映画『ブルービートル』レビュー
2023年に公開されたスーパーヒーロー映画『ブルービートル』。DCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)シリーズの第17作目です。これまでのシリーズの作品とはほとんど関係ない単独作品なので、これまでのDCEUを観たことがない方も見やすい作品になっていました。
等身大の主人公、王道のヒーロー感が魅力のヒーロー作品。今回はネタバレ有りでレビューしていきます。
ネタバレ無しのレビューは、ブログの方で紹介しているので興味がある方はこちらを是非。
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ブルービートル / 普通の青年、王道のヒーロー
※ここから下はネタバレ有りのレビューですので、ご注意ください!
「家族」は奪えない
本作で、メインで描かれていたのは「家族」でした。特に印象的なのはハイメの家族。まっすぐに愛してくれて、心配してくれて……良いことがあれば自分のことのように喜んでくれて、悪いことがあれば自分よりも悲しんでくれて。すごく素敵な家族でした。
就職が決まるかも!? という時の、恥ずかしくなるくらいの応援には思わず笑ってしまいました。「その箱開けちゃだめ!」というシーンのふざけ方は、まるで悪友! 家族でもあり、友人でもある。家族を超えた「チーム」のような絆は羨ましくなるほどです。
そんな家族に訪れる危険。チームのリーダーである父の喪失……。
本作は家族の喪失と、決して奪われることのない絆が描かれています。本作には家族を失ったキャラクターが登場しました。
1人はジェニー。彼女は父親を失い、叔母が敵になっています。安心できる場所もチームもない、孤独なキャラクターです。そんな彼女は、ハイメの家族と出会い、その「チーム」に馴染んでいって……。血のつながりはなくても「チーム」「家族」になっていくストーリーも素敵でした。
もう1人家族を失ったキャラクターが。それがカラパックスです。たった1人の家族を失い、その記憶すら失った人物。ラストシーンで取り戻した瞬間のその表情、目。ラウル・マックス・トルヒーヨの演技に胸を打たれます。
家族を失っても、誰かがいなくなっても、心の支えとなる「家族」の存在は決して無くならないストーリーが魅力的です。
王道のヒーロー
ハイメはごく普通の人間です。サイボーグのような天才的な頭脳があるわけでもなく、バットマンのようなお金持ちでもなく、スーパーマンのような生まれつきのヒーローでもない。フラッシュのようにヒーローに憧れるタイプでもないのもユニーク。私たちのようにごく普通の人生を送る、ごく普通の人物なのです。
大学を卒業して、就職に少し悩んでいるごく普通の青年。
彼が「王道のヒーロー」になれたのは、この「普通」を武器にしたからでしょう。
彼のすごいところは、「普通」のことを「普通」に選択できるところなのです。
突然すさまじいパワーを手に入れて、怖い大人たちから追いかけられたら当然怖いです。もし私だったら、自分のパワーを理解せず思いっきり攻撃してしまいそう。もしかしたら相手を殺してしまうかもしれない、なんて想像もできないでしょう。
しかし、ハイメは「相手を傷つけてしまうかも」と考えるのです。「スカラベ」に殺傷能力のある武器を提案されたら、自分の身が危険でも一度考えて「え!? ダメだ!」と拒否します。
人を殺したくない、傷つけたくない。
この普通の選択を、いつだって普通に決断できる。
まさにヒーローとしての資質です。
この正義感と誠意のある心で、彼は「ヒーロー」になっています。
そして、ハイメのそんな精神を育てたのは、やっぱり彼を支えるチーム・家族なのです。
対照的な家族
ハイメは「誓って殺しはしない」タイプのヒーローです。
対して、家族の方は……愛する人を守るためなら、立ち向かってくる敵は何をしてでもなぎ払うタイプ。
一気に切り捨てる決断をする、潔さに思わず笑ってしまいました。
ハイメとはまた違ったタイプではありますが、「殺す覚悟」「殺さない覚悟」どちらも覚悟を決めて戦うその姿は同じように美しいです。
映画「エイリアン」シリーズのオマージュ
本作で特に格好良いのは女性たち!
「エイリアン」繋がりなのか、本作には映画「エイリアン」シリーズのオマージュがたくさん詰まっています。ビートルの乗り物から降りた時の靴のアップと砂煙、なんかはまさに「エイリアン」でクルーたちが惑星に降り立ったシーンそのものでした。
でっかい機関銃な武器を持ったおばあちゃんの姿! 敵を倒すために覚悟を決めた表情と戦い方、ヒーローたちを守る格好良さ! 「エイリアン」のリプリーを連想した方も多いことでしょう。おばあちゃんの格好良さに痺れました……!
バディ作品
本作は「スカラベ」とハイメのバディ作品でもあります。
ヴェノムのような感情豊かなエイリアンとのバディではありません。どちらかというと、アイアンマンとジャーヴィスのような関係に近いかもしれません。
淡々としていて、事務的で。手加減を知らないからハイメに怒られて。融通や冗談がきかない相手です。しかし、ラストの方ではハイメの「殺す」決断を止めます。
ハイメは「殺す」人間ではない、そんな決断をするなら止めるべきだ。
スカラベがそう「考えた」ことに胸を打たれます。
もしハイメの家族が近くにいたら同じことをしたでしょう。ハイメが間違った選択をしたら止めます。
このシーンはスカラベが家族・チームの一員になった瞬間でもあるのです。
淡々とした関係だけれど、しっかりバディ作品にもなっています。
さいごに
コミカルで温かいファミリー映画でもあり、熱いバディやヒーローの物語でもある。王道のスーパーヒーロー作品です!
2023年9月2日現在、日本ではまだ公開・配信の情報はありませんが、機会があれば是非見ていただきたい映画。
きっと彼もこの先のDC作品の「心」になるヒーローです。