園ゆえの辛さは確実に存在している。
太宰治が「弱虫は、幸福をさえおそれるものです。綿で怪我するんです。幸福に傷つけられる事もあるんです」と書いていたけれど、それに近いものがホリミヤにはある。
肝はホリミヤの登場人物はなぜ「弱虫」になったか、なのだろうけれど。
アニメはもう十話まできたので、どういう終わり方をするのか、今から楽しみだ。
あと、ホリミヤの空気がアニメ化できるなら、水谷フーカの「14歳の恋」もアニメ化できるんじゃないだろうか。
密かにホリミヤに続く作品にも期待している。
では、本日のエッセイです。
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昔、文芸誌の群像で「はじめての小説」という特集が組まれていました。
高橋源一郎と角田光代と本谷有希子が「〈はじめての小説〉ができるまで」という鼎談をしていました。
そこで本谷有希子が「みなさんは小説を書くときにどのようにテーマを選ばれるんですか」と質問をしています。
これに対して、高橋源一郎の回答が面白かったので、一つ紹介させてください。
高橋 (小説を書く時のテーマは)自分が読者として読みたいものかな。はじめて「夏の最後の砦」を書いたときにひどい作品だと思ったのは、自分が書いているのに読んでいない感覚だったんです。書くことに必死で読み返していないというか、読み返したのに記憶の中に消えてしまっていた。だから、自分の中の読者に聞いてみるんです。
高橋源一郎の言う「自分の中の読者」は「ちょっと批評家みたいな、僕よりまともな読者」なんだそうです。
僕はこの「自分の中の読者」を「ちょっと批評家みたい」にするために、エッセイをせっせと書いていた節がはあります。
まだ未熟で批評家みたいな読者には程遠いですが。
そのような訳で、今回は「はじめての小説」について聞いてみたいと思います。
僕のはじめて書いた小説のようなものは、村上春樹のノルウェイの森の結末に納得ができず、ハッピーエンドの「ノルウェイの森」を書こうとしたものでした。
それから小説を学ぶ学校に入り、プロットを作ったり、長編小説、短編と書いていきましたが、全て「自分が書いているのに読んでいない感覚」でした。
そんな中で、「自分の中の読者」が顔を出して、「へぇ、ええやん」と言ってきた作品がありました。
学校を卒業する間際に書いた掌編「煙がただよう空に」という作品です。
白状すると、これもノルウェイの森でした。
ワタナベトオルと緑がはじめてキスをした時、緑の家のすぐ近所で火事があって、それを見物して、なんとなくキスをします。
その情景を想像する度に、立ち昇る煙はどのように空へと溶けて行ったのだろうと考えていて、それを書こうとしました。
内容は、病院の屋上で煙草を吸って不貞腐れている女子高生のもとにスーツ姿の男性が訪ねてくる、というものです。
冒頭は女子高生の独り言で
「消えてなくなりたいな」
でした。
当時の僕自身が消えてなくなりたかったのか、記憶にはありませんが、常に憂鬱だったことは覚えています。
あと、やたら煙草の描写が多く、最後に煙草同士のキス、シガーキスをするシーンがあります。これは「ノルウェイの森」のワタナベトオルと緑のキスシーンを反復させたかったんでしょうね。
そう考えると昔の僕は本当に如何に「ノルウェイの森」的なものを、「ノルウェイの森」と分からず書くか、ということしか頭になかったのだと思います。
十代の終わりに入った小説を学ぶ学校で村上春樹が好きと公言したところ、「村上春樹は絶対にやめろ」と先生やらクラスメイトやらに総スカンを喰らっていたので、その反動もあったのでしょう。
いろいろ懐かしいです。
こちらを読んでくださっている方の「はじめての小説」はどんな作品でしたか? 良かったら、教えてください。
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