【考察】映画『モアナと伝説の海』 / 導くプリンセス ※ネタバレ有
2016年に公開された映画『モアナと伝説の海』。主人公モアナが村を救うため戦うアドベンチャー映画です。
ストーリーも映像も素敵ですが、私が何より惹かれたのはキャラクターたちの性格と関係、その変化! 今回はそのキャラクターの役割について少し考察していきます。
※映画『モアナと伝説の海』のネタバレがあります
【考察①】「導く人」モアナ
モアナは一見ディズニープリンセスには見えないキャラクターかもしれません。
小さな島に住む16歳の少女。村長の1人娘でもあります。農業や漁業といった役割は担っておらず、この村全体をまとめる仕事をしていました。父親のようにいつか村を導くようになるでしょう。そう、彼女はこの島の「プリンセス」なのです。
貴族や王族の煌びやかな社交界にいるプリンセスではありませんが、民に慕われ信頼されている次のリーダー、プリンセス。それがモアナです。ある意味正統派のプリンセスだと言えるでしょう。
幼いモアナが弱いカメを海へ導くシーンから本作は始まります。彼女は「人を導く」人。生まれながらに「導く」ことを役割づけられた人なのです。実際、成長したモアナは村の中でトラブルが起きたらどこへでも飛んで行って解決策を考え付く人物に成長しました。知能のないトリでさえも、モアナに導かれて変化します。彼女はまさに理想のリーダーです。
だからこそ、モアナは海に出ることを決心しました。もちろん、彼女自身が外に出たいと心の底から望んでいたから、という理由もあります。しかし、もし村が安泰でみんながモアナを必要としていたら、モアナは外に出なかったでしょう。自分がこの村を導かなくてはいけないと、理解していましたから。
しかし、村は、島は、世界は、どんどん死んでいっています。誰かが外に行かなければならない、誰かが救わなくてはいけない。だから、モアナは外へ飛び出したのです。
【考察②】誰よりも「人間」らしいマウイ
本作のヒーローはマウイ。彼は特別な能力を持っていて、誰よりも強く、誰よりも人を超えた存在です。しかし、誰よりも弱く、誰よりも人間らしい人物でもあります。
モアナは勇気も正義感もある人物。観ている誰もがモアナを好きになります。しかし完璧すぎて、感情移入しやすい人物だとは言いにくいです。
一方で、マウイはどうでしょう。マウイには腹立つ一面も、弱くて臆病な部分もあります。怖いから攻撃的になる、図星だから思わず開き直って「嫌な奴」な態度を取ってしまう。傷付いているのを気付かれたくなくて。自分でも、傷ついているのを自覚したくなくて。自分を守るために、「皆の嫌われ者」になってしまう。子どものように愛されたいと願っているのにどうしたら良いのか分からない子ども。それがマウイです。
マウイの体にはタトゥーがたくさん彫られています。それらはマウイが自ら彫ったわけではなく、大きな出来事等があると、自然と体に浮き上がってくるのだとか。嬉しかったこと、悲しかったこと……今のマウイを形作った物事がここで語られているのです。タトゥーはマウイ自身だと言えるでしょう。生まれた時の悲しい記憶を髪の毛で隠しているのも印象的。
反省しているのに思わず茶化してしまうマウイを見ると、腹が立ちますが、それと同時に共感もしてしまいます。
だから、モアナよりもマウイの方が感情移入できるキャラクターだと言えるのではないでしょうか。
マウイはかなり等身大の「人間」です。本当のマウイの願いは? 彼はどうなりたかったのか? 「誰よりも強いヒーロー」であると同時に「愛されたい子ども」でもあるマウイも、導いてもらう必要があります。
そんなマウイが出会ったのがモアナです。
【考察③】マウイとミニマウイ
ミニマウイは、マウイが表には出せない「本音」や「本心」なのかもしれません。「面倒だ」と言いながらも本当はモアナに手を貸してあげた方が良いと思っていたり、強がっていながら本心では「怖い」と思っていたり……。
そう考えると、後半で「俺も愛してるよ」とミニマウイをトントンたたく姿の印象も変わって見えます。親に捨てられ、人々に何をやっても愛してもらえなくて……というマウイが、そんな自分を抱きしめて「愛している」と肯定するようになる、その成長の過程も魅力的です。
【考察④】子どもから大人へ
リーダー、プリンセス、導き手……しかし、その役割は今のモアナにはあまりに重すぎます。モアナはしっかりしているけれど、たった16歳の少女です。
彼女は次期村長として、村全体を見る役割を担っています。そのため、漁業の仕事も農場の仕事をしていません。まんべんなく知識はあっても「経験」が圧倒的に足りていないのです。海に憧れているけれど、船の扱いは未熟なまま。その状態で海に乗り出してしまいました。
知識は浅く、でも無謀な勇気と希望がある。これは「子ども」の特徴でもあります。
彼女は「導き手」ではありますが、それと同時に誰かに導いてもらわなければならない子どもでもあるのです。彼女だって、自分は何者で、何が出来て、何をすべき人物なのか、「大人」に聞きたいと願っています。
どうやって、誰に聞けば良い? 誰が彼女の行くべき場所を導いてくれるのか?
ただの自己紹介だった「私はモトゥヌイのモアナ」。
それが、心の底から理解した「私はモトゥヌイのモアナ」という誇りを持った言葉になるまでの成長物語が素敵です。
モアナは自分を知り、そして自分自身をも導いていきます。
モアナは未熟な「ヒーロー」なのです。その彼女がいかにして、本当の「ヒーロー」になるのか? どう成長して「プリンセス」になるのか?
本作はモアナのオリジン。最初の物語です。
まとめ
モアナとマウイは、互いが師であり、互いに教わり、導き合う。恋愛とはまた別の絆で結ばれます。キャラクターの役割と性格のバランス、そして彼らの関係の変化も興味深いです!
導き導かれ、成長するキャラクター達の物語。彼女たちのように、自分自身を導き媚びだしたくなるストーリーは何度見ても胸が熱くなります。
こう成長したモアナたちは続編ではどんな冒険をみせてくれるのか