母の四十九日
9月の帰国から、夫の定年退職の手続きで一度アメリカに帰り、その10日後に、また2週間の帰国と言うドタバタな旅が続いている。
前回は、飛行機のエンジントラブルで4時間も機内待機した後、フライトはキャンセルとなり、翌日のチャーター便に変更された。しかし、その便では予定していた夫の手続きに間に合わないことが判明。焦りながらも、必要書類をオンラインで送り無事に事なきを得た。
アメリカへ戻る必要がなくなったと感じていた矢先、義妹から義父が肺がんで再入院したとの連絡が入った。
2日後には亡くなったが、お見舞いに行き最後の大切な時間を一緒に過ごすことができた。
Everything happens for a reason no matter what it is.
時が過ぎると、旅で見た風景は思い出せないかもしれないけれど、そこで何が起こったのか、誰に会ったのかは鮮明に記憶に残るのが不思議だ。
このエピソードも、あの時はこんな事があったな...と後から思い出すだろう。
今回もそんな旅の始まりだった。
10月13日
空港でぼんやりしていると、素敵なピアノの音が耳に入った。見ると、前回のチャーター便でのフライトアテンダントさんが演奏されている。
あの日のチャーター便はガラガラで、1日遅れで出発する日本の高校生たちを励ます声が印象に残っていたので彼のことは覚えていた。今回のフライトもご一緒らしいから、フライト前の演奏に感謝しながら「では後で!」とゲートに向かう。
機内に入り、隣に座った感じの良い方と挨拶を交わすと、彼はフロリダ在住で大型ハリケーン「ミルトン」の影響でフライトがキャンセルになり、この便に変更されたとのことだった。
「それは大変でしたね。ずっとニュースで見ていましたよ。実は前日まで隣が空席だったから何故かなって。ご無事で何よりです。」
と言うと
「わっ、本当なら広々と座れたのにね!」
と笑顔で、でも少し済まなそうに言われ、慌てて
「いえいえ!大丈夫です〜!」
と話を続けると、偶然にも最終目的地は福岡で同じ便、出身も私の地元の近くだった。
色んな偶然が重なると、良い旅の始まりを感じる。
年に2回帰国されている彼は、必ず空港にお兄様が迎えに来られて、実家で待っている義姉さんの手料理がとても楽しみなのだそうだ。
「でも、あまり長くいると迷惑になるからね。」と言われて共感し、2人で笑った。
聞いているだけで温かいご家族の様子が伝わってきて笑顔になる。
結局、このフライトは遅れて到着し、乗り換えには間に合わず次の便になったけれど、車椅子で移動されていた彼の姿はそこにはなかった。
今回の帰国で福岡に立ち寄ったのは、全身DWIBSの人間ドックを受けるためで、糸島にあるこの病院を選んだ理由は、肺のCT、心臓のMRA、カルシウムスコアCTも追加で受診できるから。
甲状腺の専門医に「65歳までに心不全になっていましたよ」と言われたことが気になっていた。
実は旅行の計画を立てる際、飛行機のチケットを購入した後でホテル料金が高いことに気づき調べたら、その週末は連休で病院の予約をしようとしていた月曜日は休み。少し困惑したけれど、逆に到着翌日にゆっくりできることになり体力的には助かった。もしかしたら、そうなるように導かれていたのかも。
(旅はポジティブに!)
無事に人間ドックを終え実家に帰ると、帰国を予感していたかのように市役所から6通の書類が届いていた。
これは9月に手続きした際の返信だった。全てが順調に進み、四十九日も無事に迎えることができた。
こうした偶然の重なりに感謝すると共に、少しずつ前に進んでいることを実感する。
旅の終わりは新たな始まりでもあり、心の整理をする大切な時間となる。
あっという間の10日間。
帰りの新幹線口まで送ってくれた甥っ子が、幼い時に見せたような寂しい顔をして手を振っていた。
また直ぐに会えるよ。
次の旅は「姉の三回忌」だ。