ドキドキ美容院
おとつい、美容院に行って来ました。
いつも自分で切ることが多いのですが、私の手元には、カット無料券という、すんばらしいものがありました。それは、3つスタンプを押してもらうと、一回カットが無料になるというお得な券でした。
最初のスタンプの日付は、平成21年。そして最後のスタンプは、令和2年。私がスタンプを集めている間に、時代が変わっていました。そんな、私が11年かけて集めたスタンプを、いよいよ使う時が来たのです。
私は意を決して、美容院に予約の電話をしました。けれど、しゃべりかけた相手は、自動音声でした。定休日でした。
こんなことは、よくあることです。数日後、かけ直しました。
無事、予約をし終わりました。
けれど、このカードをどのタイミングで出したら良いのか、私は悩みました。お会計の時に出せば良いような気もしますが、それだと後出しみたいでずるい気もします。なので、最初に出そうと心に決めました。
予約の時間までに仮眠を取り、準備万端でお店に向かいました。お店に入ると、真っ先に受付の人に、カードを渡しました。「そちらでお待ちください」と言われたので、私はソファに座りました。
しかしこの時、私は重大なミスをしたことに気づきました。カードを渡すことに必死で、「四時に予約した柿本です」と、言うのを忘れていたのです。
これだと、私は、名乗りもせずいきなりやってきて、無料で、髪を切ってもらおうとしている傍若無人な人物になってしまいます。
カードに名前が書いてあるし、大丈夫かなと思ったのですが、私は心配になってきました。なかなか美容師さんも来ません。時刻は四時を過ぎています。今からでも、名乗った方が良いんだろうか……と、もんもんとしているうちに「柿本さん、お願いします」と言いながら、美容師さんが現れました。大丈夫でした。
ホッとして、私はその人に、ついて行きました。
鏡の前に座ります。もうこの時から、緊張で私は固まっています。心の中で何回も練習していたオーダーの言葉を言います。そして、美容師さんが切り始めました。私はあまり鏡を見れません。チラッチラッと見るくらいです。私は目線を下にして、鏡の下の方に貼ってある、そんなに興味もないトリートメントのお知らせを、じっと眺めていました。そんな私の様子を見て悟ってくれたのか、美容師さんは、必要なことだけ聞いて、ほかのおしゃべりは一切せず、ちょきちょき切ってくれました。それが私にはありがたくて、シャンプーはしないで帰ろうと思っていたのに、「シャンプーはどうされますか」と聞かれた時に、うーん、と悩んで、この人なら任せてもいいかも……と思い、「じゃあ、お願いします」と言ってしまいました。
けれどこれが、結果的には良かったです。この時、私の頭と首は、緊張のせいか、カチコチに凝っていました。痛かったけれど、とても気持ちよかったです。
そして、ふだんリンスもあまりしていなくてゴワゴワだった私の髪の毛は、ツヤツヤになりました。
この人だったら、また来ても良いかも……と、思ったのですが、名前を聞く勇気もなく、お店を後にしました。次は何年後になるかわかりませんが、美容院で髪を切ってもらうのも、そんなに悪くないな。と思った1日でした。